2024年04月10日

末摘花


人知れず思へば苦し紅(くれなゐ)の末摘花の色にいでなむ(古今和歌集)、

の、

末摘花、

は、

紅花、

のことで、源氏物語の、

末摘花の女君は鼻が紅いところからその名がある、

と注記がある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

ベニバナ.jpg



生薬として利用される乾燥した紅花.JPG

(生薬として利用される乾燥した紅花 仝上)

ベニバナ、

を、

末摘花、

と呼ぶのは、

茎の末の方から花が咲き始め、その茎の末に咲く黄色の頭花を摘み取って染料の紅をつくるからいう、

とある(広辞苑・大辞林)。

ベニバナ、

は、日本には5世紀頃に渡来したといわれ、古くは和名を、中国伝来の染料の意味で、

くれのあい(呉藍)、

といいhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%8A

万葉集にも、

外(よそ)のみに見つつ恋ひなむ紅の末摘む花の色に出(い)でずとも、

と詠われ、上代の和歌では、

紅の末摘花、

などと、

色に出づ、

を導き出す序詞とされる(精選版日本国語大辞典)、

成長すると草丈は0.5~1m、葉は5~10cmほどになり、初夏に半径2.5~4cmのアザミに似た花を咲かせます。咲き始めは鮮やかな黄色の花ですが、やがて色づき、赤くなります。種子は花1つにつき10~100個ほど、ヒマワリの種を小さくしたような種子がつきます。葉のふちに鋭いトゲがあり、このため花摘みはトゲが朝露で柔らかくなっている朝方に行われました、

とあるhttps://www.lib.yamagata-u.ac.jp/database/benibana/mame.html

キク科ベニバナ属、

の耐寒性の一年草で、

秋に種をまき、夏に花を咲かせ、翌冬に枯れます、

とある(仝上)。乾燥させた花は、

紅花(こうか)、

と呼ばれhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%8A、血行促進作用がある生薬として使われる。

源氏物語で、

末摘花、

とあるのは、

うちつぎて、あなかたはと見ゆるものは、鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢菩薩の乗物とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、先の方すこし垂りて色づきたること、ことのほかにうたてあり。色は雪恥づかしく白うて真青に、額つきこよなうはれたるに、なほ下がちなる面やうは、おほかたおどろおどろしう長きなるべし。痩せたまへること、いとほしげにさらぼひて、肩のほどなどは、いたげなるまで衣の上まで見ゆ(源氏物語)、

と、

常陸宮(ひたちのみや)の姫の、ながくのびた鼻の先が末摘花(ベニバナ)でそめたようにあかい、

ところからきている。

「末」.gif

(「末」 https://kakijun.jp/page/0576200.htmlより)

「末」(漢音バツ、呉音マツ・マチ)は、

指事。木のこずえのはしを、一印または・印で示したもので、木の細く小さい部分のこと、

とある(漢字源)。別に、

指事。「木」の上端部分に印を加えたもの「すえ」「こずえ」を意味する漢語{末 /*maat/}を表す字、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%AB

指事文字です。「大地を覆う木」の象形に「横線」を加えて、「物の先端・すえ・末端」を意味する「末」という漢字が成り立ちました

ともhttps://okjiten.jp/kanji698.htmlある。

「摘」.gif

(「摘」 https://kakijun.jp/page/1437200.htmlより)

「摘」(漢音テキ・タク、呉音チャク)は、

会意兼形声。帝は、三本の線を締めてまとめたさま。締(しめる)の原字。啻は、それに口を加えた字。摘は、もと「手+音符啻」で、何本もの指先をひとつにまとめ、ぐいと引き締めてちぎること、

とあり(漢字源)、

会意兼形声文字です(扌(手)+啇(啻))。「5本の指のある手」の象形と「木を組んで締めた形の神を祭る台の象形と口の象形」(「中心によせ集める」の意味)から、5本の指先を集めて、果物の実などを「つまみとる」を意味する「摘」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1214.htmlが、別に、

形声。「手」+音符「啇 /*TEK/」。「つまむ」を意味する漢語{摘 /*treek/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%91%98)

形声。手と、音符啇(テキ)→(タク)とから成る。つまみとる意を表す(角川新字源)、

と、形声文字とする者もある。

「花」.gif

(「花」 https://kakijun.jp/page/hana200.htmlより)

「花」(漢音カ、呉音ケ)は、「はな」で触れたが、

会意兼形声。化(カ)は、たった人がすわった姿に変化したことをあらわす会意文字。花は「艸(植物)+音符化」で、つぼみが開き、咲いて散るというように、姿を著しく変える植物の部分、

とある(漢字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:44| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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