行秋や身に引まとふ三布(みの)蒲団(芭蕉)、
の、
三布蒲団、
は、
三幅の大きさの蒲団、
の意。
布(の)、
は、
布などの幅を測る単位、
で、
一布(一幅)は約三六センチ。標準 は敷蒲団が三布で掛蒲団は四~五布。ここは掛蒲団なのでかなり狭い、
と注記(松尾芭蕉(雲英末雄・佐藤勝明訳註)『芭蕉全句集』)がある。
の、
は、
幅、
布、
と当て、和名類聚抄(平安中期)に、
幅、能、
平安後期の漢和辞書『字鏡』(じきょう)に、
幅、ノ、
とある。
一幅、
は、普通鯨尺で、
八寸(約三〇センチメートル)ないし一尺(約三八センチメートル)の幅
をいう(精選版日本国語大辞典)とある。「鯨尺」は、もと、鯨のひげで作ったところから、
鯨差(くじらざし)、
ともいい、
一尺が曲尺(かねじゃく)の一尺二寸五分(約三八センチメートル)にあたる長さを規準にしてつくったもの、
で、
布製のものの幅(はば)を数える単位、
として(大辞林)、和裁に用いる(精選版日本国語大辞典)とある。
の、
の語源は、
法(のり)の意(大言海・日本釈名)、
布のひとはたりの義で、ヌノの反(名語記)、
ヌノの略(名言通)、
などとある(大言海・日本語源大辞典)が、
一畐(ヒトノ)の一部(ひとつほ)の綾の羅(うすはた)等(日本書紀)、
とあり、普通に考えれば、
ぬの(布)の略、
ではあるまいか。ただ、「布(ぬの)」は、和名類聚抄(平安中期)に、
布、布能(ぬの)、織麻及紵(いちび)為帛、
とあり、
絹に対し、植物の繊維(麻・苧(からむし)等)で織った織物、
をいい、
延幅(ノビノ)の意と云ふ(大言海)、
縫幅の義(和訓栞)、
では、「の(幅)」を前提にしているので、
のぬ⇔の、
と戻ってしまう。他には、
ヌメリノビ(滑延)の義(名言通・国語の語根とその分類=大島正健)、
ヌハヌ(不縫)の義(日本釈名)、
ナツノソ(夏衣)の反(名語記)、
等々ではっきりしない。考えられるのは、巾の単位である、
幅(の)、
と、その対象である、
布(ぬ)、
が同一視されていたということではあるまいか。
因みに、
一幅、
は、
ひとの、
と訓むと、
布帛類の幅(はば)、
を表わすが、
ひとはば、
というと、
織物の幅、
で、織によって異なるが、
和裁では並幅(鯨尺で九寸五分)、広幅(同一尺九寸)、
があり、錦は、
二尺五寸、金襴二尺四寸、
などがあり(精選版日本国語大辞典)、
いっぷく、
と訓むと、
書画などの掛け軸の一つ、
あるいは、
一つの画題、
を言う(仝上)。
なお、「幅」の語源は、
端端(ハバ)の義、或は、はたばり(機張)の略かと云ふ(大言海)、
端から端までの距離の義(国語の語根とその分類=大島正健)、
羽端の義(和訓栞)、
ハは絹布をいう羽の意、ハマ(羽間)の義(名言通)、
ハタハリ(機張)の義、またハヘ(端方)の義(言元梯)、
とある(日本語源大辞典)。
はたばり(機張)、
は、類聚名義抄(11~12世紀)に、
幅、はたばり、
とあり、
みずうみに秋の山辺をうつしてははたばり広き錦とぞ見る(拾遺集)、
と、
布帛の一幅(ヒトハタ)、幅の広さ、略して、はば、
とある(大言海)ので、
はば、
は、
はたばり(幅員)、
といっていたものの略と考えるのが妥当のようだ。
はたばり、
は、
機張の義か、
とあり(大言海)、機織りと関係があるらしいが、はっきりしない。
(「幅」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B9%85より)
「幅」(フク)は、
形声、畐(フク)は、壺に酒をつめたさま。幅は、それを音符とし、巾(ぬの)を加えた字で、ひざや脛にぴたりと当てるぬの。くっつく意を含む。ひざ当てやすね当ては、織り布の横はばのままの寸法であったので、布地の意となった、
とあり(漢字源)、
織物の横はば、転じて布地、
とあり、
織物の横幅は、普通は、二尺二寸(周代の一尺は22.5センチ)、
とある(仝上)。で、「全幅」というように幅の意で使うが、
一幅(いっぷく)、
というと、
書画や掛け軸の数える単位、
でもある(仝上)。別に、
会意兼形声文字です(巾+畐)。「頭に巻く布きれにひもをつけて帯にさしこむ」象形(「布きれ」の意味)と「神に捧げる酒たる」の象形(「りっぱな財産・ゆたかな」の意味)から、ゆたかな布・幅広い布を意味し、そこから、「(布の)はば」を意味する「幅」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1444.html)。
なお、「幅」の意で使う、「巾」(漢音キン、呉音コン、慣用コ)は、「巾子(こじ)」で触れたように、
象形文字。三すじ垂れ下がった布きれを描いたもの。布・帛(ハン)・帆などに含まれ、布を表す記号に用いる、
とある(漢字源)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95