2023年12月13日

の(幅)


行秋や身に引まとふ三布(みの)蒲団(芭蕉)、

の、

三布蒲団、

は、

三幅の大きさの蒲団、

の意。

布(の)、

は、

布などの幅を測る単位、

で、

一布(一幅)は約三六センチ。標準 は敷蒲団が三布で掛蒲団は四~五布。ここは掛蒲団なのでかなり狭い、

と注記(松尾芭蕉(雲英末雄・佐藤勝明訳註)『芭蕉全句集』)がある。

の、

は、

幅、
布、

と当て、和名類聚抄(平安中期)に、

幅、能、

平安後期の漢和辞書『字鏡』(じきょう)に、

幅、ノ、

とある。

一幅、

は、普通鯨尺で、

八寸(約三〇センチメートル)ないし一尺(約三八センチメートル)の幅

をいう(精選版日本国語大辞典)とある。「鯨尺」は、もと、鯨のひげで作ったところから、

鯨差(くじらざし)、

ともいい、

一尺が曲尺(かねじゃく)の一尺二寸五分(約三八センチメートル)にあたる長さを規準にしてつくったもの、

で、

布製のものの幅(はば)を数える単位、

として(大辞林)、和裁に用いる(精選版日本国語大辞典)とある。

の、

の語源は、

法(のり)の意(大言海・日本釈名)、
布のひとはたりの義で、ヌノの反(名語記)、
ヌノの略(名言通)、

などとある(大言海・日本語源大辞典)が、

一畐(ヒトノ)の一部(ひとつほ)の綾の羅(うすはた)等(日本書紀)、

とあり、普通に考えれば、

ぬの(布)の略、

ではあるまいか。ただ、「布(ぬの)」は、和名類聚抄(平安中期)に、

布、布能(ぬの)、織麻及紵(いちび)為帛、

とあり、

絹に対し、植物の繊維(麻・苧(からむし)等)で織った織物、

をいい、

延幅(ノビノ)の意と云ふ(大言海)、
縫幅の義(和訓栞)、

では、「の(幅)」を前提にしているので、

のぬ⇔の、

と戻ってしまう。他には、

ヌメリノビ(滑延)の義(名言通・国語の語根とその分類=大島正健)、
ヌハヌ(不縫)の義(日本釈名)、
ナツノソ(夏衣)の反(名語記)、

等々ではっきりしない。考えられるのは、巾の単位である、

幅(の)、

と、その対象である、

布(ぬ)、

が同一視されていたということではあるまいか。

因みに、

一幅、

は、

ひとの、

と訓むと、

布帛類の幅(はば)、

を表わすが、

ひとはば、

というと、

織物の幅、

で、織によって異なるが、

和裁では並幅(鯨尺で九寸五分)、広幅(同一尺九寸)、

があり、錦は、

二尺五寸、金襴二尺四寸、

などがあり(精選版日本国語大辞典)、

いっぷく、

と訓むと、

書画などの掛け軸の一つ、

あるいは、

一つの画題、

を言う(仝上)。
なお、「幅」の語源は、

端端(ハバ)の義、或は、はたばり(機張)の略かと云ふ(大言海)、
端から端までの距離の義(国語の語根とその分類=大島正健)、
羽端の義(和訓栞)、
ハは絹布をいう羽の意、ハマ(羽間)の義(名言通)、
ハタハリ(機張)の義、またハヘ(端方)の義(言元梯)、

とある(日本語源大辞典)。

はたばり(機張)、

は、類聚名義抄(11~12世紀)に、

幅、はたばり、

とあり、

みずうみに秋の山辺をうつしてははたばり広き錦とぞ見る(拾遺集)、

と、

布帛の一幅(ヒトハタ)、幅の広さ、略して、はば、

とある(大言海)ので、

はば、

は、

はたばり(幅員)、

といっていたものの略と考えるのが妥当のようだ。

はたばり、

は、

機張の義か、

とあり(大言海)、機織りと関係があるらしいが、はっきりしない。

「幅」 漢字.gif

(「幅」 https://kakijun.jp/page/1243200.htmlより)


「幅」 『説文解字』(後漢・許慎)・漢.png

(「幅」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B9%85より)

「幅」(フク)は、

形声、畐(フク)は、壺に酒をつめたさま。幅は、それを音符とし、巾(ぬの)を加えた字で、ひざや脛にぴたりと当てるぬの。くっつく意を含む。ひざ当てやすね当ては、織り布の横はばのままの寸法であったので、布地の意となった、

とあり(漢字源)、

織物の横はば、転じて布地、

とあり、

織物の横幅は、普通は、二尺二寸(周代の一尺は22.5センチ)、

とある(仝上)。で、「全幅」というように幅の意で使うが、

一幅(いっぷく)、

というと、

書画や掛け軸の数える単位、

でもある(仝上)。別に、

会意兼形声文字です(巾+畐)。「頭に巻く布きれにひもをつけて帯にさしこむ」象形(「布きれ」の意味)と「神に捧げる酒たる」の象形(「りっぱな財産・ゆたかな」の意味)から、ゆたかな布・幅広い布を意味し、そこから、「(布の)はば」を意味する「幅」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1444.html

「巾」 漢字.gif


なお、「幅」の意で使う、「巾」(漢音キン、呉音コン、慣用コ)は、「巾子(こじ)」で触れたように、

象形文字。三すじ垂れ下がった布きれを描いたもの。布・帛(ハン)・帆などに含まれ、布を表す記号に用いる、

とある(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:49| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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