2024年01月03日

玉づさ


秋風に初雁が音ぞ聞こゆなる誰が玉づさをかけて来つらむ(古今和歌集)、

の、

たまづさ、

は、万葉集では、

たまづさの、

という形で、

使ひ、

にかかる枕詞であり、さらに、

使者そのもの、

の意味になったが、古今集から、

使者が携えてくる手紙、

の意となる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)と注記がある。なお、

雁が手紙を運ぶ、

は、いわゆる

雁信、

の故事による(仝上)とある。

雁信、

は、

雁札(がんさつ)、

とも、

雁書、
雁文、
雁素(がんそ)、
かりのたより、

等々ともいい、

漢の蘇武(そぶ)が匈奴(きょうど)に捕えられたとき雁の足に手紙を付けて祖国に無事を知らせたという「漢書」蘇武伝の故事から、

音信の書、
手紙、

の意で使う(仝上・精選版日本国語大辞典)。

たまづさ、

は、

玉梓、
玉章、

とあてる。その由来は、

たまづさは飛翔(とぶつばさ)の略転(ハヤツバサ、ハヤブサ)。古事記、軽太子の御歌に、「阿麻陀牟(アマダム)、軽嬢女(かるのおとめ)」(雁にかけたり)、又「阿麻登夫(アマトブ)、鳥も使ぞ」(使は速く行くを主といれば、鳥を使いとあるなり)(大言海)、
タマツサ(賜従者)の義(言元梯)、
タマツタヘクサ(奇伝草)の義(柴門和語類集)、

等々の諸説もあるが、

タマアヅサ(玉梓)の略(万葉集類林・類聚名物考・円珠庵雑記・玉勝間・和訓栞)、

の説が大勢で、タマは美称、

で(広辞苑・小学館古語大辞典)、

梓の杖は使者の持ち物だった。古く文字のない社会では使者が伝言などを口で伝えたところから(岩波古語辞典)、
古代、手紙を梓の木などに結びつけて使者が持参したことから(広辞苑・大辞林)、

と、

梓、

の解釈には差があるが、

こもりくの泊瀬の山に神さびにいつきいますと玉梓(たまづさ)の人そ言ひつる(万葉集)、

とあるので、

便りを運ぶ使者の持つ梓(あずさ)の杖、

が、転じて、

その杖を持つ人、
使者、

の意となり、転じて、

秋風にはつかりがねぞきこゆなるたがたまづさをかけてきつらん(古今集)、

と、

手紙、書簡、便り、

また、

文章、

の意となり、さらに、後には、

日比秘蔵の猫の首玉に、こがるるとの玉章(タマヅサ)をむすび付おこしけるを(判記「役者二挺三味線(1702)」)、

と、

手紙の真中を捻(ひね)り結んだもの、

という、多く、

恋文、
艶書、

にいうようになる(精選版日本国語大辞典・大言海)。江戸後期の『嬉遊笑覧』には、

艶書をば、、文の真中をねじりて結ぶあり、俗に是を玉づさと云、

とある。さらに、形が結び文ににていることから、

カラスウリの種子、

さらに転じて、

からすうり(烏瓜)の異名

ともなる(仝上)。

カラスウリ.jpg


玉章豆腐(たまずさどうふ)、

というと、

豆腐を封書のように薄く細長く切って鉢の水に浮かべたもの、

玉章結び(たまずさむすび)、

というと、

吉弥結(きちやむすび)、

のことで、

延宝・元禄の頃の女形役者、上村吉弥の結びたるより名とす、

とあり(大言海)、

背にて二つ結びにして、其両端を、唐犬の耳を垂れたる如く垂らしおくもの、

とある(仝上)が、

大幅の長帯の桁目(くけめ 折ってある布と布を縫い合わす縫目)の角に鉛の重石を入れ、結んだ両端をだらりと垂らす、

がわかりやすい(岩波古語辞典)。

吉弥結び.bmp

(吉弥結び 「見返り美人図(菱川師宣)大辞泉より)

なお、「梓」は、「梓の真弓」で触れたように、

カバノキ科の落葉高木、

で、

古く呪力のある木とされた、

とあり(岩波古語辞典)、古代の「梓弓」の材料とされ、和名抄には、

梓、阿豆佐、楸(ひさぎ、きささげ)之属也、

とある。この「梓」には、古来、

キササゲ、
アカメガシワ、
オノオレ、
リンボク(ヒイラギガシ)

などの諸説があり一定しなかったが、白井光太郎氏による正倉院の梓弓の顕微鏡的調査の結果などから、

ミズメ(ヨグソミネバリ)、カバノキ科の落葉高木、

が通説となっている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A2%93)とある。

「梓」 漢字.gif


「梓」(シ)は、「梓の真弓」で触れたように、

会意兼形声。辛(シン)は、鋭い刃物の象形で、切る意を表わす。梓は「木+音符辛」で、刃物で切ったり刻んだりするのに適した木、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(木+宰の省略形)。「大地を覆う木」の象形と「入れ墨をする為の針」の象形(「祭事や宴会の為に調理する」の意味)から、「木材で各種の器具を作る職人、建具師」を意味する「梓」という漢字が成り立ちました。また、「あずさの木」、「版木(はんぎ)」の意味も表すようになりました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji324.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:57| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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