かづけども波の中にはさぐられで風吹くごとに浮き沈む玉(古今和歌集)、
は、
中にはさぐられで、
で、
かにはさくら(樺桜)、
を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。また、
かづく、
は、万葉集では、
かづく、
平安後期では、
かつぐ、
となる、
水に潜る、
意である(仝上)。
頭に被るもの、
の意の、
かづき、
で触れたが、この動詞「かづく(被)」は、
かづく(潜)と同根(岩波古語辞典)、
とあり、
あたまにすっぽりかぶる、
意とあり、
伊知遅島(いちぢしま)美島(みしま)に着(と)き鳰鳥(みほどり)の潜(かづ)き息づき(古事記)、
と、
水に頭を突っ込む、
水にくぐる、
意や、
伊勢のあまの朝な夕なにかづくとふあはびの貝の片思もひにして(万葉集)、
と、
水に潜って貝・海藻などをとる、
意で使う。この四段自動詞の他に、
隠(こも)り口(く)の泊瀬(はつせ)の川の上(かみ)つ瀬に鵜(う)を八頭(やつ)かづけ(万葉集)、
と、下二段の他動詞で、
(水中に)もぐらせる、
鵜などを水中に潜らせて魚を取らせる、
意でも使う(仝上・学研全訳古語辞典)。この、
かづく(潜)、
の由来は、
頭突(かぶつ)くの約か、額突ぬかつ)く、頂突(うなづ)くの例(大言海)、
頭をツキイル(衝入)意(雅言考・俗語考・和訓栞)、
水ヲ-カヅク(被)の義か(俚言集覧)、
等々あるが、
かづく(被)、
と同源とするなら、
水ヲ-カヅク(被)の義、
なのではないか、という気がする。因みに、
かづく(被)、
の由来は、
上から被う意のカヅク(頭附)(国語の語根とその分類=大島正健)、
カはカシラ(頭)、カミ(髪)の原語。頭部を着くという義(日本古語大辞典=松岡静雄)、
等々がある。
被衣、
被き、
と当てる、
かづき、
は、
女子が外出に頭に被(かづ)く(かぶる)衣服、
のことで、平安時代からみられ、女子は素顔で外出しない風習があり、衣をかぶったので、
その衣、
を指し、多く単(ひとえ)の衣(きぬ)が便宜的に用いられ、
衣かずき(衣被き・被衣)、
きぬかぶり(衣被り)、
ともよばれた。
すっぽりと頭に被る、
という意味の、
かづく(被)、
からすると、
かづく(潜)、
も、
水にすっぽり被る、
意で、
頭にかぶる意で、特に、水を頭上におおうというところから、
と(日本国語大辞典)、
水ヲ-カヅク(被)の義、
の語源説に惹かれる。
(「潜(潛・濳)」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%BD%9Bより)
「潜(潛・濳)」(漢音セン、呉音ゼン)は、
会意兼形声。朁は、かんざしを二つ描いた象形文字で、髪の毛のすきまに深く入り込んむ簪(シン かんざし)の原字。簪の朁は、「かんざし二つ+日」からなり、すきまにわりこんで人を悪く言うこと。譖(そしる)の原字。潜は、それを音符とし、水を加えた字で、水中に深く割り込んでもぐること。すきまから中にもぐりこむ意を含む、
とある(漢字源)。
(「簪」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B0%AAより)
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95