2024年04月18日
飼ふ
駒とめてなほ水かはむ山吹の花の露そふ井手の玉川(皇太后宮大夫(藤原)俊成)、
の、
花の露そふ、
は、
詠歌一体で制詞とされる、
とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
制詞、
とは、
制(せい)の詞(ことば)、
ともいい、
禁制の歌詞、
といい、歌学で、
聞きづらいとか、耳馴れないとか、特定の個人が創始した表現であるなどの理由から、和歌を詠むに当たって用いてはならないと禁止したことば、
とされ、鎌倉初期の歌論書『詠歌一体(えいがいったい)』で、藤原為家が説いている(精選版日本国語大辞典)とある。
水かはむ、
は、
馬に水を飲ませよう、
の意で、
馬に飼料や水を与えること、
を、
飼ふ、
という(久保田淳訳注『新古今和歌集』)とある。
飼ふ、
は、
養ふ、
とも当て(大言海)、
さ檜(ひ)の隈(くま)檜(ひ)の隈川に馬駐(とど)め馬に水令飲(かへ)吾外(よそ)に見む(万葉集)、
と、
食物や水をあてがう、
意であり、日葡辞書(1603~04)にも、
エ(餌)ヲトリニカウ、
とある(広辞苑)。更に意味を広げて、
鉗(かなき)着け吾が柯賦(カフ)駒は引出せず(日本書紀)、
と、
食べ物や水などを与えて生命を養う、
つまり、
飼育する、
意でも使う(精選版日本国語大辞典)。さらに転じて、
人にくすりをかふて馬になす(狂言「人を馬(室町末‐近世初)」)、
と、
人や動物に毒や薬などを与える、
また、比喩的に用いて、
悪知恵などを授ける、
意でも使う(仝上)。
飼ふ、
の由来は、
支(か)ふと通ずるか、口に支ふ意、宛てがふ、土かふ同じ(大言海)、
とあるのが妥当に思える。他に、
食物をアテガフル意(和句解)、
ケフ(食触)の義(言元梯)、
家生の義(和語私臆鈔)、
キアフ(来合)の約、かう人の心とかわれる者の心の来合うこと(国語本義)、
カヒ(飼)はクハリ(配)イヒの義、クハの約か、リ、イを略す(和訓考)
クサハム(草喰)の反(名語記)、
等々あるが、
カフ、
の音からの解釈が多く、もともとの、
食物や水をあてがう、
という意とも反する気がする。
支(か)ふ、
は、
あななう、
支えんと當つ、
支柱をなす、
つっかう、
意で(大言海)、
心張り棒をかう、
鍵をかう、
と今でも使う。
あななう(扶翼)、
は、
彌(いや)務めに彌結(しま)りに阿奈々比(アナナヒ)奉り、輔佐(たすけ)奉らむ事に依りて(續日本紀)、
と、
助ける、
補佐する、
意で、
「たすく(助)」と併用されることが多い、
とある(精選版日本国語大辞典)。名詞、
あななひ(麻柱)、
は、
支柱、
の意である(大言海)。
「飼」(漢音シ、呉音ジ)は、
形声。「食+音符司」。司の本の意味は関係がない、
とある(漢字源)が、別に、
形声。「食」+音符「司 /*LƏ/」。「やしなう」を意味する漢語{飼 /*sləks/}を表す字。もと「食」が{飼}を表す字であったが、音符を加えた(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A3%BC)、
とあり、
会意で、食と、人(ひと)とから成る。飼は、形声で、食と、音符司(シ)とから成る。「やしなう」意を表す(角川新字源)、
会意兼形声文字です(食+司)。「食器に食べ物を盛り、それにふたをした」象形(「食べ物」の意味)と「まつりの旗・口の象形」(「祭事を司る(職務として行う)」の意味)から動物を「かう(養い育てる)」を意味する「飼」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji816.html)、
と、会意文字、会意兼形声文字とする説もある。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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