2024年02月24日

かづく


かづけども波の中にはさぐられで風吹くごとに浮き沈む玉(古今和歌集)、

は、

中にはさぐられで、

で、

かにはさくら(樺桜)、

を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。また、

かづく、

は、万葉集では、

かづく、

平安後期では、

かつぐ、

となる、

水に潜る、

意である(仝上)。

頭に被るもの、

の意の、

かづき

で触れたが、この動詞「かづく(被)」は、

かづく(潜)と同根(岩波古語辞典)、

とあり、

あたまにすっぽりかぶる、

意とあり、

伊知遅島(いちぢしま)美島(みしま)に着(と)き鳰鳥(みほどり)の潜(かづ)き息づき(古事記)、

と、

水に頭を突っ込む、
水にくぐる、

意や、

伊勢のあまの朝な夕なにかづくとふあはびの貝の片思もひにして(万葉集)、

と、

水に潜って貝・海藻などをとる、

意で使う。この四段自動詞の他に、

隠(こも)り口(く)の泊瀬(はつせ)の川の上(かみ)つ瀬に鵜(う)を八頭(やつ)かづけ(万葉集)、

と、下二段の他動詞で、

(水中に)もぐらせる、
鵜などを水中に潜らせて魚を取らせる、

意でも使う(仝上・学研全訳古語辞典)。この、

かづく(潜)、

の由来は、

頭突(かぶつ)くの約か、額突ぬかつ)く、頂突(うなづ)くの例(大言海)、
頭をツキイル(衝入)意(雅言考・俗語考・和訓栞)、
水ヲ-カヅク(被)の義か(俚言集覧)、

等々あるが、

かづく(被)、

と同源とするなら、

水ヲ-カヅク(被)の義、

なのではないか、という気がする。因みに、

かづく(被)、

の由来は、

上から被う意のカヅク(頭附)(国語の語根とその分類=大島正健)、
カはカシラ(頭)、カミ(髪)の原語。頭部を着くという義(日本古語大辞典=松岡静雄)、

等々がある。

被衣、
被き、

と当てる、

かづき

は、

女子が外出に頭に被(かづ)く(かぶる)衣服、

のことで、平安時代からみられ、女子は素顔で外出しない風習があり、衣をかぶったので、

その衣、

を指し、多く単(ひとえ)の衣(きぬ)が便宜的に用いられ、

衣かずき(衣被き・被衣)、
きぬかぶり(衣被り)、

ともよばれた。

すっぽりと頭に被る、

という意味の、

かづく(被)、

からすると、

かづく(潜)、

も、

水にすっぽり被る、

意で、

頭にかぶる意で、特に、水を頭上におおうというところから、

と(日本国語大辞典)、

水ヲ-カヅク(被)の義、

の語源説に惹かれる。

「潜」.gif

(「潜」 https://kakijun.jp/page/1558200.htmlより)

「濳」.gif

(「濳」 https://kakijun.jp/page/E04A200.htmlより)


「潛」.gif

(「潛」 https://kakijun.jp/page/E049200.htmlより)


「潜(潛・濳)」 説文解字.png

(「潜(潛・濳)」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)  https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%BD%9Bより)

「潜(潛・濳)」(漢音セン、呉音ゼン)は、

会意兼形声。朁は、かんざしを二つ描いた象形文字で、髪の毛のすきまに深く入り込んむ簪(シン かんざし)の原字。簪の朁は、「かんざし二つ+日」からなり、すきまにわりこんで人を悪く言うこと。譖(そしる)の原字。潜は、それを音符とし、水を加えた字で、水中に深く割り込んでもぐること。すきまから中にもぐりこむ意を含む、

とある(漢字源)。

「簪」 説文解字.png

(「簪」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B0%AAより)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:19| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください