妹(いも)が見し楝(あふち)の花は散りぬべし我が泣く涙いまだ干(ひ)なくにも(万葉集)、
の、
あふち(おうち)、
は、
センダンの古名、
とある(広辞苑)。
センダン、
は、
栴檀、
と当て、
センダン科センダン属に分類される落葉高木、
の一種で、別名、
アフチ、
オオチ、
オウチ、
アミノキ、
などがあり、薬用植物の一つとしても知られ、果実はしもやけ、樹皮は虫下し、葉は虫除けにするなど、薬用に重宝された(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%B3)とある。
栴檀は双葉より芳(かんば)し、
のセンダンだが、香木の栴檀はインドネシア原産のビャクダン(ビャクダン科)を指し、センダンは特別な香りを持たない(仝上)という。
平安後期の漢和辞書『字鏡』(じきょう)に、
槤、阿不知乃木、
和名類聚抄(平安中期)に、
楝、阿布智、
とある、
あふち、
の由来は、
花が藤に似て上向きに咲くことから、アフグフジ(仰藤)の義(名言通)、
アハフジ(淡藤)の義(日本語原学=林甕臣)、
五月五日ごろ必ず咲くということから、アフチ(逢時)の義、チはトキ(時)の反(和訓栞)、
等々があるが、藤と絡めて、
仰藤(アフフジ)の約(仰向(アフム)く)にて、葉も花も藤に似て、花は仰ぐという説あれど、似ざるがごとし、又、梟首する木なれば、逢血(アフチ)なりなど云ふ説は、取るに足らず。尚、考ふべし。樗(チヨ)、又、木篇に惡、の字を用ゐる、
とある(大言海)。「木篇に惡」の字を、
あふち、
と訓むのは、
樗を惡木也と注せるに因れる倭字也、
とある(和訓栞)。
惡木、
とするのは、
梟首するに因りて、
か(大言海)とあるのは、かつて、
梟首(きょうしゅ)、
は、貞丈雑記(1784頃)に、
今時の人梟首(きゃうしゅ)の事を獄門と云也、
とあるように、
獄門、
とも言った、平安時代中期~明治初期の刑罰の一つで、
大衆へのみせしめとして行われたさらし首、
をいい、鎌倉時代までは、
斬首した罪人の首をほこに突刺して京中の大路を渡したのち、その首を左獄ないし右獄の門前にある楝(おうち。センダンの古名)の樹にかけてさらすことが多かったので、いつしか梟首のことを獄門と呼ぶようになった、
とある(ブリタニカ国際大百科事典)。室町時代以降になると、
柱と横木で台をつくって、その上に5寸釘を打った首台を据え、そこへ首を刺してさらした、
が、
獄門、
という呼称はそのまま残った(仝上)。この故に、
楝、
を、
惡木、
とするのだろうと(大言海は)推測したもののようである。なお、
(「襲の色目」 デジタル大辞泉より)
楝(おうち)、
には、
襲(かさね)の色目、
の意もあり、山科流では、
表は薄色(薄紫色)、裏は青、
また、
表は紫、裏は薄紫、
で、夏に用いる(広辞苑)とある。
(おうちいろ 学研古語辞典より)
その、
楝の花に似た薄紫色、
を、
おうちいろ、
といい、
ききょう色、
ともいう(精選版日本国語大辞典)。
(「楝」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A5%9Dより)
「楝」(レン)は、
形声。「木+柬(カン・レン)」、
とある(漢字源)。「柬」は、えらぶ、えりわける意で、類義語は簡。で、手紙の意もある。
「樗」(チョ)は、
会意兼形声。旁が音をあらわす、
としかない(漢字源)。にがき科の落葉高木を意味するが、日本ではみつばうつぎ科の「ごんずい」にこの字を当て、「おうち」にも当てる。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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