2024年03月06日

ささがに


白露を玉にぬくとやささがにの花にも葉にも糸をみな綜(へ)し(古今和歌集)

の、

ささがにの、

は、

蜘蛛にかかる枕詞、

で、平安時代は、

ささがに、

は、

蜘蛛そのもの、

をいう(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)とある。

ささがにの、

は、奈良時代の、

わが背子が來べき宵なりささがねの蜘蛛のおこなひ今宵著(しる)しも(日本書紀)、

とある、

ささがねの、

の転(岩波古語辞典)とあり、

ささがね、

は、一説に、

笹の根の意(仝上)、
「笹が根」「細小蟹」「泥(ささ)蟹」などの意(精選版日本国語大辞典)、

で、

枕詞ではない、

とある(仝上)。この「ささがに」の古形、

ささがね、

が使われている、

我が背子が来べき宵なり佐瑳餓泥(ササガネ)の蜘蛛の行なひ今宵著(しるし)しも、

が、

上代の唯一例、

とされ(精選版日本国語大辞典)、これが、古今集で、

衣通姫(そとおりひめ)の独りゐて帝(允恭天皇)を恋ひ奉りて、

という詞書とともに、

我が背子が来べき宵也ささがにのくものふるまひかねてしるしも(古今和歌集)、

と、

ささがに、

とした。これは、

形が小さいカニに似ているところから(岩波古語辞典)、
音の類似から「ささ蟹」と解し(精選版日本国語大辞典)、
佐瑳餓泥(ささがに 山名)の區茂(雲)とあるを、読み違へて、古今集の歌に、雲を蜘蛛と解し、ササガニを、小さき蟹と解し、蜘蛛の枕詞にのやうに用ゐ、転じては、蜘蛛の事とし、又、允恭紀の歌意に、詩経の疏なる、観客の意をも取り成して、意中の人の來ることにも云ふべきやうにもなりし語なり(大言海)、

などの経緯らしく、これによって、

枕詞、

の形として伝えられ、中古以降は、

ささがに、

は、

細小蟹、
細蟹、
笹蟹、

等々と当て(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)、もとの意味にこだわることなく、

蜘蛛の異称、

とされ、

待ち人が訪れ来る前兆を人に示す、

といわれた(学研全訳古語辞典)。また、

風吹けばまづぞ乱るる色かはる浅茅が露にかかるささがに(源氏物語)、

と、

くもの糸、
くもの網(い)、

の意となる(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。上記、大言海の、

詩経の疏なる、観客の意をも取り成して、

とは、『詩経』豳風・東山篇に、

蠨蛸(アシタカグモ)、在戸、

とあり、疏に、

謂之喜母、此蟲來著人衣、當有観客至有喜

とあることを指す。因みに、

ささがにひめ(細蟹姫)、

というと、

秋さし姫 たき物姫 ささかにひめ……已上七は七夕七ひめの名也(「藻塩草(1513頃)」)、

と、

蜘蛛はよく糸をかけること、

にちなんで、

たなばたひめ、
織女星、

の異称とされる(精選版日本国語大辞典・広辞苑)。

枕詞としての

ささがにの、

は、上述の、

我が背子が来べき宵也ささがにのくものふるまひかねてしるしも(古今和歌集)、

と、

蜘蛛(くも)、

にかかる以外に、

思ひやる我が衣手はささがにのくもらぬ空に雨のみぞ降る(後拾遺和歌集)、

と、

「蜘蛛」と同音の語または同音を含む「蜘蛛手(くもで)」「雲」「曇る」などにかかり、

絶えねばと思ふも悲しささがにのいとはれながらかかるちぎりは(風雅和歌集)、

と、

蜘蛛の糸というところから、「糸」および「糸」と同音または同音を含む副詞「いと」や動詞「いとふ(厭)」などにかかり、

ささがにのいづこともなく吹く風はかくてあまたになりぞすらしも(蜻蛉日記)、

と、

蜘蛛の「い」(巣・網の意)というところから同音を語頭に含む「いかさま」「いかなり」「いづこ」「命」「今」などにかかる(精選版日本国語大辞典)。

なお、書紀・允恭紀の、、

わが背子が來べき宵なりささがねの蜘蛛のおこなひ今宵著(しる)しも、

は、万葉仮名で、

和餓勢故餓 勾倍枳予臂奈利 佐瑳餓泥能 区茂能於虚奈比 虚予比辞流辞毛、

については、鎌倉時代中期に著わされた『日本書紀』の注釈書『釋日本紀(しゃくにほんぎ)』では、

佐瑳餓泥、私記曰、山名也、区茂能於虚奈比、雲乃於支天(オキテ)也(御歌は、山の雲のたたずまひを見て、君の來ますべき象兆としたまひしなり、雲の動静に因りて、事の象兆とせしこと多し、古事記(神武)に、伊須気余理比賣の、御子の危難あらむを暗示したまひし御歌「佐韋川よ雲立ちわたり畝傍山木の葉さやぎぬ風吹かむとす」)、天武紀、伊賀の横河にて、「有黒雲、廣十余丈、経天、時、天皇異之、則挙燭親秉式、占曰、天下両分之祥也」、

とあり、

蜘蛛、

ではなく、

雲、

であったとしている(大言海)。

「蟹」.gif


「蟹」(漢音カイ、呉音ゲ)は、

会意兼形声。「虫+音符解(別々に分解する)」。からだの各部分がばらばらに分解するかに、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(虫+解)。 「頭が大きくてグロテスクな、まむし」の象形(「虫」、「動物」の意味)と「刀の象形と中が空になっている固い角(つの)の象形と角のある牛の象形」(「刀で牛を裂く」、「ばらばらになる」の意味)から足がすぐにばらばらになる動物「かに」を意味する「蟹・蠏」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2724.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:26| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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