2024年06月10日
まれ
君てへば見まれ見ずまれ富士の嶺(ね)のめづらしげなく燃ゆるわが恋(古今和歌集)、
の、
てへば、
は、
といへばの縮まった形、
で、
まれ、
は、
「AまれBまれ」の形で、AであろうとBであろうと、
の意、土佐日記に、
とまれかうまれ、とく破(や)りてむ、
の例がある(仝上)。
まれ、
は、
もあれの約、
で(広辞苑)、
もあれ、
は、
係助詞「も」にラ変動詞「あり」の命令形「あれ」の付いた「もあれ」の変化したもの、
とされ(精選版日本国語大辞典)、
にてもあれ、
の意で(大言海)、多くの場合、
ひとにまれ、鬼にまれ、かへし奉れ(蜻蛉日記)、
と、
…(に)まれ…(に)まれ、
の形で用いられ、
…(で)あろうと、
…でも、
の意となる(仝上・広辞苑)。
なお、
稀、
希、
と当てる、
まれ、
は、
古形マラの転、事の起こる機会や物が少なくて不安定、まばらであるさま。類義語タマサカは、出会いの偶然であるさま、
とあり(岩波古語辞典)、
まれに来て飽きかず別るる織女(たなばた)は立ち歸るべき道なからなむ(新撰万葉集)、
と、
めったにないさま、
の意や、だから、
里はなれ心すごくて、海士の家だにまれになど(源氏物語)
と、
少ないさま、
の意でも使う。この、
まれ、
は、
閒有(まあれ)の約かと云ふ(大言海)、
閒有(まある)の義(言元梯・名言通・和訓栞・国語の語根とその分類=大島正健)、
マは間の義(国語本義)、
など、
マ(閒)、
と絡める説があるが、意味からはそんな気がする。
「稀」(漢音キ、呉音ケ)は、
会意兼形声。希は「爻(交差した糸の模様)+巾(ぬの)」の会意文字で、まばらな織り方をした薄い布。稀は「禾(作物)+音符希」で、穀物のまばらなこと。古典では、希で代用する、
とある(漢字源)。もと、
「希」が{稀}を表す字であったが、「禾」を加えた、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A8%80)。
人生七十古來稀(杜甫・曲江)
と詠われた、「稀」である。
「希」(漢音キ、呉音ケ)は、
会意文字。「メ二つ(まじわる)+巾(ぬの)」で、細かく交差して負った布。すきまがほとんどないことから、微小で少ない意となり、またその小さいすき間を通して何かを求める意となった、
とある(漢字源)。同趣旨だが、
会意。布と、(㐅は省略形。織りめ)とから成り、細かい織りめ、ひいて微少、「まれ」の意を表す。借りて「こいねがう」意に用いる、
とも(角川新字源)、
会意文字です(爻+布)。「織り目」の象形と「頭に巻く布きれにひもをつけて帯にさしこむ」象形(「布きれ」の意味)から、織り目が少ないを意味し、それが転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「まれ」を意味する「希」という漢字が成り立ちました(また、「祈(キ)」に通じ(同じ読みを持つ「祈」と同じ意味を持つようになって)、「もとめる」の意味も表すようになりました)、
ともある( https://okjiten.jp/kanji659.html)が、
糸と糸がまばらに折り重なったさまを象る象形文字が原字で、のち布を表す「巾」を加えて「希」の字体となる。「まばら」を意味する漢語{稀 /*həj/}を表す字。のち仮借して「のぞむ」を意味する漢語{希 /*həj/}に用いる、
と(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B8%8C)、象形文字とする説もある。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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