我(わ)が門(かど)の榎(え)の実(み)もり食(は)む百千鳥(ももちとり)千鳥(ちとり)は来(く)れど君ぞ来(き)まさぬ(万葉集)、
の、
ももちどり、
は、
百千鳥(岩波古語辞典・広辞苑)、
あるいは、
百箇鳥(大言海)、
と当てる。
ももち、
は、
百箇(岩波古語辞典)、
百(大言海)、
と当て(「ももち」は百箇の義(大言海)とある)、
チは個数をあらわす語、
で、類聚名義抄(11~12世紀)に、
百・佰、モモ・モモチ、
とあり、
百個、
の意だが、
時雨こそももちの人の袖濡らしければ(平安後期「月詣和歌集」)
と、
数の多い、
意でも使う(岩波古語辞典)。そこから考えると、
ももちどり、
も、文字通り、
数多くの小鳥、
あるいは、また、
いろいろな鳥、
の意で、
百鳥(ももとり)、
という意味になりそうである。しかし、これを鳥の固有名詞として、
友をなみ川瀬にのみぞ立ちゐけるももちとりとは誰かいひけん(和泉式部集)、
と、
ちどり(千鳥)の異名、
としたり、
ももちとりこ伝ふ竹のよの程もともにふみ見しふしぞうれしき(「拾遺愚草(1216~33頃)」)、
うぐいす(鶯)の異名、
とし、「稲負鳥(いなおほせどり)」で触れたように、
ももちどり、
を、
呼子鳥(よぶこどり)、
稲負鳥(いなおほせどり)、
とともに、
「古今伝授」の「三鳥」の一つ、
としたりする(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典。さらには、書言字考節用集(1717)では、
もず(百舌)、
としたりしている(仝上)とか。
「ちどり」で触れたように、
千鳥、
も、その字の通り、
朝狩(あさかり)に五百(いほ)つ鳥立て夕狩に千鳥踏み立て許すことなく追ふごとに(万葉集)、
と、
多くの鳥、
の意である(岩波古語辞典・広辞苑)が、この場合、「千」は、
郡飛する意、
となる(大言海)。
「千鳥」の由来は、
数多く群れを成して飛ぶからか、また、鳴き声から(広辞苑)、
交鳥(チガエドリ)の義、飛ぶ状より云ふ、或いは云ふ、鳴く声を名とす。鵆は鴴の異体なり、但し(中国南北朝期(439~589)の漢字字典)『玉篇』には、「鵆、荒鳥」とあり、チドリは國訓(大言海)、
鳴き声から(日本語源=賀茂百樹・音幻論=幸田露伴)、
チ(擬声、チョチョ・チンチン)+鳥。チチと鳴く鳥の意(日本語源広辞典)、
と、鳴き声とする説が多い。他に、
チヂドリ(千々鳥)の義(日本語原学=林甕臣)、
チガヘドリ(交鳥・差鳥)の義(名言通)、
もある。「チガヘ」というのは、「千鳥足」で触れたように、
路を行くに、右へ片寄り、又、左へ片寄りて歩むこと。又、歩むに両脚を左右に打ちちがへて行く、
こと(大言海)からきているが、
鳴き声をチと聞いて、
しほ山のさしでの磯に住む千鳥君がみ代をばやちよとぞ鳴く(古今集)、
のように、祝賀の意を持たせることがある。後世には、
ちりちり(虎明本狂言「千鳥」)、
チンチン(松の葉・ちんちんぶし)、
と聞きなす、
とある(日本語源大辞典)。「千鳥」の由来は、鳴き声でいいようであるが、今日、僕には、さえずりは、
チ、チ、チ、
と聞こえ。地鳴きは、
ピウ ピウ、
と聞こえる(https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1523.html)。どうも、これからみると、
ももちどり、
は、
ちどり、
ではないようだし、
誤りて、鶯の称、
とある(大言海)ので、
ウグイス、
でもないようである。
百千、
の表記から、多くの鳥、さまざまな鳥と解釈したほうが自然である、
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:ももちどり(百千鳥) 百箇鳥