2024年05月06日

たぎつ


おろかなる涙ぞ袖に玉はなす我はせきあへずたぎつ瀬なれば(古今和歌集)、

の、

たぎつ、

は、

水が激しく流れる、

意である(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

たぎつ、

は、

滾つ、
激つ、

と当て、現代でも使う、

たぎる(滾・沸)、

と同語源とあり(精選版日本国語大辞典)、

たき(滝)と同源、

とある(岩波古語辞典)。

たぎつ、

は、古くは、

たきつ、

と清音で、

高山の石本(いはもと)たぎちゆく水の音には立てじ恋ひて死ぬとも(万葉集)、

と、

水がわきあがり、逆巻き流れる、水があふれるように激しく流れる。

意から、これをメタファに、

嘆きせば人知りぬべみ山川のたぎつ心を(瀧情乎)塞(せ)かへてあるかも(万葉集)、

と、

心がたかまる、
心がわきかえる、
激情がおしよせる、
いらだつ、

といった意で使う(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。万葉仮名で、

滝、

と当てているように、

「滝(たぎ・たき)」「たぎる(滾)」と同根の語で、名詞形は「たぎち」(精選版日本国語大辞典)、

とされ、

たぎつ、

は、

滝の活用(大言海・言元梯)、

とする。他に、

タは勢いを示し、強声、強音を表す語(国語の語根とその分類=大島正健)、
タは当たる意のタギ入義(国語本義)、

ともあるが、

タやすい、
タもとはり、
タ遠み、

などと使う(岩波古語辞典)接頭語とは異なる気がする。

滝の活用、

が、自然な気がするが、どうだろう。なお、「滝」については、

滝川

で触れた。

動詞「たぎつ」の連用形の名詞化が

たぎち(滾・激)、

で、

川の瀬の激(たぎち)を見れば玉かも散り乱れたる川の常かも(万葉集)

と、

水が激しく流れること、
水などのわきあがること、
激流、
奔流、

の意で使う(精選版日本国語大辞典)。

たぎつ瀬に根ざしとどめぬ浮草の浮たる恋もわれはするかな(古今和歌集)、

の、

たきつ瀬、
たぎつ瀬、

の、

「つ」は「の」の意の格助詞、

で、

水の激しく流れる瀬、
また、
滝、

の意で、枕詞として、「はやし」にかかる(仝上)。

たぎつ、

と同源の、

たぎる、

は、

滾る、
沸る、

は、

わきいづる涙の川はたぎりつつ恋ひしぬべくもおぼほゆるかな(宇津保物語)、

と、

川の水などが勢い激しく流れる、
さかまく、

意や、それをメタファに、

ココロノ taguiru(タギル)(日葡辞書)、

と、

怒り・悲しみ・焦慮などの感情が激しくわきあがる、
また、
心がわきたつ、

意は同じだが、その外、

この水、あつ湯にたぎりぬれば、湯ふてつ(大和物語)、

湯などが煮えたつ、
沸騰してわきかえる、

意や(にえたぎる(煮え滾る)と使う)、それをメタファに、

其の役たぎらぬ人は何時からも役替(やくがへ)してみたがよし(評判「二挺三味線大阪」)、

と、

熱中する、

意でも使う(岩波古語辞典)。この名詞形が、

たぎり(滾・沸)、

になる(精選版日本国語大辞典)。

「滾」.gif


「滾」(コン)は、

会意兼形声。「水+袞(エン・コン まるい)」、

とある(漢字源)。「滾滾」と、「水がぼこぼこと転がるように流れるさま」の意である。

「袞」.gif

(「袞」 https://kakijun.jp/page/E5CF200.htmlより)

「袞」(コン)は、

会意文字。もと「衣+公(おおやけ)」で、公式の衣類をあらわす、まるくてゆったりとしている意を含む、

とある(仝上)。

袞袞(コンコン)、

というと、

あとからあとから続いて絶え間ない、

意であり、

不尽長江滾滾来(杜甫・登高)、

の、

滾々(コンコン)、

も、

水が盛んに流れるさま、

をいう(仝上・字源)。

「激」.gif

(「激」 https://kakijun.jp/page/1634200.htmlより)

「激」(慣用ゲキ、漢音ケキ、呉音キャク)は、

会意兼形声。敫は「白+放」の会意文字で、水が当たって白いしぶきを放つこと。激はそれを音符として、水印を加えて、原義を明示したもの、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(氵(水)+敫)。「流れる水」の象形(「水」の意味)と「白い骨と柄のある農具:すきの象形と右手の象形とボクッという音を表す擬声語」(「うつ・たたく」の意味)から、水が岩などにあたって、「はげしい」を意味する「激」という漢字が成り立ちました、

と「擬声語」とするものhttps://okjiten.jp/kanji913.html)の他、

「会意形声文字」と解釈する説があるが、誤った分析である、

として、

形声。「水」+音符「敫 /*KEWK/」。「はげしい」を意味する漢語{激 /*keewk/}を表す字、

とかhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%BF%80

形声。水と、音符敫(ケウ)→(ケキ)とから成る。水が岩などにはげしくあたってしぶきをあげる、ひいて「はげしい」意を表す、

とか(角川新字源)、形声文字とするものがある。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:23| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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