さゆ
笹の葉に置く霜よりも一人寝(ぬ)るわが衣手ぞさえまさりける(古今和歌集)、
の、
さゆ、
は、
冷える、凍る、
意である(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
さやけし、
で触れたことだが、
サユ(冴)は、
さやけしと同根、
であり(岩波古語辞典)、
さやか(分明・亮か)のサヤと同根、
とある(仝上)。
さや、
は、
清、
と当て、
あし原のしけしき小(を)屋に菅畳、いやさや敷きてわが二人寝し(古事記)、
と、
すがすがしいさま、
の意だが、やはり、
日の暮れに碓井の山を越ゆる日は背(せ)なのが袖もさや振らしつ(万葉集)
と、
ものが擦れ合って鳴るさま、
の意もあり(岩波古語辞典)、
冷たい、
凍(冱)る、
意をメタファに、
(光や音が)冷たく澄む、
意でも使う(仝上)。だから、
冴ゆ、
は、
沍(さ)ゆ、
とも当て、
さざ浪や志賀の唐崎さえて比良 (ひら) の高嶺にあられ降るなり(新古今和歌集)、
と、色葉字類抄(1177~81)に、
冴、サユ、凍、サユ、
とあるように、
冷え込む、
冷たく凍る、
意だが、それをメタファに、
山かげや岩もる清水音さえて夏のほかなるひぐらしの声(千載集)、
雪うち散りつつ、いみじく激しくさえ凍る暁がたの月の、ほのかに濃き掻練(かいねり)の袖に映れるも(更科日記)、
浜名の橋を渡り給へば松の梢に風冴えて入江に騒ぐ波の音(平家物語)
等々と、
光、音、色などが、冷たく感じるほど澄む、
また、
まじりけがないものとしてはっきり感じられる、澄みきる、
意で(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)、
冴ゆる夜、
冴ゆる月、
冴ゆる星、
冴ゆる風、
声冴ゆる、
影冴ゆ、
等々と使い、さらに、それをメタファに、
万葉はげに代もあがり、人の心もさえて(「毎月抄(1219)」)、
眠られぬ儘に過去(こしかた)将来(ゆくすゑ)を思ひ回らせば回らすほど、尚ほ気が冴(サエ)て眠も合はず(浮雲)、
と、
気持が純粋で澄みきる、
目や頭の働き、神経、気持などがはっきりする、
意で使ったり、
さえた腕の職人だ、
包丁さばきがさえる、
というように、
技術があざやかである、
すぐれている、
意でも使う(仝上・デジタル大辞泉)。
冱、堅凍也、
冴同冱、
とある(宋代の漢字を韻によって分類した韻書『集韻(しゅういん)』)ように、
冴、
は、
冱、
の異字体である。
「冴(冱)」(漢音コ、呉音ゴ)は、
形声文字。「冫(こおり)+音符牙」
とあり(漢字源)、
形声文字です(冫+互(牙))。「氷の結晶」の象形と「木枠を交差させて組んだ縄巻器」の象形(「互いに」の意味だが、ここでは、「固(コ)」に通じ(同じ読みを持つ「固」と同じ意味を持つようになって)、「かたまる」の意味)から、「凍る」、「寒い」、「ふさぐ」、「ふさがる」を意味する「冱」という漢字が成り立ちました。のちに、「互」の形が「牙」に変化して「冴」という漢字が成り立ちました。「冱」は「冴」の旧字(以前に使われていた字)です、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2184.html)。しかし、
形声。声符は互(ご)。〔玉篇〕に「寒(こご)ゆるなり」とみえ、寒さのため冰り、ものが凝り固まることをいう。「荘子」斉物論に、至人の徳を称して「河漢冱るも寒(こご)えしむること能はず」という。わが国では寒さのさえることをいい、冴の字を用いるが、字形を誤ったものであろう。互に連互する意があり、広く結氷してゆく状態をいう、
とあり(字通)、
冱、
が正字とする。同様、
形声。冫と、音符互(ゴ)(牙は誤った形)とから成る、
とする(角川新字源)。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント