天香山(あめのかぐやま)の五百(いほ)つ真(ま)賢木(さかき)を根許士爾許士(ねこじにこじ)て(古事記)、
ひさかたの天の原より生(あ)れ来(きた)神の命(みこと)奥山の賢木(さかき)の枝に白香(しらか)つけ木綿(ゆふ)とりつけて(万葉集)、
の、
さかき、
は、
神域に植える常緑樹の総称。また、神事に用いる木(大辞林)、
常緑樹の総称。特に神事に用いる木をいう(広辞苑)
神域にある、また、神事に用いる常緑樹の総称(学研古語辞典)、
神域にある、また、神事に用いる常緑樹の総称(精選版日本国語大辞典)、
神木として神に供せられる常緑樹の総称(大辞泉)、
等々、総じて、
常緑樹、
殊に、
神域にある、
ないし、
神事に用いる、
神木、
を指している。で、
さかき、
は、
榊、
楊桐、
賢木、
栄木、
神樹、
等々とあて(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD・大言海・岩波古語辞典・広辞苑他)、
境(さか)木の意か(広辞苑)、
「栄える木」の意(精選版日本国語大辞典・大辞林)、
栄える木の意か。一説に境の木の意とも(デジタル大辞泉)
「栄(サカ)木」または「境(サカ)木」からか(学研全訳古語辞典)、
サカキ(小香木)の義(松屋叢考)、
サカキ(社香木)の義(言元梯)、
サカはサという精霊が発動することで、サカキは精霊の宿っている木の意(六歌仙前後=高崎正秀)、
等々あるが、大勢は、
常に枝葉が繫っているところから、サカエキ(栄木)の義(仙覚抄・名語記・日本紀和歌略注・箋注和名抄・名言通・和訓栞・柴門和語類集・日本古語大辞典=松岡静雄)、
と、
サカキ(境木)の義で、神の鎮まります地のサカヒ(区域)の木の意。もと神樹を意味したが、常緑で、葉が枯れない榊を祭神の用としたことから榊一本を言うようになった(大言海)、
の、
境木、
と、
栄木、
に分かれるが、
(サカキのサカは)サカ(境)の第一アクセントと同じ。神聖なる地の境に植える木の意か。サカエ(栄)とはアクセントが別だから、「栄木」とする説は考えにくい、
とある(岩波古語辞典)。
境木、
説を採る、大言海は、
磐境(いはさか)の木の意、
とし、さらに、
(鎌倉時代初期)『萬葉集抄』(仙覚)「さかきト云ヘルハ、彼木、常緑ニシテ、枝葉、繁ケレバ、さかきト云フ、さかきトハ、サカエタル木ト云フ也」、是れは、後世の榊に就きて考へたるにて、古書に、坂樹(サカキ)、賢木(サカキ)など、借字に記したるはあれど、栄、又は、常緑の意の字に記したるを見ず、賢(ケン)の字を宛てたるは、さかしき、すぐれたる意もあるべく、又畏(かしこ)き意にもあるべし(畏所(かしこどころ)、賢所)、
とする。なお、
磐境(いはさか)、
の、
磐(いは)、
は、
堅固なる意か、磐座(いはくら)又斎(いは)ふの語根か、
とあり、
境(さか)、
は、
界、
とも当て(仝上・岩波古語辞典)、
サは割(さ)くの語根、割處(かきか)の義なるべし、塚も、塚處(つきか)、竈尖(くど)も漏處(くどなり)(招鳥(ヲキドリ)、をどり。引剥(ひきはぎ)、ひはぎ)、此語に活用をつけて、境、境ひと云ふ(大言海)、
サカ(坂)と同根。古くは、坂が、区域のはずれであることが多く、自然の境になっていた(岩波古語辞典)、
(坂は)サカヒ(境)の義(古事記伝・山島民譚集=柳田國男)、
(坂の)サはサキ(割)などの原語で、刺・挿の義。カは処を意味する語。分割所の意から境の意を生じ、更に山の境の意から坂の義に転じた(日本古語大辞典=松岡静雄)、
と、
境目、
を指していて、
サカキ、
は、
神域との境を示す木、
ということになる。上代(奈良時代以前)では、
サカキ、ヒサカキ、シキミ、アセビ、ツバキ、
等々、神仏に捧げる常緑樹の総称が、
サカキ、
であった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD)が、平安時代以降になると「サカキ」が特定の植物を指すようになり、収斂して、
一木の名、
となり(大言海)、
榊、
を指すことになり、
此樹常緑にして、葉が霜に遭へども、枯れぬほどなれば、専ら、祭神の用となれるならむ。榊は、神木の合字なり、
という次第である(大言海)。和名類聚抄(平安中期)に、
祭樹為榊、
とある。この
榊、
は、
ツバキ科の常緑小高木。暖地の山中に自生。高さ約10メートル。葉は互生し、厚い革質、深緑色で光沢がある。5〜6月頃、葉のつけ根に白色の細花をつけ、紫黒色の球形の液果を結ぶ。古来神木として枝葉は神に供し、材は細工物・建築などに用いる、
とある(広辞苑・大辞林)。
(サカキ 学研古語辞典より)
別名、
ホンサカキ、
ノコギリバサカキ、
マサカキ、
ともよばれる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD)。
今、多く、
ヒサカキ、
を代用す(大言海)とあるのは、
サカキは関東以南の比較的温暖な地域で生育するため、関東以北では類似種のヒサカキをサカキとして代用している、
ためである(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD)。ヒサカキは仏壇にも供えられる植物で、早春に咲き、独特のにおいがある。名の由来は小さいことから、
姫榊(ヒメサカキ→ヒサカキの転訛)、
とも、サカキでないことから、
非榊、
とも呼ばれる(仝上)。独特のにおいのあるのは、こちらである。このヒサカキは、
常緑広葉樹の小高木で、サカキよりやや小型、普通は樹高が4~7メートル程度、一年枝は緑色で、葉柄が枝に流れて稜をつくる。枝は横向きに出て、葉が左右交互にでて、平面を作る傾向がある。花期は3 ~4月。葉腋から枝の下側に短くぶら下がるように径3~6ミリメートルほどの白い花が下向きに多数咲く。都市ガスのような独特の強い芳香を放つ、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD)。
「榊」(サカキ)は、
会意文字。「木+神」で、神に捧げる木の意からの日本製の漢字、
である(漢字源)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95