2024年03月02日
かはな草
うばたまの夢になにかはなぐさまむうつつにだにもあかぬ心を(古今和歌集)
で、
なにかはなぐさまむ、
に、
かはなぐさ、
を詠みこんでいる。その、
かはなぐさ、
は、
川菜草、
と当て、
古くから、水苔をかはなと訓む。川にはえる藻類であろう、
とあり、
古今伝授の三木のひとつ、
とされる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。古今伝授(こきんでんじゅ)の三種の木は、「をがたまの木」で触れたように、
をがたまの木、
めどにけづり花、
かはな草、
をいうが、他に、
をがたまの木、
さがりごけ、
かはな草、
とも、
相生(あいおい)の松、
めどにけづり花、
をがたまの木、
とも、
をがたまの木、
とし木、
めど木、
ともあり、諸説があって一定しない(精選版日本国語大辞典)。また、古今伝授で、解釈上の秘伝とされた、
三種の草、
というのもあり、異伝があるが、
めどにけずりばな、
かわなぐさ、
さがりごけ、
をさし、「さがりごけ」のかわりに「おがたまの木」を入れた三木とも関連深い(仝上)とある。
川菜草(かわなぐさ)、
は、
かわな、
ともいい、
淡水産の藻類の古称、
とあり(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)、
カワモズク、
をさす(デジタル大辞泉)とする。
かはな、
に、
水苔、
と当て、
川栄の義、
とする大言海も、
かはあをのり、
かはもづく、
とする。
かわもずく、
は、
川水雲、
と当て、
カワモズク科の紅藻。水のきれいな川や池に生え、長さ約10センチで糸状に分枝し、柔らかい。酢の物などにする、
とあり(デジタル大辞泉)、
形、色、あをのりに似て、流水の石上に生ず、
とある(大言海)。
カハアヲノリ、
カハノリ、
ともいう(仝上)。
世界各地の湧泉からの小川や灌漑用水路などの流水中にみられるカエルの卵塊のようなカワモズク科の淡水産の紅藻、
で、
体は節をもつ中軸と、節から出る輪生枝とからなり、それらの周囲には多量の寒天物質が分泌されるので、体は寒天質の数珠の形状となる。カワモズク属には種類数が多く、種の同定は容易でない。分類には、輪生枝の発達の程度、囊果(のうか)の位置、受精毛の形、雌雄異株か同株かなどが主な形質となる、
とあり(世界大百科事典)、代表的な種に、
カワモズクB.moniliforme Roth、
アオカワモズクB.virgatum Sirodot
ヒメカワモズクB.gallaei Sirodot、
等々がある(仝上)。
ただ、異説もあり、
かはなぐさ、
は、
かはほね、
の意とする(岩波古語辞典)。
かはほね、
は、いま、
コウホネ、
といい、
水草の一種、
とある(仝上)本草和名(918頃)に、
骨蓬、和名加波保禰、
とあり、『梁塵秘抄(1179頃)』に、
聖の好むもの……さては池に宿る蓮の蔤(はい)、根芹根蓴菜、牛蒡(ごんばう)かはほね独活(うど)蕨土筆(つくし)、
とある。
こうほね、
は、
スイレン科の多年草、
で、いわゆる、
水草、
の一種で、日当たりのよい池沼や小川に自生する。
水底を這う根茎が骨のような色形であり、あたかも動物の背骨が横たわっているよう見えるため、コウホネあるいはセンコツ(川骨)と名付けられた、
とある(https://www.uekipedia.jp/%E5%B1%B1%E9%87%8E%E8%8D%89-%E3%82%AB%E8%A1%8C-1/%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%83%9B%E3%83%8D/)。別名は、
カワホネ、
カワバス、
ヤマバス、
ホネヨモギ、
カワト、
カッパネ、
カッポンバナ、
タイコブチ、
等々(仝上)。
開花は夏で、光沢のある黄色い花が、水中から拳を突き上げたように咲く。花は直径3センチほどのお椀型で、花びらのように見える5枚の萼片と多数の雄しべが目立つ、
とある(仝上)。この、
かはなな=かはほね説、
は、定家の説らしく、
かはな草の 「かはな」は 「川菜」ではなく 「河花」の意味である。「かはな」だけでは言いにくいので、それに草をつけて、かはな草と言ったのである。かはな草は川苔のことではなく、実は河骨(こうほね:スイレン科の多年草)のことである。蓮(はす)を別とすれば、水草の中で爽やかなものといえば河骨をおいて他にはない、
との紹介(「和歌秘伝鈔(1941 飯田季治)」)もある(http://www.milord-club.com/Kokin/uta0449.htm)らしいが、和名類聚抄(931~38年)には、
水苔、一名、河苔、加波奈、
と、
水苔、
としている。倭名抄が、
水苔、
としているのだから、それを、
かはもづく
や
かはほね、
とする根拠がよく分からない。、
ミズゴケ、
は、
ミズゴケ科に分類され、ミズゴケ目を構成する。茎と葉の区別のある茎葉体であるが、独特の構造をもつ。軸は木質化し、主軸はほぼ上に伸びるが、放射状に側面方向に枝を出す。葉は軸の回りに密生する。葉の細胞には、大型で光合成を行わない空洞になった細胞(透明細胞または貯水細胞)と小型で葉緑体を持ち光合成を行う細胞(葉緑細胞)が交互に並んでいる。この透明細胞には表面に穴があって、内部に多量の水を蓄えられるようになっている、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%BA%E3%82%B4%E3%82%B1%E5%B1%9E)。
葉に水を蓄える細胞が多数あるため、乾燥させれば多孔質の軽くて弾力のある素材となり、木綿の2倍以上の吸水力を持ち、水を吸わせれば水もちがよく、隙間が多いので空気の通りがよい、
ことから、古くから、
脱脂綿の代用、
として用いられ、青銅器時代から治療薬として用いられてきた(仝上)。ミズゴケの中にいるペニシリウムなどの微生物が治療を促進している(仝上)という。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください