春霞中し通ひ路なかりせば秋來る雁は帰らざらまし(古今和歌集)、
の、
通ひ路、
は、
空と地上とをつなぐ路、
とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、
春くれば雁かへるなり白雲の道ゆきぶりにことやつてまし(仝上)、
の、
白雲の道、
と同じく、
雁の通り道、
の意である(仝上)。
住の江の岸に寄る波夜さへや夢の通ひ路人目よくらむ(仝上)
の、
夢の通路、
は、
夢の中の想う相手へ通う路、
で、
思いやるさかひははるかになりやするまどふ夢路にあふ人のなき(仝上)
の、
夢路、
に同じで、
夢の中の路が思いを寄せる人へとつながる、
意であり(仝上)、
夏と秋とゆきかふ空のかよひぢはかたへ涼しき風や吹くらむ(仝上)
の、
空のかよひぢ、
は、
天つ風雲の通ひ路吹きとぢよをとめの姿しばしとどめむ(仝上)
の、
雲の通ひ路、
と同じ(仝上)とあり、
雲の中を通る天と地上をつなぐ道、
の意となる(仝上)。
通ひ路(かよひぢ)、
は、文字通り、
妹らがりと我が通路の篠すすき我れし通はば靡け篠原(万葉集)、
と、
通う道、
往来する道、
の意で(大言海)、
茲(ここ)より西は浜なり。……通道(かよひぢ)の経るところなり(出雲風土記)、
と、
駅路の公道、
の意などで使うが、それをメタファに、
人知れぬわがかよひぢの関守はよひよひごとにうちも寝ななん(伊勢物語)、
と、
恋人の所へ通う道、
の意となる(精選版日本国語大辞典)。
通路、
を、
つうろ、
と訓ませると、
北無通路(晉書)、
と、
漢語で、日本でも、
阿波国、境土相接、往還甚易。請就此国、以為通路。許之 (続日本紀)
と、
通行のための道路、
の意や、そこから広げて、
然者此谷可有通路事、地下難叶之由可申也(政基公旅引付)、
と、
道を往き来すること、
の意や、それをメタファに、
あすすぐに返弁し向後房とはつうろせぬ(浄瑠璃「心中重井筒」)、
と、
交際すること、
手紙などのやりとりをすること、
等々の意でも使う(精選版日本国語大辞典)。
「通」(漢音ツ・トウ、呉音ツウ)は、
会意兼形声。用(ヨウ)は「卜(棒)+長方形の板」の会意文字で、棒を板にとおしたことを示す。それに人を加えた甬(ヨウ)の字は、人が足でとんと地板をふみとおすこと。通は「辶(足の動作)+音符甬」で、途中でつかえてとまらず、とんとつきとおること、
とある(漢字源)。別に、
形声。「辵」+音符「甬 /*LONG/」。「とおる」を意味する漢語{通 /*hloong/}を表す字、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%80%9A)、
形声。辵(または彳(てき))と、音符甬(ヨウ)→(トウ)とから成る。つきとおる、まっすぐにとおっている、ひいて「かよう」意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(辶(辵)+甬)。「立ち止まる足の象形と十字路の象形」(「行く」の意味)と「甬鐘(ようしょう)という筒形の柄のついた鐘」の象形(「筒のように中が空洞である」の意味)からつつのように空洞で障害物なくよく「とおる」を意味する「通」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji367.html)が、ほぼ趣旨は同じである。
(「路」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%B7%AFより)
「路」(漢音ロ、呉音ル)は、
形声。各は「夂(足)+口(かたい石)」からなり、足が石につかえて、ころがしつつ進むことを示す。路は「足+音符各(ラク・カク)で、もと連絡みちのこと、
とあり(漢字源)、別に、
会意兼形声文字です(足+各)。「人の胴体の象形と立ち止まる足の象形」(「足」の意味)と「下向きの足、口の象形」(神霊が降ってくるのを祈る意味から「いたる」の意味)から人が歩きいたる「みち」を意味する「路」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji550.html)。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95