閼伽井(あかい)


朝ごとの閼伽井の水に年暮れてわが世のほどの組まれぬるかな(新古今和歌集)、

の、

閼伽井、

は、

佛に奉る水を汲む井戸、

をいう(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。

汲まれるぬるかな、

の、

汲む、

は、

水の縁語、

とあり、

れ、

は、

自発の助動詞「る」の連用形、

とある(仝上)。

閼伽、

は、梵語、

Arghaの音訳、

価値あるもの、
供え物、

の意(岩波古語辞典)で、

佛に供すべき香水を盛る器、

の名で、

閼伽杯、

などという(大言海)。希麟音義(唐代)に、

閼伽、梵語、卽盛香水杯器之総名也、

とあり、佛祖統紀(南宋)にも、

閼伽、此云器、凡、供養之器、皆称曰阿伽、

慧林音義(784年)にも、

閼伽盛水器也、

とあり、

これが、転じて、

佛に供ふる水、

を、

閼伽水、

をいう(大言海)。

盌(モヒ)が水(モヒ)となり、笥(ケ)が食(ケなりしが如し、

とある(仝上)。で、

閼伽、

は、

功徳水、

と訳し、

阿伽、

とも書き、

阿伽水、
阿伽の水、

ともいうhttp://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E9%96%BC%E4%BC%BDとある。釋名義集(南宋代)に、

阿伽、此云水、

とある。和名類聚抄(931~38年)には、

内典云、閼伽、梵語也、……蒸煮雑香、以其汁供養佛也、

とあり、

香を煮出した香水、

を、

閼伽、

といった(仝上)。で、

閼伽、

は、

塗香(ずこう)・華鬘(けまん)・焼香・飯食(ぼんじき)・灯明と共に本尊に献供する六種供養の一つ、

とされ、観随『蓮門六時勤行式』(1857年)には、

香華灯燭阿伽茶湯は時剋を論ぜず供すべし。阿伽は井花水(朝最初に汲むを云)を善とす、

とあり、

元日・春分の朝に汲む若水はこれにあたる、

とある(仝上)。

二月堂の崖下に建つ閼伽井屋.jpg


閼伽を汲む専用の井戸、

が、

閼伽井、

で、

東大寺二月堂の若狭井、

が有名である(仝上)。その他、

園城寺金堂わきの井、
秋篠寺の閼伽井、

など著名な井戸が現存する(世界大百科事典)。

また、閼伽井の建物、または閼伽棚のための一室を、

閼伽井屋、

といい、閼伽を汲む桶を、

閼伽桶、

というが、これが転じて墓参用の桶をもいうhttp://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E9%96%BC%E4%BC%BD

「閼」.gif

(「閼」 https://kakijun.jp/page/E884200.htmlより)

「閼」(①漢音アツ・呉音アチ・慣用ア、②漢音呉音エン)は、

会意文字。「門+於(つかえてとまる、とどこおる)」、

とあり(漢字源)、遏(アツ)と同義の、ふさぐの意は①の音、漢代匈奴の王単于(ゼンウ)の正妻の称号、閼氏(エンシ)は②の音(アツシとも訓む)、とある(仝上)。

「伽」.gif

(「伽」 https://kakijun.jp/page/0707200.htmlより)

「伽」(慣用カ・ガ、漢音キャ、呉音ギャ)は、「僧伽」で触れたように、

形声。「人+音符加」、梵語のガの音を、音訳するために作られた字。「伽藍」「伽羅」「僧伽」などに使う、

とある(漢字源)。

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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