2024年03月10日

やまし


ほととぎす峰の雲にやまじりにしあれど聞けど見るよしもなき(古今和歌集)

の、

雲にやまじり、

で、

やまし、

を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

やまし、

は、

ユリ科の多年草、

で、

「知母」「花菅」の異称、

とある(仝上)。

やまし、

は、

やまじ、

ともいい、

ハナスゲの別名(大辞林)、
野草ハナスゲの異称(岩波古語辞典)、
はなすげ(花菅)」の古名(精選版日本国語大辞典)、

などとあり、類聚名義抄(11~12世紀)に、

児草、ヤマシ、

とある。

知母(ちも)、

は、

花菅(はなすげ)の漢名、

とあり、また、

その根茎の生薬名、

でもあり、漢方で、

知母治諸熱(本草)、

とあり、

解熱・鎮咳・利水・鎮静剤、

とする(広辞苑)。だから、類聚名義抄に、

知母、ヤマシ、

和名類聚抄(931~38年)に、

知母、夜萬之、

とある。

知母、

は、

古名ヤマシ、

ともあり、

ヤマドコロ、

ともいい、

春、宿根より叢生す、葉は芒(すすき)の葉の如くにして、狭く厚く、深緑色、長さ二三尺、夏月、葉の中に、茎を起こす、高さ二三尺、其端に一尺許りの小さく長き花、繁く綴りて穂をなす。其色、深紫碧、後に、長さ三四分の細莢を結ぶ、内に三稜の黒子あり、

とある(大言海)。

やまし、

の、

し、

は、

羊蹄(ぎしぎし)の古名、

とある(精選版日本国語大辞典)が、

し、

は、別名、

シノネ、
ウマスカンポ、
オカジュンサイ、

などともよばれ、生薬名および中国植物名は、

羊蹄(ヨウテイ)、

で、俗に、

きしぎし、

と呼ばれる、古い名称は、

之(し)、

で、根を薬用にしたため、

之の根(シノネ)、

とも呼ばれ、薬は、

和大黄(わだいおう)、

という(大言海)。字鏡(平安後期頃)に、

羊蹄、志乃根、

本草和名(ほんぞうわみょう)(918年編纂)に、

羊蹄、之乃禰、

とある。

知母(ちも)、

を、

やまし(山之)、

というのも、

根を薬用するに因り、

しのね、
やまし、

と呼ぶようである(仝上)。

キシギシ.jpg


ただ、

ハナスゲ、

自体は、

からすすげ、

ともいうが、和名は、

カヤツリグサ科のスゲのような葉を生じ、地味なスゲの花と比べて大きく(といっても径5~6mmです)、よく目立つことから名づけられました、

とありhttps://www.pharm.or.jp/yakusou/2023/01/post-114.html

根茎はやや塊状に肥大して白色の細根を多数生じ、また茶褐色の繊維を密生させています。草丈は1mくらい、葉は広線形で地際より多数出しています。葉の間から花茎を出し、その上部に白黄色から淡青紫色の花を穂状に多数つけ5~6月に咲きます。果実は長卵形で、その中に翼のある黒色の種子を生じます、

とある(仝上)。日本へは、苗が、

享保年間(1716-36)ころに薬用として渡来した、

といわれている(仝上)。おそらく、古く、

知母、

として、薬用として伝わったものと思われるが、それにしても、

やまし、

と、

之、

として認識していたということは、この植物の生態をよく知っていたということなのだろうか。

ハナスゲ 全体.jpg



ハナスゲ.jpg


ハナスゲの實.jpg


「之」.gif

(「之」 https://kakijun.jp/page/0308200.htmlより)


「之」 甲骨文字・殷.png

(「之」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%8Bより)

「之」(シ)は、

象形。足の先が線から出て進みいくさまを描いたもの。進みいく足の動作を意味する。先(跣(せん)の原字)の字の上部は、この字の変形である。「これ」ということばに当てたのは音を利用した当て字。是(シ これ)、斯(シ これ)、此(シ これ)なども当て字で之(シ)に近いが、其・之、彼・此が相対して使われる。また、之は、客語(目的語)になる場合が多い、

とある(漢字源)。別に、

象形。足あとの形にかたどり、「ゆく」意を表す。借りて「これ」「の」の意の助字に用いる、

とも(角川新字源)、

形声。「一 (始点)」+音符「止 /*TƏ/」。「ゆく」を意味する漢語{之 /*tə/}を表す字。のち仮借して助詞の{之 /*tə/}に用いる、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B9%8B

指事文字です(止+一)。「立ち止まる足」の象形と「出発線を示す」横線から、今にも一歩を踏み出して行く事を示し、そこから、「ゆく」、「行く」、「出る」を意味する「之」という漢字が成り立ちました(借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「これ、この(助字)」の意味も表すようになりました)、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2313.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:04| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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