2024年06月24日

しきしまの


しきしまの大和にはあらぬ唐衣ころも経ずしてあふよしもがな(古今和歌集)、

の、

しきしまの、

は、

「やまと」にかかる枕詞、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

しきしま、

は、

敷島、
磯城島、
志貴嶋、

などと当て、

都を倭(やまと)の国の磯城郡の磯城島に遷す(日本書紀・欽明一年)、

と、

欽明天皇の、大和国、磯城郡、磯城島に、宮居したまへるに起こる、

とある、

大和国磯城郡の地、

で、

崇神・欽明両天皇の宮があったと伝承される地、

とされ、

大三輪町金屋辺り、

とされる(岩波古語辞典・大言海)。

秋津島の如し、

とある(大言海)。これは、

秋津洲、

が、

大和の一地名アキヅ(「秋津」 奈良時代、葛城地方の別名)が広がって日本全国を謂うようになった、

のと同趣ということである(岩波古語辞典・日本歴史地名大系)。この、

しきしま、

の語源は、

イシキシマ(石城島)の義(日本語原学=林甕臣)、
シキシマ(敷版間)の義(柴門和語類集)、
シキはサキ(幸)の転声(和語私臆鈔)、
イザナギ・イザナミの赤白の神が滓を固めて造った國というところから、色嶋の義。また、東夷・南蛮・西戎・北狄の四将軍の城があるところから、四城嶋の義か(古今集注)、

と諸説あるが、はっきりしない。ただ、

敷島、

と当てるのは、

おしなべて今朝の霞の敷島やまともろこし春を知るらむ(続拾遺集)、
敷島の三輪の社の(曾丹集・序)、

など、平安時代の後半と、比較的新しい(日本語源大辞典)ようだ。また、

しきしま、

は、

礒城嶋能(しきしまノ)やまとの国の石上(いそのかみ)ふるの里に紐解かず丸寝(まろね)をすれば(万葉集)、

と、

大和、

かかる枕詞として使われることから広がって、

志貴嶋(シキしまの)やまとの国は言霊(ことだま)の助くる国ぞま幸(さき)くありこそ(万葉集)、

と、

大和国、
日本(やまと)、

の別称として使われる(岩波古語辞典)し、

言ふよりも聞くぞかなしきしきしまの世にふるさとの人やなになり(蜻蛉日記)、

と、大和の国の地名「布留(ふる)」の意で、「布留」と同音の「経る」「古」などにかかり(精選版日本国語大辞典)、さらに転じて、和歌のことを、

敷島(磯城島)の道(みち)、

といい、そころから、

年を経て祈る心をしきしまの道ある御代に神もあらはせ(新後撰)、

と、

「道(方面の意)」と同音の「道」にかかる枕詞としても使われる(仝上)。

「敷」.gif

(「敷」 https://kakijun.jp/page/1543200.htmlより)

「敷」(フ)は、「しきたへ」で触れたように、

会意兼形声。甫(ホ・フ)は、芽のはえ出たたんぼを示す会意文字で、平らな畑のこと。圃(ホ)の原字。旉(フ しく)は、もと「寸(手の指)+音符甫(平ら)」の会意兼形声文字で、指四本を平らにそろえてぴたりと当てること。敷はそれを音符とし、攴(動詞の記号)をそえた字で、ぴたりと平らに当てる、または平に伸ばす動作を示す、

とあり(漢字源・角川新字源)、

会意兼形声文字です(旉+攵(攴))。「草の芽の象形と耕地(田畑)の象形と右手の象形」(「稲の苗をしきならべる」の意味)と「ボクッという音を表す擬声語と右手の象形」(「ボクッと打つ・たたく」の意味)から、「しく」を意味する「敷」という漢字が成り立ちました、

ともある(https://okjiten.jp/kanji1111.html)が、別に、

形声。「攴」+音符「尃 /*PA/」。「しく」を意味する漢語{敷 /*ph(r)a/}を表す字、

とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%95%B7)ある。

「磯」.gif

(「磯」 https://kakijun.jp/page/1724200.htmlより)

「磯」(漢音キ、呉音ケ)は、「」で触れたように、

会意兼形声。「石+音符幾(近い、すれすれ)」で、みずぎわに近い石。また、波にもまれて石がすり減る、

とある(漢字源))。「磯」も、「波打ち際」の意はなく、「水が石に激しく当たる」意であり、海岸の意よりは、「石が流れに現われる川原」の意である。ただ、別に、

形声文字です(石+幾)。「崖の下に落ちている、いし」の象形と「細かい糸の象形と矛(ほこ)の象形と人の象形(「守る」の意味)」(「戦争の際、守備兵が抱く細かな気づかい」、「かすか」の意味だが、ここでは「機(キ)」に通じ(同じ読みを持つ「機」と同じ意味を持つようになって)、「布を織る機械:はた」の意味)から、はたで織り物を織る時のような音のする「いそ」を意味する「磯」という漢字が成り立ちました、

という全く異なる解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji2619.html

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:10| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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