2024年05月09日

通ひ路


春霞中し通ひ路なかりせば秋來る雁は帰らざらまし(古今和歌集)、

の、

通ひ路、

は、

空と地上とをつなぐ路、

とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、

春くれば雁かへるなり白雲の道ゆきぶりにことやつてまし(仝上)、

の、

白雲の道、

と同じく、

雁の通り道、

の意である(仝上)。

住の江の岸に寄る波夜さへや夢の通ひ路人目よくらむ(仝上)

の、

夢の通路、

は、

夢の中の想う相手へ通う路、

で、

思いやるさかひははるかになりやするまどふ夢路にあふ人のなき(仝上)

の、

夢路、

に同じで、

夢の中の路が思いを寄せる人へとつながる、

意であり(仝上)、

夏と秋とゆきかふ空のかよひぢはかたへ涼しき風や吹くらむ(仝上)

の、

空のかよひぢ、

は、

天つ風雲の通ひ路吹きとぢよをとめの姿しばしとどめむ(仝上)

の、

雲の通ひ路、

と同じ(仝上)とあり、

雲の中を通る天と地上をつなぐ道、

の意となる(仝上)。

通ひ路(かよひぢ)、

は、文字通り、

妹らがりと我が通路の篠すすき我れし通はば靡け篠原(万葉集)、

と、

通う道、
往来する道、

の意で(大言海)、

茲(ここ)より西は浜なり。……通道(かよひぢ)の経るところなり(出雲風土記)、

と、

駅路の公道、

の意などで使うが、それをメタファに、

人知れぬわがかよひぢの関守はよひよひごとにうちも寝ななん(伊勢物語)、

と、

恋人の所へ通う道、

の意となる(精選版日本国語大辞典)。

通路、

を、

つうろ、

と訓ませると、

北無通路(晉書)、

と、

漢語で、日本でも、

阿波国、境土相接、往還甚易。請就此国、以為通路。許之 (続日本紀)

と、

通行のための道路、

の意や、そこから広げて、

然者此谷可有通路事、地下難叶之由可申也(政基公旅引付)、

と、

道を往き来すること、

の意や、それをメタファに、

あすすぐに返弁し向後房とはつうろせぬ(浄瑠璃「心中重井筒」)、

と、

交際すること、
手紙などのやりとりをすること、

等々の意でも使う(精選版日本国語大辞典)。

「通」.gif

(「通」 https://kakijun.jp/page/1076200.htmlより)

「通」(漢音ツ・トウ、呉音ツウ)は、

会意兼形声。用(ヨウ)は「卜(棒)+長方形の板」の会意文字で、棒を板にとおしたことを示す。それに人を加えた甬(ヨウ)の字は、人が足でとんと地板をふみとおすこと。通は「辶(足の動作)+音符甬」で、途中でつかえてとまらず、とんとつきとおること、

とある(漢字源)。別に、

形声。「辵」+音符「甬 /*LONG/」。「とおる」を意味する漢語{通 /*hloong/}を表す字、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%80%9A

形声。辵(または彳(てき))と、音符甬(ヨウ)→(トウ)とから成る。つきとおる、まっすぐにとおっている、ひいて「かよう」意を表す、

とも(角川新字源)、

会意兼形声文字です(辶(辵)+甬)。「立ち止まる足の象形と十字路の象形」(「行く」の意味)と「甬鐘(ようしょう)という筒形の柄のついた鐘」の象形(「筒のように中が空洞である」の意味)からつつのように空洞で障害物なくよく「とおる」を意味する「通」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji367.htmlが、ほぼ趣旨は同じである。

「路」.gif


「路」 金文・西周.png

(「路」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%B7%AFより)

「路」(漢音ロ、呉音ル)は、

形声。各は「夂(足)+口(かたい石)」からなり、足が石につかえて、ころがしつつ進むことを示す。路は「足+音符各(ラク・カク)で、もと連絡みちのこと、

とあり(漢字源)、別に、

会意兼形声文字です(足+各)。「人の胴体の象形と立ち止まる足の象形」(「足」の意味)と「下向きの足、口の象形」(神霊が降ってくるのを祈る意味から「いたる」の意味)から人が歩きいたる「みち」を意味する「路」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji550.html

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:30| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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