2024年06月03日

隠沼


紅の色には出でじ隠れ沼(ぬ)の下にかよひて恋は死ぬとも(古今和歌集)、

の、

隠れ沼、

は、萬葉集では、

隠(こも)り沼(ぬ)の下(した)ゆ恋(こ)ふればすべをなみ妹(いも)が名告(なの)りつ忌(い)むべきものを(万葉集)、

と、

隠沼(こもりぬ)、

で、「下」にかかる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

隠沼(かくれぬ)、

は、

「こもりぬ(隠沼)」の誤読による語か(精選版日本国語大辞典)、
隠沼(こもりぬ)を誤読して出来た語か(デジタル大辞泉)、
万葉集の「隠沼(こもりぬ)の誤読から生れた語(岩波古語辞典)、

等々とあり、

隠れの沼、

ともいい、

隠れた沼、

つまり、

草などに覆われて上からはよく見えない沼、

をいう(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。

隠沼(こもりぬ)、

の、

ヌ、

は、

ヌマと同じ意味で、複合語に使う形、

とあり(岩波古語辞典)、

埴安(はにやす)の池の堤の隠沼(こもりぬ)の行方を知らに舎人はまとふ(万葉集)、

と、

堤などで囲まれて水が流れ出ない沼、

の意や、

味鳧(あぢ)の住む須沙(すさ)の入江の許母理沼(コモリぬ)のあな息づかし見ず久(ひさ)にして(万葉集)、

と、

草木などが茂っている下に隠れて水の見えない沼、

意で使うが、基本、

流れのとどこおった沼(ぬま)のこと、

をいうhttps://art-tags.net/manyo/eleven/m2441.html)

ぬ(沼)、

は、和名類聚抄(931~38年)に、

沼、奴、

とあり、語源に、

粘滑(ヌメル)の義(大言海)、
ナグの反。波の立たない意(名語記)、
粘り気あるいは水気のある意を表す語幹(国語の語根とその分類=大島正健)、
朝鮮語nop(沼)と同源か(岩波古語辞典)、

等々あるが、はっきりしない。では、

ぬま(沼)、

の語源はというと、天治字鏡(平安中期)

渭、奴萬、

字鏡(平安後期頃)に、

淇、水名、奴萬、

とあり、

沼閒の義か(大言海)、
人の股までぬかるところからヌクマタの義(日本声母伝)、
ナメラマ(滑間)の義(言元梯)、
ヌカルマ(渟間)の義(志不可起)、
ヌメリ(滑)の義(名言通)、
ヌルミヅタメ(滑然水溜)の義、あるいはイネミズタメ(稲水溜)の義(日本語原学=林甕臣)、
水底の泥のさまからヌメ(黏滑)の義(箋注和名抄・日本語源=賀茂百樹)、
ヌはヌルの反で、ヌルキ水の義(名語記)、
雨の降らぬ間も水の有るところからか(和句解)、

等々あるが、付会に過ぎる気がする。上代には、沼を指す語として、

ヌマ、

と、

ヌ、

があるが、

ヌマ、

が、

沼(ぬま)二つ通(かよ)は鳥が巣我(あ)が心二(ふた)行くなもとなよ思はりそね(万葉集)、

と、単独で用いるが、上述のように、

ヌ、

は、

隠沼乃(こもりぬの)、
隠有小沼乃(こもりぬの)、

など、ほとんど複合語中に見られるので、

ヌはヌマの古形、

と考えられる(日本語源大辞典)とある。

「隠」.gif

(「隠」 https://kakijun.jp/page/1427200.htmlより)


「隱」.gif


「隱(隠)」(漢音イン、呉音オン)は、

会意兼形声。㥯の上部は「爪(手)+工印+ヨ(手)」の会意文字で、工形の物を上下の手で、おおいかくすさまを表す。隱はそれに心を添えた字を音符とし、阜(壁や土塀)を加えた字で、壁でかくして見えなくすることをあらわす。隠は工印を省いた略字、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です。「段のついた土山」の象形(「丘」の意味)と「上からかぶせた手の象形と工具の象形と手の象形と心臓の象形」(「工具を両手で覆いかくす」の意味)から、「かくされた地点」を意味する「隠」という漢字が成り立ちました。また、「慇(イン)」に通じ(同じ読みを持つ「慇」と同じ意味を持つようになって)、「いたむ(心配する)」の意味も表すようになりました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1278.html

「沼」.gif


「沼」(ショウ)は、

会意兼形声。刀は、曲線状にそったかたな。召は、手を曲げて招き寄せることで、招の原字。沼は、「水+音符召」で、水辺がゆるい曲線をなしたぬま、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(氵(水)+召)。「流れる水」の象形と「刀の象形と口の象形」(神秘の力を持つ刀をささげながら、祈りを唱えて神まねきをするさまから「まねく」の意味)から、河川の流域が変わって、その結果、水をまねき入れたようにできた「ぬま」を意味する「沼」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1081.html

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:20| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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