2024年04月09日

ねたし


つれもなき人をやねたく白露のおくとは嘆き寝とはしのばむ(古今和歌集)、

の、

ねたし、

は、全体にかかり、

しゃくにさわる、

意である(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

ねたし、

は、

妬し、
嫉し、

と当て(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、

相手に負かされ、相手にすげなくされなどした場合、またつい不注意で失敗した場合などに感じる、にくらしい、小癪だ、いまいましい、してやられたと思うなどの気持。類義語クヤシは、自分のした行為を、しなければよかったと悔やむ意。クチヲシは期待通りに行かないで残念の意、

とある(岩波古語辞典)。基本、

ねたましい、

意で、

ねたきもの 人のもとにこれより遣るも、人の返りごとも、書きてやりつるのち、文字一つ二つ思ひなほしたる。とみの物縫ふに、かしこう縫ひつと思ふに、針を引き抜きつれば、はやく尻を結ばざりけり。また、かへさまに縫ひたるもねたし(枕草子)、

と、

憎らしい、癪である、
いまいましい、
残念だ、

といった意味の幅を持つ(仝上)が、たとえば、

ほととぎすいとねたけくは橘の花散る時に来鳴きとよむる(万葉集)、

と、

癪である、

意や、

いとほしきに、つれなき心はねたけれど、人のためは、あはれと思しなさる(源氏物語)、

と、

(相手にされず)いまいましい、

意や、

(碁を)打たせ給ふに三番にかず一つ負けさせ給ひぬ、ねたしきわざかな(源氏物語)、

と、

残念だ、

意などで使われる(岩波古語辞典)。

ねたし、

は、

「名痛し」の転か。相手の評判が高くて、自分に痛く感じられる意から(広辞苑)、
「な(名)いた(痛)し」の変化で、相手の評判の高いのを痛いと感じるところからかという(精選版日本国語大辞典)、
相手の名、評判が高く、自分に委託感じられる意のナイタシ(名痛し)から(日本語の年輪=大野晋)、
ネイタシ(性痛)の義(日本語原学=林甕臣)、
ネイタシ(心根痛)から変化した(語源辞典・形容詞篇=吉田金彦)、

等々、

反発を感じ、ねたましく思う気持を表わす、

と思われる、

心、
名誉、
自尊心、

等々自負心が

痛い、

というところからきていると見ているようだ。動詞、

ねたむ(妬・嫉)」、

は、形容詞、

ねたし、

と語幹が共通し、

ウム(倦)→ウシ(憂)、
スズム(涼)→スズシ(涼)、

と同様の関係と考えられる(日本語源大辞典)とあるが、

「ねたし」+接尾辞「む」

とする説https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%AD%E3%81%9F%E3%82%80もあり、また、

形容詞「ねたし」から動詞「ねたむ」が生まれた、

とする説(日本語源大辞典)もある。これに一考の余地があるのは、

ねたし、

と類義語の、

ねたまし、

が、動詞、

ねたむ、

を形容詞化した派生語とされるからである。そうなると、

ねたし→ねたむ→ねたまし、

と変成したことになる。

「嫉」.gif


「嫉」(漢音シツ、呉音ジチ)は、「妬む」で触れたように、

会意兼形声。疾は「疒(やまい)+矢」からなり、矢のようにきつくはやく進行する病を意味する。嫉は「女+音符疾」。女性にありがちな、かっと頭にくる疳の虫、つまりヒステリーのこと、

とある(漢字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AB%89)。別に、

会意兼形声文字です(女+疾)。「両手をしなやかに重ねひざまずく女性」の象形と「人が病気で寝台にもたれる象形と矢の象形」(人が矢にあたって傷つき、寝台にもたれる事を意味し、そこから、「やまい」の意味)から、女性の病気「ねたみ」を意味する「嫉」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2076.html

「妬」.gif


「妬」(漢音ト、呉音ツ)は、

形声。「女+音符石(セキ)」で、女性が競争者に負けまいとして真っ赤になって興奮すること。石の上古音は妬(ト・ツ)の音になりうる音であった、

とある(漢字源)。別に、

形声文字です(女+石)。「両手をしなやかに重ねひざまずく女性」の象形と「崖の下に落ちている石」の象形(「石」の意味だが、ここでは、「貯」に通じ(「貯」と同じ意味を持つようになって)、「積もりたくわえられる」の意味)から、夫人(妻)の夫に対する積もった感情「ねたみ」を意味する「妬」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2077.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:52| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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