2024年05月29日

和羹(わこう)


位竊和羹重(位は和羹の重きを竊(ぬす)み)
恩叨酔酒深(恩は酔酒の深きを叨(みだ)りにす)(張説(ちょうえつ)・恩制賜食於麗正殿書院宴賦得林字)

の、

和羹、

は、

宰相、

の意、

羹は肉入りのスープのような料理、和はその味をととのえたもの。殷の高宗が名宰相の傅説(ふえつ)を任命したとき、「もし和羹をつくろうとするときは、そちが味を調えよ」といった故事から、天下の政治を料理の味つけにたとえて、

とある(前野直彬注解『唐詩選』)。

和羹(わこう)、

は、

和羹如可適、以此作塩梅(「書経」説命)、

と、

肉や野菜など種々のものを混ぜて味を調和させた羹(あつもの)、

を言う(精選版日本国語大辞典)。「羊羹」で触れたように、

羹、

は、

古くから使われている熱い汁物という意味の言葉で、のちに精進料理が発展して「植物性」の材料を使った汁物をさすようになりました。また、植物に対して「動物性」の熱い汁物を「臛(かく)」といい、2つに分けて用いました、

とありhttps://nimono.oisiiryouri.com/atsumono-gogen-yurai/、「あつもの」は、

臛(カク 肉のあつもの)、
懏(セン 臛の少ないもの)、

と載る(字源)。その、

塩梅、

の意をメタファに、上記のように、

君主を助けて天下を宰領すること、また、その人、

つまり、

天下を調理する、

という意で、

宰相、

を言う(精選版日本国語大辞典・字源)。で、上述の、

若作和羹、爾惟鹽梅(書経・説命)、

によって、

和羹塩梅(わこうあんばい)、

という四字熟語があり、

「和羹」はいろいろな材料・調味料をまぜ合わせ、味を調和させて作った吸い物、

で、

「塩梅」は塩と調味に用いる梅酢、

をいい、この料理は、

塩と、酸味の梅酢とを程よく加えて味つけするものであることから、上手に手を加えて、国をよいものに仕上げる宰相らをいう、

とある(新明解四字熟語辞典)。

傅説.jpg

(傅説 デジタル大辞泉より)

傅説(ふえつ)、

は、

紀元前10世紀ごろの人、

で、伊尹や呂尚と並んで、名臣の代表として取り上げられる。「書経」の「説命(えつめい)」に、

中国殷の武丁(高宗)の宰相。武丁が聖人を得た夢を見、その夢に従って捜したところ見い出して、宰相にした、

という(精選版日本国語大辞典)。『史記』殷本紀には、

武丁夜夢得聖人名曰説、以夢所見視群臣百吏、皆非也。於是廼使百工営求之野、得説於傅険中。是時説為胥靡、築於傅険。見於武丁。武丁曰是也。得而与之語、果聖人、挙以為相、殷国大治。故遂以傅険姓之、号曰傅説、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%82%85%E8%AA%AC

夢に「説」という名前の聖人を見たため、役人に探させたところ、傅険という名の岩屋で罪人として建築工事にたずさわっているのが発見された。傅険で見つかったので傅を姓とした、

という(仝上)。『史記』封禅書には、

後十四世、帝武丁得傅説為相、殷復興焉、稱高宗、

と、

傅説を用いることで、衰えていた殷はふたたび盛んになり、武丁は高宗とよばれるようになった、

とある(仝上)。『国語』楚語上には、

昔殷武丁……如是而又使以象夢求四方之賢、得傅説以来、升以為公、而使朝夕規諫、曰:若金、用女作礪。若津水、用女作舟。若天旱、用女作霖雨。啓乃心、沃朕心。若薬不瞑眩、厥疾不瘳。若跣不視地、厥足用傷、

と、

武丁が夢に見た人間の姿を描いて役人に探させ、傅説を得て公となし、自分に対して諫言させた、

とある(仝上)。傅説は、『荘子』大宗師に、

傅説得之(=道)、以相武丁、奄有天下、乗東維、騎箕・尾、而比於列星、

と、

星になった、

と言われ、尾宿に属する星に傅説の名がある(仝上)。『荀子』非相には、

傅説之状、身如植鰭、

とある。なお、『書経』説命(えつめい)篇は後世の偽書とされ、近年清華簡の中から戦国時代の本物の説命(傅説之命)が発見され、それによると、

傅説ははじめ失仲という人に仕えていた。殷王は傅説の夢をみて、役人に探させたところ、傅巌で城壁を築いていた傅説を弼人が発見した。天は傅説に失仲を討たせた。王は傅説を公に就任させ、訓戒を与えた、

とある(仝上)。

「羹」.gif



「羮」.gif


「羹」(漢音コウ、呉音キョウ、唐音カン)は、

会意文字。「羔(まる蒸した子羊)+美(おいしい)」、

とある(漢字源)。しかし、

「羔」+「美」と説明されることがあるが、これは誤った分析である。金文の形をみればわかるように、この文字の下部は「鬲」の異体字に由来しており「美」とは関係がない、

とありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%BE%B9

会意。「𩱧」の略体で、「羔」+「𩰲火」(「鬲」の異体字)、

とする(仝上)

羮(俗字)、
𩱁(同字)、

は異字体である(仝上)。

参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:14| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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