2024年05月08日

すがる


すがる鳴く秋の萩原朝立ちて旅行く人をいつとか待たむ(古今和歌集)、

の、

すがる、

は、

じが蜂、

のこととある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

腰が細いことから女性の形容となる、

とあり、

梓弓(あづさゆみ)末の珠名(たまな)は胸別(むなわけ)の広き吾妹(わぎも)腰細の須軽娘子(すがるをとめ)のその姿(かほ)の端正(きらきら)しきに(万葉集)

の、

須軽娘子(蜾蠃少女・蜾蠃娘子 すがるをとめ)、

は、

じがばちのように腰細(こしぼそ)でなよやかな美しい少女、

という(精選版日本国語大辞典・広辞苑)、

細腰の美女、珠名娘子(たまなおとめ)の形容、

だが、平安後期になると、

すがる伏す木(こ)ぐれが下の葛まきを吹き裏反へす秋の初風(山家集)、

と、

鹿、

と理解されてゆく(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。冒頭の歌の、

鳴く、

とあるのは、

蜂の羽音、

で、

珍しい例であり、この例などが「すがる」を鹿と理解させてゆく原因であるかもしれない、

ともある(仝上)。

珠名娘子(たまなのいらつめ)、

は、『万葉集』に登場する女性で、上記歌(高橋虫麻呂)は、

しなが鳥安房に継ぎたる梓弓末の珠名は胸別けの広き我妹(わぎもこ)腰細の蝶嬴娘子(すがるをとめ)のその姿(かほ)のきらきらしきに花のごと笑みて立てれば玉桙の道行く人はおのが行く道は行かずて呼ばなくに門に至りぬさし並ぶ隣の君はあらかじめ己妻(おのづま)離(か)れて乞はなくに鍵さへ奉る人皆のかく惑へればうちしなひ寄りてぞ妹はたはれてありける、

が全文で、珠名は、

豊かな胸とくびれた蜂のような腰を持つ晴れやかな女性、

で、

蝶嬴娘子(すがるおとめ)、

と呼ばれ、

花が咲くように微笑み、立っていれば、道行く人は自分の行べきであった道を行かず、呼ばれもしないのに珠名の家の門に来た。珠名の家の隣の主人は、あらかじめ妻と別れて、頼まれないのに予め自分の家の鍵を珠名に渡すほどであった。男たちが皆自分に惑うので、珠名は、たとえ夜中であっても、身だしなみを気にせずに、男達に寄り添って戯れた、

という伝説を詠んだ歌に登場しているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8F%A0%E5%90%8D%E5%A8%98%E5%AD%90

すがる、

は、

蜾蠃、

と当て、

じがばち(似我蜂)の古名(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典・大言海)、
ジバチの異称(広辞苑)、

また、

はち(蜂)の異名(精選版日本国語大辞典)、
草木の花に睦(むつ)れて、露を吸う虻の類までを云ふ(大言海)、
広く蜂や昆虫の総称(岩波古語辞典)、

ともあり、

すがれ、

ともいう(広辞苑)とある。

すがる、

は、

じがばち科。じがばち。蜂。体長2センチ程の狩人ばち。蝶や蛾の幼虫を捕え地中の穴にたくわえる。黒色。腹部はくびれて細長く、赤色の帯がある。どろで巣をつくる、

とあるhttps://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/detailLink?cls=db_yougo&pkey=20072

ジガバチ.jpg



クロスズメバチ.jpg

(ジバチ(クロスズメバチ) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BA%E3%83%A1%E3%83%90%E3%83%81ヨリ)

ジバチ、

は、

土中に営巣する、

ので似た生態だが、

昆虫綱膜翅(まくし)目のスズメバチ科に属するクロスズメバチ類の俗称、

で、

女王・雄16mm、働きバチ12mm内外。ややかわいた地中に球形の大きな巣を作り、その中に数段の幼虫室を作る。幼虫はよく肥大し、脂肪に富むため食用にされる、

とある(日本大百科全書・マイペディア)ので、違うのではないかと思うが、日本では地方によって、

ヘボ、
ジバチ、
タカブ、
スガレ、

などと呼ばれるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BA%E3%83%A1%E3%83%90%E3%83%81とあるので、

すがる、

と呼ばれる地域もあるようだ。

ジガバチ、

は、

似我蜂、
細腰蜂、

と当て、

雌は幼虫の餌シャクトリムシなどを捕えて地中の穴に貯え、産卵後、穴をふさぐ、

が、

獲物を運ぶとき羽音がじがじがと聞こえ、他の虫を自分の巣に入れて似我似我と言い聞かせて育てると考えた、

ところから、

ジガバチ、

の名がついたという(精選版日本国語大辞典)。

すがる、

以外に

こしぼそばち、
じが、

とも呼ばれ(仝上)、

すがる、

という名の由来も、

鳴く聲を名とせる(大言海)、

とする説がある。

「蜂」.gif


「蜂」(漢音ホウ、呉音フ・フウ)は、

会意兼形声。夆は、△型をなす意を含む。蜂はそれを音符とし、虫を加えた字で、女王蜂を中心に△型の集団をなして移動するハチ、

とある(漢字源)が、他は、

かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、

とありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%9C%82

形声。「虫」+音符「夆 /*PONG/」。「はち」を意味する漢語{蜂 /*ph(r)ong/}を表す字。「蠭」の音符を変更した字である、

と(仝上)、

形声。意符䖵(こん)(多くの虫。虫は省略形)と、音符逢(ホウ)(夆は省略形)とから成る。「はち」の意を表す、

と(角川新字源)、

形声文字です(虫+夆)。「頭が大きくてグロテスクなまむし」の象形(「虫」の意味)と「下向きの足の象形と草木の葉の寄り合い茂る」象形(「足が一点に寄り合っていく、逢う」の意味だが、ここでは、「鋒(ほう)」に通じ、「矛先」の意味)から、矛先のような針のある虫「はち」を意味する「蜂」という漢字が成り立ちました、

https://okjiten.jp/kanji331.html、形声文字とする。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:12| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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