已矣(やんぬるかな)
覇図悵已矣(覇図(はと)、悵(ああ)已んぬるかな)
驅馬復歸來(馬を驅りて復た歸り來(きた)る)(陳子昂・薊丘覧古)
の、
悵、
は、
歎いたり恨んだりして、心の痛む時の間投詞、
で、また、
歎き怨むという意味もあり、ここで動詞にとって、
已みぬるを痛み、
と読むこともできる(前野直彬注解『唐詩選』)とある。また、
已矣(イイ)、
は、
おしまいになってしまった、
の意(仝上)である。
やんぬるかな、
は、
已矣哉(イイサイ)、
已矣乎(イイコ)、
已矣、
の訓読み、
已んぬる哉、
と当て、
「やみぬるかな」の転、
で、
已矣哉(やんぬるかな)國に人無し 我を知るもの(な)し(楚辞・離騒)、
と、
もうおしまいだ、
どうしようもない、
と、
慨嘆・絶望の辞、
を表わし、「已矣」「已矣乎」「已矣哉」などの漢文訓読みに使う(広辞苑・大辞林)。
已矣(ヤンヌルカナ)市に五勺の升あらば(俳諧「俳諧新選(1773)」)、
は、『論語』の、
子曰、已矣乎、吾未見能見其過而内自訟者也(子曰く、已んぬるかな、吾未だ能く見その過(あやま)ちを見て内に自(みずか)ら訟(せ)むる者を見ざる也)、
を背景にしている(精選版日本国語大辞典)。
「已」(イ)は、
象形。古代人がすき(農具)に使った曲がった木を描いたもの。のち、耜(シ すき)・以(イ 工具で仕事をする)・已(やめる)などの用法に分化した。已(やめる)は、止(とまる)・俟(イ 止まって待つ)に当てた用法。また、以に当てて用いる、
とある(漢字源)。別に、
象形。農具の「すき」を象ったもの。他に「㠯」「厶(以)」など。「やめる」「すでに」の意は音を仮借したもの、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B7%B2)、
もと、巳(シ)との区別はなかったが、のち、その字の一部を変え音も変えて、借りて、助字に用いる。一説に、㠯(イ)(以の古字)の字形の変わったものという、
とも(角川新字源)、
象形文字です。「農作業に使う農具:すき」の象形から、「すき」の意味を表しました(耜(シ)の原字)。借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「やむ」、「すでに」、「のみ」等の意味で使用されるようになりました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2432.html)。
已、
は、
畢りなり、全くをはる義、
とある(字源)。
「矣」(イ)は、「行矣」で触れたように、
象形。「ム+矢」と書くが、実は、「匕+矢」が正しく、人が後ろを向いてとまったさまをえがいたもの。疑の左側の部分と同じ。文末につく、「あい」という嘆声であり、断定や慨嘆の気持を表す。息が仕えてとまるの意を含む、
とあり(漢字源)、
断定や推定の語気を表わすことば、
で、
……するぞ、
……となるぞ、
の意(仝上)とする。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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