あらたま
あらたまの年のをはりになるごとに雪もわが身もふりまさりつつ(古今和歌集)、
の、
あらたまの、
は、
「年」「月」などにかかる枕詞、
である(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
あらたま、
は、
粗玉、
荒玉、
新玉、
璞、
等々と当て(岩波古語辞典・大言海・広辞苑)、文字通り、
掘り出したままで、堅くてまだ磨かないごつごつした玉、
の意である。和名類聚抄(平安中期)には、
璞、阿良太万(あらたま)、玉未理也、
とある。とすると、この場合の、
あら、
は、
粗、
荒、
と当てる、
あら、
で、
柔き、
和(にご・にき)、
に対し(大言海・岩波古語辞典)、
アラカネ(鉄)・アラタマ(璞)アラト(硫)などのアラ、
で、
物が生硬・剛堅で、烈しい意、
を表すので、剛(こわ)き意で、
毛の荒物、毛の和物(ニゴモノ)、
荒炭、和炭(ニゴスミ)、
と対比して使ったり、烈しい意で、
荒御霊(アラミタマ)、和御霊(ニギミタマ)、
と対比して使い、さらには、そこから広げて、
荒波、荒海、
等々と使う(仝上)。
あら、
には、いまひとつ、
こまか(濃・密)、
に対し(岩波古語辞典)、
アラアラ(粗・略)・アラケ(散)・アライミ(粗忌)・アラキ(粗棺)などのアラ、
で、
物がばらばらで、粗略・粗大である意を表す、
あら、
があり、この「あら」は、母音交替で「オロ」と転じ、「オロカ」「ワオロソカ」の形で使われる(岩波古語辞典)とある。
「荒」のあら、
と、
「粗」のあら、
は、
起源的に別であったかと思われるが、後に混用され、次第に「荒」一字で両方の意味を示すようになった、
とある(仝上)。この、
あら、
が、
あらたま、
として、
「年」「月」「日」「夜」「春」、
にかかり、
あらたまの年、
で、
新年、
新春、
の意で使われる。これは、
枕詞「あらたまの」が、「年」「春」等々に冠せられ、「あらたまの年」「あらたまの春」ともちいられているうちに、「あらたま」だけで、「春」や「年」の意を表すに至った、
もののようである(岩波古語辞典)。しかし、この、
あらたま、
は、上述の、
荒、
粗、
の、
あら、
とは、意味が違い過ぎる。あるいは、由来を異にするのではないか。
(江戸中期)『万葉代匠記』(契沖著、『万葉集』の注釈・研究書)、総釋枕詞、あらたまの「あらたまるなり」(谷(はさま)も、挟(はさま)るなるべし)、此語原説、殊に平易なるをおぼゆ、然れども、語原を枕詞としたる例もなきやうなれば、強ひて、云ひがたし。尚、考ふべし。新閒(アラタマ)と云ふ説もあれど、間と云ふ意、落ち着かず。此外にも諸説あれど、皆理屈に落つ、
とはある(大言海)ものの、
あらたまる、
は捨てがたい。
あらたま、
に、
新玉、
と当てるのは、
新しい、
意の、
あらた(新)、
からきている。
「あたら」で触れたように、
「あらたし」は、
あらた(新)の形容詞形、
つまり、
あらたを活用した、
もので、
平安時代以後、アタラシ(可惜)と混同を起こしたらしく、アタラシという形に変わった。ただし、可惜の意のアタラシと新の意のアタラシとのアクセントば別で、アタラシ(新)の第一アクセントは、アラタ(新)の第一アクセントと一致していた、
とある(岩波古語辞典)。つまり、口語では、
あたらし(可惜)、
と
あたらし(新)、
とは区別されていたが、書き言葉の中では区別がつかなくなっていった、ということなのだろうか。日本語源大辞典は、
アラタシからアタラシへの変化は、音韻転倒の典型的な例として引かれることが多いが、変化の説明はなお考慮すべき点がある。まず、アクセントのうえでは区別できるものの、「惜しい」の意の形容詞「アタラシ」と同形となり、一種の同音衝突となる点をどのように考えるかが問題となる。さらに、同根の類語アラタナリ・アラタムとの類似が薄まるために起こりにくくなるはずの変化が、どうして起こり得たかを明確にする必要がある、
と、述べている。確かに、
あらた(新)なり、
あら(新)た、
はそのまま生きているのである。憶説にすぎないが、この、
あら(新)、
と、
あら(荒)、
とが混用されてしまったのではあるまいか。意味からいえば、
あら(新)、
が、
あらたま(新玉)、
とつながる方が自然なのではないか。
「璞」(漢億ハク、呉音ホク、慣用ボク)は、
会意兼形声。菐は、あらけずりのままの意を含む。璞はそれを音符とし、玉を加えた字、
とある(漢字源)。「今有璞玉於此」と使い(孟子)、荒玉の意である。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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