2024年05月15日
玉の緒
死ぬる命生きもやするとこころみに玉の緒ばかりあはむといはなむ(古今和歌集)、
の、
玉の緒、
は、
玉に通した緒、
で、
「短い」、「切れやすい」ことから、はかなさの象徴、
ここでは、
ほんのわずかの時間、
の意(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)とある。
玉の緒(たまのを)、
は、文字通り、
始春(はつはる)の初子(はつね)の今日の玉箒(たまばはき)手に執(と)るからにゆらく多麻能乎(タマノヲ)(万葉集)、
と、
玉を貫き通した緒、
で、
首飾りの美しい宝玉をつらぬき通す紐、
または、
その宝玉の首飾りそのもの、
をも指し、
玉飾り、
ともいう(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。中古以後には、転じて、
草木におりた露のたとえ、
として用いられるようになり(精選版日本国語大辞典)、
玉をつなぐ緒が短いところから、
も、
さ寝(ぬ)らくは玉の緒ばかり恋ふらくは富士の高嶺の鳴沢のごと(万葉集)、
逢ふことは玉の緒ばかり思ほえてつらき心の長く見ゆらむ(伊勢物語)、
と、
短いことのたとえ、
に用いるようになる(岩波古語辞典・デジタル大辞泉)。さらに、
魂(たま)を身体につないでおく緒、
つまり、
魂の緒、
の意で、
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする(新古今和歌集)、
ぬきもあへずもろき涙の玉の緒に長き契をいかが結ばむ(源氏物語)、
と、
生命。いのち、
の意で使い、枕詞として、
玉の緒の、
は、
玉の緒が切れる、
の意で、
新世(あらたよ)に共にあらむと玉緒乃(たまのをノ)絶えじい妹と結びてし言(こと)は果さず(万葉集)、
と、「絶ゆ」にかかり、また、
玉の緒が長いように、
の意で、
相思はずあるらむ子故玉緒(たまのをの)長き春日を思ひ暮さく(万葉集)、
と、「長し」にかかり、
玉の緒が短いように、
の意で、
伊勢の海の浦のしほ貝拾ひ集め取れりとすれど玉の緒の短き心思ひあへずなほあらたまの(古今和歌集)、
と、「みじかし」にかかり、
玉の緒が乱れる、
の意で、
ちひさす宮路を行くに吾が裳は破(や)れぬ玉緒(たまのを)の思ひ乱れて家にあらましを(万葉集)、
と、「思ひみだる」にかかり、
玉の緒をくくる、
意で、
玉緒之(たまのをの)くくり寄せつつ末(すゑ)つひに行きは別れず同じ緒にあらむ(万葉集)、
と、「くくり寄す」「継ぐ」「間も置かず」にかかり、
緒を縒(よ)る、
の意で、
うつつには逢ふことかたし玉の緒の夜は絶えせず夢に見えなん(拾遺集)、
と、「夜」に続き、
まそ鏡見れども飽かず珠緒之(たまのをの)惜しき盛りに(万葉集)、
と、玉の緒の「緒(を)」と同音を含む「惜し」にかかり、
生命、
の意で、
玉緒之(たまのをの)うつし心や年月(としつき)のゆきかはるまで妹に逢はざらむ(万葉集)、
と、「現(うつ)し心」にかかり、
魂の緒の命、
の意で、
逢ふことも誰がためなればたまのをの命も知らず物思ふらん(続後撰集)、
と、「いのち」にかかる(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
「緒」(漢音ショ、呉音ジョ、慣用チョ)は、
会意兼形声。「糸+音符者(シャ 集まる、つめこむ)」。転じて糸巻にたくわえた糸のはみ出た端の意となった、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(糸+者(者))。「より糸」の象形と「台上にしばを集め積んで火をたく」象形(「煮る」の意味)から、繭(まゆ)を煮て糸を引き出す事を意味し、そこから、「いとぐち(糸の先端)」を意味する「緒」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1798.html)が、
形声。糸と、音符者(シヤ)→(シヨ)とから成る。糸のはじめ、「いとぐち」の意を表す。常用漢字は省略形による、
と(角川新字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B7%92)、形声文字とする説もある。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください