をちこちのたづきもしらぬ山なかにおぼつかなくもよぶこどりかな(古今和歌集)、
の、
よぶこどり、
は、
呼子鳥、
喚子鳥、
と当て、
稲負鳥(いなおおせどり) 、
百千鳥(ももちどり)
百千鳥
と共に、
古今伝授の三鳥のひとつ、
とされ、
鳴き声が人を呼ぶように聞こえる鳥、
なのでこの名がある(広辞苑)。しかし、
よぶこどり、
を詠う歌は、萬葉集では、
大和には鳴きてか来らむ呼子鳥象(きさ)の中山呼びぞ越ゆなる
神なびの石瀬の社(もり)の呼子鳥いたくな鳴きそ我が恋まさる
世の常に聞けば苦しき呼子鳥声なつかしき時にはなりぬ
滝の上の三船の山ゆ秋津辺に来鳴き渡るは誰(た)れ呼子鳥
我が背子を莫越(なこし)の山の呼子鳥君呼び返せ夜の更けぬとに
春日なる羽がひの山ゆ佐保の内(あち)へ鳴き行くなるは誰れ呼子鳥
答へぬにな呼び響(と)めそ呼子鳥佐保の山辺(やまへ)を上り下りに
朝霧にしののに濡れて呼子鳥三船の山ゆ鳴き渡る見ゆ
朝霧の八重山越えて呼子鳥鳴きや汝(な)が来る宿もあらなくに
の九首がある(https://art-tags.net/manyo/animal/yobuko.html)とされるが、大言海は、万葉集のそれと、古今集のそれとを別の項を立てている。万葉集のそれは、
呼戀鳥にて、伴などを呼び戀ふる如く、昼夜鳴く意からと云ふ、
とし、
霍公(ほととぎす)の大和にての別名なりしならむと云ふ、
として、上記の、
大和には鳴きてか来らむ呼子鳥象の中山呼びぞ越ゆなる、
のよぶこどりの歌と、
古へに戀ふらむ鳥は霍公鳥(ほととぎす)蓋(けだ)しき鳴きし吾が念へるごと、
の霍公鳥の歌を挙げ、
山城の京となりて、その實を忘れて、唯、呼ぶと云ふを縁に、読まれたるなるべし、
としている。
そして、
古今三鳥の一つ、
とする説は、江戸後期の随筆、
『比古婆衣(ひこばえ)』(伴信友)の説に依る、
とする(仝上)。だから、古今集時代は、
呼子鳥、
は、
郭公鳥(かっこうどり)、
とする。これは、鳴声、
物を喚ぶが如し、
とある(仝上)。多くは、冒頭の歌以外は、
(恋人を)呼ぶ、
などの修辞的利用が主とある(日本語源大辞典)。つまり、
よぶこどり、
は、萬葉集の頃と異なり、鳥の実名を意識したというよりは、その言葉の呼び寄せるimageを使った修辞として使う方向にシフトしたのではないか。秘伝となったのは、その意味ではないか、という気がする。
カッコウ、
については、「諫鼓鶏」で触れたように、
閑古鳥、
もいい、
カッコウドリの転訛、
とされる(大言海・広辞苑・岩波古語辞典)。別に、
クヮンコどり(喚子鳥)の義(万葉考・古今要覧稿)、
とする説もあるが、
郭・喚ともに、音クヮク・クヮンとなればカンとは拗直の相違あり、この鳥は「かっこう」と鳴く、また東日本の方言に散在する名も直音カンコドリ、よってその鳴き声より言う名、
とある(江戸語大辞典)。字鏡(平安後期頃)に、
郭公鳥、保止止支須、
和名類聚抄(平安中期)に、
郭公、保度度木須、
とあり、長く、
郭公、
は、
ほととぎす、
を表記する語として用いられ、
カッコウ、
を、
郭公、
と表記するのは近代に入ってからである(日本語源大辞典)とある。
因みに、ほととぎすは、
カッコウ目・カッコウ科、
に分類され(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%88%E3%83%88%E3%82%AE%E3%82%B9)、特徴的な鳴き声とウグイスなどに托卵する習性で知られ、
カッコウは、
カッコウ目カッコウ科、
に分類され(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%83%E3%82%B3%E3%82%A6)、やはり、オオヨシキリ、ホオジロ、モズ等々に托卵を行う。こうみると、ホトトギスとカッコウは、形、色彩がにているだけではなく、似た習性がある。ただ、大きさは、
ホトトギスが、28センチ程度、
に対して、
カッコウは35センチ、
と、少し大きい(https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1403.html)。カッコウは、日本には、
日本には五月頃渡来し、
ホトトギスも、
5月の中旬ごろに渡来する(精選版日本国語大辞典)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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