ふりづ(振出)


紅のふり出でつつ泣く涙には袂のみこそ色まさりけれ(古今和歌集)、

の、

ふり出づ、

は、

紅に染色するとき、よく染まるように水の中で衣を振る、声を振り絞る意の、「ふりいづ」とかける、

とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、

思い出づるときはの山のほととぎす韓紅(からくれなゐ)のふり出(で)てぞ鳴く(仝上)、

の、

ふり出(づ)、

は、

ふりいづの約、

であり(岩波古語辞典)、

紅に染色するとき、水の中でよく染まるように衣を振る、

意だが、その、

ふりいづ、

と、聲を振り絞る意の、

ふりいづ、

の掛詞(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)とある。

ふりいづ、

は、

振り出づ、

と当て、

雪かきたれて降る。かかる空にふりいでむも人目いとほしう(源氏物語)、

と、文字通り、

振り切って出かける、

意だが、それをメタファに、

鈴虫のふりいでたるほど、はなやかにをかし(源氏物語)、

と、

声を高く張り上げる、

意でも使い、さらに、冒頭の、

紅のふり出でつつ泣く涙には袂のみこそ色まさりけれ(古今和歌集)、

と、

紅を水に振り出して染める、

意でも使うが、和歌では、多く、

声を高く張り上げる、

意に掛けて使う(岩波古語辞典・学研全訳古語辞典)。

「振」.gif


「振」(シン)は、

会意兼形声。辰(シン)は、蜃(シン はまぐり)の原字で、貝が開いてぴらぴらとふるう舌の出たさまを描いた象形文字。振は「手+音符辰」で、貝のように、小きざみにふるえ動くこと、

とあり(漢字源)、同趣旨で、

会意兼形声文字です(扌(手)+辰)。「5本の指のある手」の象形と「二枚貝が殻から足を出している」象形(「ふるえる」の意味)から、「ふるう」を意味する「振」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1390.htmlが、

形声。「手」+音符「辰 /*TƏN/」。「ふる」「ふるう」を意味する漢語{振 /*təns/}を表す字、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%8C%AF

形声。手と、音符辰(シン)とから成る。すくう、たすける意を表す。もと、賑(シン)の本字。ひいて、さかんにする意に用いる、

とも(角川新字源)ある。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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