夕暮れは雲のはたてにものぞ思ふ天つ空なる人をこふとて(古今和歌集)、
の、
雲のはたて、
は、
漢語「雲端」の訳語であろう。「美人雲端に在り、天路隔たりて期無し」(『玉台新詠』巻一、「雜詩九首・蘭若春陽に寄す」)。「はたて」は端の意味で、雲の端、すなわち、はるか彼方、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
はたて、
は、万葉集に、
嬢子(をとめ)らが插頭(かざし)のために遊士(みやびを)の蘰(かづら)のためと敷(し)き坐(ま)せる国の波多氐(はたて)に咲にける桜の花のにほひもあなに、
と詠われ、
果、
極、
尽、
等々と当て(広辞苑・大辞泉・大言海)、
はて、
かぎり、
際涯、
の意で使われる(仝上)。
漢語「雲端」の訳語であろう、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)が、
極之方(はたつへ)の(大言海)約、
ハタはハテ(極)の古形、テはチと同根、方向の意(岩波古語辞典)、
とある。「東風(こち)」「はやち」の、
風、
と当てる、
ち、
は、転じて、「はやて」のように、
て、
に転ずる(岩波古語辞典・大言海)。
道・方向、
とあてる、
ち、
も、同様に、
て、
に転ずることはあり得る気がする。
ち、
は、
たらちしの母が目見ずて欝(おほほ)しく何方向(いづちむ)きてか吾(あ)が別るらむ(万葉集)、
と、
いづち、
をち、
こち、
など、
道、また、道を通っていく方向の意、独立して使われた例はない。……へ行く道の意で複合語の下項として使われる場合は多く濁音化する、
とある(仝上)。その意味で、
極之方(はたつへ)、
と重なる。
「果」(カ)は、
象形。木の上にまるい実がなったさまを描いたもので、まるい木の実のこと、
とある(漢字源)。他も、
象形。実のなった樹木のさまを象る。「くだもの」を意味する漢語{果 /*koojʔ/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9E%9C)、
象形。木に実がなっているさまにかたどり、木の実の意を表す。「菓(クワ)」の原字。借りて、思いきりがよい、また、「はたす」意に用いる(角川新字源)、
象形文字です。「木に実のなる」象形から「木の実」を意味する「果」という漢字が成り立ちました。転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「なしとげる」の意味も表すようになりました(https://okjiten.jp/kanji689.html)、
と、ほぼ同趣旨。「菓」(カ)は、「菓子」で触れたように、
会意兼形声。「艸+音符果(丸い木の実)」
で、「果」と同義。食料とされる果物、木の実の意である(漢字源)。
(「極」 金文・春秋時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A5%B5)
「極」(漢音キョク、呉音ゴク)は、
会意兼形声。亟(キョク)の原字は、二線の間に人を描き、人の頭上から足先までを張り伸ばしたことを示す会意文字。極は「木+音符亟」で、端から端まで引っ張ったしん柱、
とある(漢字源)。別に、
形声。「木」+音符「亟 /*KƏK/」。「棟木」を意味する漢語{極 /*g(r)ək/}を表す字。のち仮借して「きわみ」を意味する漢語{極 /*g(r)ək/}に用いる(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A5%B5)、
形声。木と、音符亟(キヨク)とから成る。棟木(むなぎ)の意を表す。棟木が最も高いところにあることから、ひいて「きわめる」意に、また、最高・最上の意に用いる(角川新字源)、
会意兼形声文字です(木+亟)。「大地を覆う木」の象形と「上下の枠の象形と口の象形と人の象形と手の象形」(口や手を使って「問いつめる」の意味)から屋根の最も高い所・二つの屋根面が接合する部分「棟(むね)」、「きわみ」を意味する「極」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji575.html)、
等々ともある。
(「盡(尽)」 https://kakijun.jp/page/jin14200.htmlより)
「盡(尽)」(漢音シン、呉音ジン)は、
会意文字。盡は、手に持つ筆の先から、しずくが皿にたれつくすさまを示す、
とある(漢字源)が、別に、
象形。空になった容器をブラシで洗うさまを象る。「つきる」を意味する漢語{盡 /*dzinʔ/}を表す字、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%9B%A1)、
形声。皿と、音符㶳(シン)(は「盡」の上部はその変形)とから成る。容器がからっぽであることから、「つきる」「つくす」意を表す(角川新字源)、
ともあるが、
会意文字です(聿+皿)。「はけを手にした」象形と「うつわ」の象形から、うつわの中をはけではらって空にするさまを表し、そこから、「つきる」、「なくなる」を意味する「尽」という漢字が成り立ちました、
とする(https://okjiten.jp/kanji1382.html)説については、
これは誤った分析である。甲骨文字や金文の形を見ればわかるように「聿」とも「火」とも関係がない、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%9B%A1)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95