命とて露をたのむにかたければものわびしらに鳴く野辺の虫(古今和歌集)
と、
たのむにかたければ、
で、
にがたけ、
を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。当時、
はかもなき夏の草葉に命と頼む虫のはかなさ(寛平御時后宮歌合)、
と、
虫は命の糧として露を吸うと考えられていた、
とある(仝上)。
にがたけ、
は、
苦竹、
と、茸の一種である、
苦茸、
のいずれか不明とする(仝上)。しかし、
(たけのこの味がにがいからいう)メダケまたはマダケの別称(広辞苑)、
マダケ、またはメダケの異名(岩波古語辞典)、
(そのタケノコに苦みがあるので)マダケ・メダケの別名(大辞林)、
真竹(まだけ)、女竹(めだけ)の別名。それらの竹の子に苦味があることから(学研全訳古語辞典)、
マダケまたはメダケの別名(大辞泉)、
(竹の子に苦味があるところから) 植物「まだけ(真竹)」または「めだけ(女竹)」の異名(精選版日本国語大辞典)、
まだけの一名(大言海)、
と、ほぼ、
まだけ(真竹)、または、めだけ(女竹)の異名とする。しかも、
にがたけ、
は、
苦竹、
と当てるが、
くちく、
と訓ませると、
メダケの別称(動植物名よみかた辞典)、
ともあるが、
苦竹黮、茶樹成林(「参天台五台山記(1072~73)」)、
と、
植物「まだけ(真竹)」の古名(精選版日本国語大辞典)、
マダケの漢名、にがたけ(広辞苑)、
植物マダケの異名、にがたけ(大辞林)、
マダケの別名(大辞泉)、
「真竹」の別称(https://kokugo.jitenon.jp/word/p38679)、
と、
まだけ、
に収斂していく。後世になるが、林羅山の本草学『多識編』(1631)には、
苦竹、爾賀多計、今案、末多計、
貝原益軒編纂の『大和本草(1708)』には、
苦竹、國俗呉竹、と云、又真竹と云、筍の味微苦、ハチクニオトレリ、
とある。
苦竹(くちく)、
は、
歳月青松老
風霜苦竹疎(孟浩然)、
は、
まだけ、
とある(字源)ので、
苦竹(くちく)、
は、
漢名、
にがたけ、
は、その和訓である可能性もある。ただし、中国で、
苦竹、
と書くのは、
メダケ属、
のもので、
マダケ、
は、
剛竹、
と呼ぶ(世界大百科事典)とある。
マダケ(真竹)、
は、
常の竹を、他名に対して云ふ称、
で、学名、
Phyllostachys bambusoides、
は、中国原産とも日本自生とも言われる、
イネ科マダケ属の竹の一種、
で、別名、
タケ、
ニガタケ(苦竹)、
真柄竹、
等々と呼ぶ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%80%E3%82%B1)。
稈(かん)の最大の直径20cmぐらい、高さ20m。節の部分は2環状になる。葉はモウソウチクよりも大きく、肩毛が直角につく。竹の皮に暗褐色の大きな斑紋のあることが特徴である。一定の周期で開花するが、花はモウソウチクに似ておしべは3本、
とある(世界大百科事典)。また、
日本マダケのほとんどは遺伝的に均一らしく、日本全国のマダケが一斉に花を咲かせ、一斉に実を付け、一斉に枯れる。日本へは古くから持ち込まれ栽培されていたと見る一方で、日本にもともと自生していた品種であると捉える向きもある、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%80%E3%82%B1)。なお、別名を、
苦竹、
というように、収穫後時間を経過したタケノコはエグみがある。苦みやあくが強いためにマダケのタケノコは市場にはあまり出回らない、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%80%E3%82%B1)。
めだけ(女竹・雌竹)、
は、
をだけ(雄竹)、
つまり、
マダケ、
に対して言う、
篠竹の類、
をいい(大言海)、植物学上は、
ササ、
に分類される(世界大百科事典)、
イネ科の(メダケ属)タケササ類、
で、
関東以西の各地に生え、稈は高さ三〜六メートル、径一〜三センチメートルになり、節間は長く枝は節に五〜七本ずつつく。地下茎が横に走り、葉は披針形で手のひら状につき、長さ一〇〜二五センチメートル、三〜五個が枝先からななめに掌状に出る。花穂は古い竹の皮を伴い枝先に密集してつき、小穂は線形で長さ三〜一〇センチメートル。筍(たけのこ)には苦味がある。稈で笛・竿・キセル・籠などをつくる、
とあり(日本国語大辞典・大辞泉)、
なよたけ、
おなごだけ、
にがたけ、
あきたけ、
しのだけ、
しのべだけ、
かわたけ、
等々の名がある(仝上・広辞苑)。
(メダケ 広辞苑より)
因みに、
雄竹(おだけ)、
は、主として、
真竹(まだけ)、
をいうが、淡竹(はちく)、孟宗竹(もうそうちく)などの大柄な竹にもいう(精選版日本国語大辞典)とある。
ニガタケ、
の名は、
マダケ、
を指しているようでもあるが、いずれも、「筍」の苦みからきているので、
ニガタケ、
というとき、
マダケ、
メダケ、
何れを指しているかは、定めがたいようだ。
なお、ついでながら、
呉竹、
というのは、『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918年編纂)に、
淡竹、名緑 和名久礼多介、
とあるように、
淡竹(はちく)の異名、
である(精選版日本国語大辞典)。
葉竹、
早竹、
半竹、
甘竹、
等々とも記し(大言海・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%81%E3%82%AF)、古名、
オオタケ、
クレタケ、
ともある(仝上)、
イネ科マダケ属、
で、中国原産で、呉(ご)から渡来した(http://www.kaho-fukuoka.co.jp/saijiki/2003-00/kuretake.html)ことから
からだけ(唐竹)、
くれだけ(呉竹)、
という。
稈は高さ一〇メートル、径一〇センチメートルに達する。稈は滑らかで薄く蝋粉(ろうふん)をつけ、節は二輪状に突起する。枝は節ごとに一~二本ずつ出て小枝を分け、その先端に長さ四~一二センチメートルの披針形の葉を四~五個つける。皮は紫色を帯び大きく、斑紋はない。花穂は紫緑色、
とある(精選版日本国語大辞典)。古今要覧稿(1821~42)に、
おほたけ一名からたけ一名あはだけ一名はちくは西土にいはゆる淡竹一名水竹也、
とある。淡竹の筍(タケノコ)は、
えぐ味がなく美味とされる、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%81%E3%82%AF)。
なお、「ささ」については触れたし、「しのだけ」については、「箆(の)」で触れた。また、「たけ(茸)」、「たけ(竹)」についても触れた。
(「竹」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%AB%B9より)
「竹」(漢音呉音チク、唐音シツ)は、
象形、たけの枝二本を描いたもの。周囲を囲むの意を含む、
とある(漢字源)。
象形。たけの葉が垂れ下がっているものを象る(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%AB%B9)、
象形。たけが並び生えているさまにかたどり、「たけ」の意を表す(角川新字源)、
象形文字です。「たけ」の象形から、「竹」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji68.html)、
と、象形文字であることは同じだか、微妙に異なる。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95