山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬ紅葉なりけり(古今和歌集)、
の、
しがらみ、
は、
柵、
笧、
と当て、
川の流れをせき止める柵、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
(しがらみ 広辞苑より)
川の流れをせきとめるため、杭(くい)を打ち渡し、竹・柴などを横にからませたもの、
である(学研古語辞典)。それをメタファに、
袖のしがらみせきあへぬまで……尽きせず思ひ聞こゆ(源氏物語)、
と、
物事をせき止めるもの、
引き止めるもの、
まとわりつくもの、
じゃまをするもの、
などの意で使う(日本国語大辞典)。
しがらみ、
は、動詞、
しがらむ、
の名詞形で、
しがらむ、
は、
飛火(とぶひ)が岳に萩の枝(え)をしがらみ散らしさを鹿は妻呼び響(とよ)む(万葉集)、
山遠き宿ならなくに秋萩をしがらん鹿の鳴きも来ぬかな(「貫之集(945頃)」)、
と、
からみつける、
まといつける、
からませる、
意だから、それをメタファに、
うらみんとすれどもかれがれの、かづらばかりぞ身にそひて、しがらむいまのわが心、せめておもひもなぐさむと(御伽草子「さいき(室町末)」)、
と、
からみつく、
からまる、
もつれる、
かかわりをもつ、
でも使うが、
涙川流るる跡はそれながらしがらみとむる面影ぞなき(「狭衣物語(1069~77頃)」)、
と、
しがらみを設ける、
しがらみを設けて、水流などをせき止める、
意でもあり、当然、
ひめ君も思ひ川、したゆくみづとかよへ共、さすが人目のしがらみて(浄瑠璃「十二段(1698頃)」)、
と、
さえぎり止める、
防ぎとめる、
意でも使う(精選版日本国語大辞典)。この由来は、
シは添えた語(万葉集類林)、
サ変動詞「す」と絡むの複合語、
と、からぐ(絡)と同根とされる、
巻きつく、
意の、
絡(搦)む、
からきているとする説があり、
水流をせき止めるために杭を打ち渡して、柴・竹などを結びつけることをセキカラム(塞き絡む)といった。セキ[s(ek)i]の縮約でシガラム(柵む)になり、その名詞形がシガラミ(柵)である、
とする(日本語の語源)し、
シキガラミ(繁絡)の約(大言海)、
も、同系統に思える。他の、
シバガラミ(柴搦)の義(名言通・和訓栞)、
シハカラキ(柴搦)の略転(言元梯)、
ヒシカラミ(菱搦)の上略(柴門和語類集)、
足からみの略(類聚名物考)、
イシカラミ(石籠)の義(日本釈名)、
も、やはり「からむ」と関わる。「からむ」を強調している意から見ると、
動作を行う、
意の、
シ(為)、
との複合語説が一番説得力がある気がする。
「柵」(漢音サク・サン、呉音シャク・セン)は、
会意兼形声。「木+音符册(サク 長短不揃いな木簡を並べた短冊)」。じくざぐした木のさく、
とある(漢字源)。別に、
形声。「木」+音符「冊 /*TSEK/」。「さく」を意味する漢語{柵 /*tshreek/}を表す字、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9F%B5)、
会意形声。木と、冊(サク)(木片を並べてとじた形)とから成る、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(木+冊)。「大地を覆う木」の象形と「文字を書きつける為に、ひもで編んだ札」の象形(「並べた札」の意味)から、「木や竹を編んで作った垣根(家や庭の区画を限るための囲いや仕切り)」を意味する「柵」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji2129.html)ある。
「笧」(サク)、
は、
文字を記すための細長い竹の札、
の意で、
冊、
と同義、
はかりごと、計画、
の意で、
策、
と同義(https://kanji.jitenon.jp/kanjir/8793.html)とある。
「柵」も、「笧」も、竹の「冊」とつながるようである。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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