凩に匂ひやつけし帰花(かへりばな)(芭蕉)、
の、
帰(り)花、
は、
返り花、
とも当て、
初冬の少し暖かい小春日和に、草木が時節はずれの開花をすること、
とあり(松尾芭蕉(雲英末雄・佐藤勝明訳註)『芭蕉全句集』)、
冬の季語、
とされ、
返り咲、
狂咲き、
二度咲き、
狂花、
忘花、
などともいう(大言海)。「返り咲」は、
花に云はば、又集る春や、かへり咲き(小町踊)、
と、
人事に、再び栄える、
いわゆる、
カムバック、
の意でも使う(仝上・精選版日本国語大辞典)が、その
復帰・再起・復職・帰任、
といった意味での、限定的な使い方に、
御身はまたまた廓 (くるわ) に帰り花(浮世草子「御前義経記」)、
と、
身請けされた遊女が、二度の勤めに出る、
意や、
歌舞伎役者などが2度目の勤めに出る、
意で使う(広辞苑・大辞林)。
帰花、
は、
信濃櫻のかへり花の枝にさし(飛鳥井雅親)、
という使われ方はあっても、
あはれてふことをあまたにやらじとや春におくれてひとり咲くらむ(古今集)、
とあるのを見かけるくらいで、
和歌や連歌には詠題としてはない、
らしく(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%B0%E3%82%8A%E8%8A%B1)、俳諧にいたって盛んに作られたらしい。
帰花、
は、
葉腋(ようえき)に花芽が完成したあと、日照量が多くて気温が高く植物の養分や水分の吸収が盛んな時期に、物理的障害や生理的充足を受けることにより生ずる、
とあり(日本大百科全書)、落葉樹では、
とくに気温が高く日照の豊富な9月ごろに、台風や潮風などで葉が傷ついたり落ちたりして葉の役目をなさなくなると、生育途中のため、急激に新葉が伸びると同時に花芽も作動して開花する、
とある(仝上)。秋に多くおこる返り咲きは、春のように満開になることがない。これは、
炭酸同化作用によってつくられたデンプンが十分に糖化していないためであり、春に満開となる植物は、低温が長く続く冬の休眠期間を経過するためである、
という(仝上)。
返り咲き、
のよくみられるのは、
ナシ、リンゴ、ウメ、サクラ、
などバラ科の落葉植物、
フジ、ツツジ、
に多い(仝上)とある。
「花」(漢音カ、呉音ケ)は、「はな」でも触れたが、
会意兼形声。化(カ)は、たった人がすわった姿に変化したことをあらわす会意文字。花は「艸(植物)+音符化」で、つぼみが開き、咲いて散るというように、姿を著しく変える植物の部分、
とある(漢字源)。「華」は、
もと別字であったが、後に混用された、
とあり(仝上)、また、
会意兼形声文字です。「木の花や葉が長く垂れ下がる」象形と「弓のそりを正す道具」の象形(「弓なりに曲がる」の意味だが、ここでは、「姱(カ)」などに通じ、「美しい」の意味)から、「美しいはな」を意味する漢字が成り立ちました。その後、六朝時代(184~589)に「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「左右の人が点対称になるような形」の象形(「かわる」の意味)から、草の変化を意味し、そこから、「はな」を意味する「花」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji66.html)が、
かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、
として(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8A%B1)、
形声。「艸」+音符「化」。「華」の下部を画数の少ない音符に置き換えた略字である、
とされ(仝上)、
形声。艸と、音符(クワ)とから成る。草の「はな」の意を表す。もと、華(クワ)の俗字、
とある(角川新字源)。
(「華」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8F%AFより)
「華」(漢音カ、呉音ケ・ゲ)は、「花客」で触れたように、
会意兼形声。于(ウ)は、丨線が=につかえてまるく曲がったさま。それに植物の葉の垂れた形の垂を加えたのが華の原字。「艸+垂(たれる)+音符于」で、くぼんでまるく曲がる意を含む、
とあり(漢字源)、
菊華、
と、
中心のくぼんだ丸い花、
を指し、後に、
広く草木のはな、
の意となった(仝上)とする。ただ、上記の、
会意形声説。「艸」+「垂」+音符「于」。「于」は、ものがつかえて丸くなること。それに花が垂れた様を表す「垂」を加えたものが元の形。丸い花をあらわす、
とする(藤堂明保)説とは別に、
象形説。「はな」を象ったもので、「拝」の旁の形が元の形、音は「花」からの仮借、
とする説もある(字統)。さらに、
会意形声。艸と、𠌶(クワ)とから成り、草木の美しい「はな」の意を表す、
とも(角川新字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8F%AF)、
会意兼形声文字です。「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「木の花や葉が長く垂れ下がる象形と弓のそりを正す道具の象形(「弓なりに曲がる」の意味)」(「垂れ曲がった草・木の花」の意味から、「はな(花)」を意味する「華」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1431.html)ある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95