草枕


あさなけに見べき君としたのまねば思ひたちぬる草枕なり(古今和歌集)、

の、

草枕、

は、

くさのまくら(大辞林)、

つまり、

旅に、草を枕とすること(大言海)、

の意で、

草を結んで枕として野宿すること、

とある(広辞苑・岩波古語辞典)、

古へ、旅路の宿りに、、仮庵を作るを、草結ぶと云ひ、茅草などを束ねて枕としたり、

ということ(大言海)のようである。

笹枕(ささまくら)、
旅寝、
旅枕、
旅の仮寝、

ともいい、これが転じて、

草枕もみぢむしろに替へたらば心をくだくものならましや(後撰和歌集)、

と、

旅先でのわびしい宿泊や仮の宿、

を暗示したり、

さもこそは都のほかに宿りせめうたて露けき草まくらかな(後拾遺和歌集)、

と、

わびしい旅寝、

朝なけに見べき君とし頼まねば思ひ立ちぬるくさまくらなり(古今和歌集)、

と、

わびしい旅、

と、

旅寝、

あるいは、

旅、

の意で使われる(精選版日本国語大辞典)。この意の、

草枕、

が、転じて、

「たび(旅)」「むすぶ(結ぶ)」「ゆふ(結ふ)」「かり(仮)」「つゆ(露)」「たご(多胡)」、

等々にかかる、

枕詞、

として使わる(広辞苑)、たとえば、

久佐麻久良(クサマクラ)旅行く君を幸(さき)くあれと斎瓮(いはひへ)据ゑつ我が床の辺に(万葉集)、
家にあれば笥(ケ)に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る(仝上)、

と、

道の辺の草を枕にして寝る意で

旅、

にかかり、

草まくらこの旅寝にぞ思ひ知る月より外の友無かりけり(金葉和歌集)、

と、

「枕」の語に、寝るということとのつながりを感ずるところ、

からか、

旅寝、

にかかり、

草枕このたび経つる年月の憂きはかへりて嬉しからなん(後撰和歌集)、

と、


「旅(たび)」と同音の「たび(度)」または、それを含む連語、

にかかり、

草枕夕風寒くなりにけり衣うつなる宿や借らまし(新古今和歌集)、

と、

草の枕を「結ふ」意で、「結ふ」と同音の「ゆふ(夕)」を含む連語や地名「ゆふ山」、

等々にかかる(精選版日本国語大辞典)。

「草」.gif

(「草」 https://kakijun.jp/page/0965200.htmlより)

「草」(ソウ)の字は、「」で触れたが、

形声。「艸+音符早」。原義は、くぬぎ、またははんのきの実であるが、のち、原義は別の字であらわし、草の字を古くから艸の字に当てて代用する、

とある(漢字源・角川新字源)。別に、

形声。「艸」+音符「早」。「くさ」(cǎo)を意味する字は本来「艸」であり、「草」は「どんぐり」(zào)を意味したが、のちに「草」が「くさ」を意味するようになり、「どんぐり」の意味には「皁」(「皂」)を用いるようになった、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8D%89

形声文字です(艸+早)。「並び生えた草」の象形(「くさ」の意味)と「太陽の象形と人の頭の象形」(人の頭上に太陽があがりはじめる朝の意味から、「早い」の意味だが、ここでは、「艸(そう)」に通じ、「くさ」の意味)から、「くさ」を意味する「草」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji67.html

「艸」.gif


「艸」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「艸」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8より)

「艸」(ソウ)は、

くさの並んで生え出るさまを表した字、「艹(くさかんむり)」の原形、

とありhttps://www.kanjipedia.jp/kanji/0004210000/

象形。草が並んで生えている形、

または、

「屮」(草の芽の出る様を象る)を並べた会意文字、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8

「枕」.gif


「枕」(慣用チン、漢音・呉音シン)は、「南枕」で触れたように、

会意兼形声。冘(イン・ユウ)は、人の肩や首を重荷でおさえて、下に押し下げるさま。古い字は、牛を川の中に沈めるさま。枕はそれを音符とし、木を加えた字で、頭でおしさげる木製のまくら、

とある(漢字源)。音符冘(イム)→(シム)と音変化したらしい(角川新字源)。別に、

会意形声。「木」+音符「冘」。「冘」は、H字形のもので押しつけ「沈」めることを意味。頭で押しつける木製のまくらを意味したものhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9E%95

会意兼形声文字です(木+冘)。「大地を覆う木」の象形と「人がまくらに頭を沈める」象形から、「(木製の)まくら」を意味する「枕」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2133.html

等々の解釈もある。共通するのは、「木製のまくら」とである。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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