神無月時雨もいまだ降らなくにかねてうつろふ神奈備の森(古今和歌集)、
の、
神奈備の森、
は、もともと普通名詞で、
神が降りる森、
の意で、各地にあるが、ここは、固有名詞とすれば、
竜田川に近い奈良県生駒郡斑鳩町の森、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。これは、
ちはやぶる神奈備山のもみぢ葉に思ひはかけじうつろふものを(古今和歌集)、
の、
神奈備山、
と同じである。
(三室(御室)山 https://www.pref.nara.jp/27378.htmより)
神奈備(かんなび)、
は、
神名火、
神名樋、
甘南備、
等々とも当て(岩波古語辞典・日本大百科全書)、
な、
は、連帯助詞で、
の、
の母音交替形、
で(仝上)、「神奈備」の由来については、
「かむなび」と表記。「かん」は「神」、「な」は「の」の意、「び」は「辺」と同じく「あたり」の意か(精選版日本国語大辞典)、
神(かん)の杜(もり)の約なる、カンナミの転(大言海)、
神の山の意。カムはカミ(神)の形容詞的屈折、ナはノ、ビはもり、むれなどという山の意の語が融合したミの音転(万葉集辞典=折口信夫)、
神嘗の意で、神をまつった所をいうか。また、カンノモリ(神社)の約であるカンナミの転か(和訓栞)、
カミナラビ(神双)の義(古今集注)、
カミノベ(神戸)の転、戸は家の義(延喜式詞解)、
朝鮮語で木をnamuというところから神木の義(国語学通論=金沢庄三郎)、
朝鮮語で山をモイというところから、カム(神)ノモイの約か(日本古語大辞典=松岡静雄)、
等々諸説あるが、
〈かんな〉を〈神の〉の意として〈び(備、火、樋)〉の原義を論じるものが多く、〈辺〉に通じる〈場所〉の意、
といった意味になり(世界大百科事典)、
神をまつる神聖な場所、
神のいらっしゃる場所、
の意と思われる。古代信仰では、
神は山や森に天降(あまくだ)るとされたので、降神、祭祀の場所である神聖な山や森、
をいうところからきている(精選版日本国語大辞典)。したがって、ひいては、
神社のあるところ、
という意にもなる(岩波古語辞典)。固有名詞ではないが、特に、
龍田、
飛鳥、
三輪、
が有名で、《延喜式》の出雲国造神賀詞(かむよごと)には、
大御和乃神奈備、
葛木乃鴨乃神奈備、
飛鳥乃神奈備、
とあり、万葉集にも、
三諸乃かんなび山、
かんなびの三諸(之)山(神)、
かんなびの伊波瀬(磐瀬)之社、
が見え、《出雲国風土記》にも、
意宇郡の神名樋野、
秋鹿郡の神名火山、
楯縫郡の神名樋山、
出雲郡の神名火山、
《延喜式》神名帳に、
かんなび神社、
《三代実録》に、
かんなび神、
等々があって、いずれも、
神体山そのものか神体山に関係ある神または神社、
をさしている(仝上・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E5%A5%88%E5%82%99)。その山容が、
円錐(えんすい)形または笠(かさ)形の美しい姿をして目につきやすいので、神霊が宿るにふさわしいもの、
と考える(大場磐雄)説もある。
神奈備山、
は、
竜田川もみぢ葉流る神奈備の三室の山に時雨降るらし(古今和歌集)、
神奈備の三室の山を秋行けば錦たちきる心地こそすれ(仝上)。
と、
奈良県斑鳩(いかるが)町にある、
三室山(みむろやま)の異称、
であり、また、奈良県明日香村にある
三諸山(みもろやま)の異称、
でもある。
三輪山(みわやま)、
は、奈良県桜井市にあるなだらかな円錐形の山、
三諸山(みもろやま)、
ともいい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%BC%AA%E5%B1%B1)、大和国一宮・大神神社の神奈備(神体山)。大神神社は山を御神体とし、本殿がない(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E5%A5%88%E5%82%99)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95