2024年03月01日

めどに削り花


花の木にあらざらめども咲きにけりふりにしこのみなるときもがな(古今和歌集)、

の、前文に、

めどに削り花させりけるをよませたまひける、

とある、

めど、

は、

萩の一種、

削り花は、

木を削って造った造花、

をいい、

めどに削り花、

とは、古今伝授の、

三木(さんぼく)、

のひとつ、

めどに造化を挿す、

とは、

どのような情景かはっきりしないが、めどは茎を占いの筮竹に用いたので、それに造花を挿したものか、初二句とも意味が通じる、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

古今伝授(こきんでんじゅ)の三種の木は、「をがたまの木」で触れたように、

をがたまの木、
めどにけづり花、
かはな草、

をいうが、他に、

をがたまの木、
さがりごけ、
かはな草、

とも、

相生(あいおい)の松、
めどにけづり花、
をがたまの木、

とも、

をがたまの木、
とし木、
めど木、

ともあり、諸説があって一定しない(精選版日本国語大辞典)。また、古今伝授で、解釈上の秘伝とされた、

三種の草、

というのもあり、異伝があるが、

めどにけずりばな、
かわなぐさ、
さがりごけ、

をさし、「さがりごけ」のかわりに「おがたまの木」を入れた三木とも関連深い(仝上)とある。

めどにけづりばな、

は、

蓍に削り花、

と当て、

蓍(めど)、

は、

蓍萩(めどはぎ)、

を指し、和名類聚抄(平安中期)に、

蓍、女止(めど)、以其茎為筮者也、

とあり、字鏡(平安後期頃)に、

蓍、蒿、女留、

とある。

メドハギの花.JPG


めどはぎ、

は、

マメ科ハギ属の小低木状の多年草。草地・路傍に普通。茎は直立して高さ1メートル、葉は小型で細長い3小葉から成る。夏、紫条のある白色の小蝶形花をつける。茎を筮めどきに用いた。若芽は食用、利尿・解熱剤、

とあり、

メドギ、
メドグサ、

ともいい、和名は、

萩に似ている、

ことにより、漢名は、

鉄掃帚、

とある(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。日本では、

道端によく見かける雑草である。萩の仲間ではあるが、細かい葉が密生し、いわゆる萩とは印象を異にする。ひょろりと立ち、枝分かれして束状になった姿は独特で、一目見れば遠くからでも区別できる。細長い箒のようでもある、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%89%E3%83%8F%E3%82%AE

めどき、

は、

蓍、
筮木、

と当て、

蓍(めど)で作った、

のでこの名があり、

亀の卜(うら)、易の蓍などにて疑わしき事を勘(かんが)ふべきなり(尚書抄)、

と、

易で占筮(せんぜい)に用いる五〇本の細い棒のこと、

をいう。はじめ蓍萩(めどはぎ)の茎を用いたが、後には多く竹で作るようになったので、普通には筮竹(ぜいちく)という(精選版日本国語大辞典)。この、

蓍、

が、

目途、
目処、

とあてる、

目当て、

の意の、

めど、

の由来である。

蓍萩の茎で作った「めどき」という細い棒を占いに用いたことから目的の意が生じたか、

とある(日本語源大辞典)。

削り花、

は、

古への木綿花(ゆふばな)にして、後世のけづりかけと云ふ、是なり、

とあり(大言海)、

丸木を削りかけて、花の形に作れるもの、

で、多く、

十二月の御仏名(みぶつみょう)に供へらるるものに云ふ(生花なきときなればなり)。翌朝、これを奉るを、馬道(めだう)などに挿して、御遊びあそばしなどす、

とある(仝上)。ちなみに、

馬道(めだう)

は、

殿舎と殿舎の間をつなぐために縦に厚板を敷き渡した簡単な通路、

をいい、後には、

長廊下の称、

となる(精選版日本国語大辞典)。また、

御仏名、

は、

仏名会(ぶつみょうえ)、

といい、古くは、

陰暦一二月一五日より、後には一九日より三日間、禁中および諸寺院で仏名経を誦し、三世十方の諸仏の名号を唱えて罪障を懺悔する法会、

をいい(仝上)、

「過去」「現在」「未来」の三世にわたる諸仏のみ名を称えて、さまざまな罪や知らず知らずのうちに作ってしまった罪業などを懺悔(さんげ)し、滅罪生善を祈る法要、

https://www.chion-in.or.jp/event/event/1495/、奈良時代に初めて宮中でつとめられ、平安時代には宮中での恒例行事となり、その後、各地に広まり、寺院などでもつとめられるようになった(仝上)とある。

「蓍」.gif

(「蓍」 https://kakijun.jp/page/E4E7200.htmlより)


「蓍」(シ)は、

会意兼形声。「艸+音符耆(シ 年を経て、実質がつまった)」

とある(漢字源)。「めどはぎ」の意であり、「めどき」の意である。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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