2024年07月02日

玉箒(たまはばき)


初春(はつはる)の初子(はつね)のけふの玉箒(たまばはき)手に取るからにゆらぐ玉の緒(読人知らず)、

の、

玉箒、

は、

玉を飾りにつけた箒、

で、

玉箒、

の、

タマ、

は、「玉の緒」の「タマ」と同じく、

魂、

で、

タマを掃き寄せる道具、

の意(岩波古語辞典)、

后が養蚕をする際に用いるものとされ、初子の日に辛鋤とともに飾られた、

という(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。

冒頭の新古今和歌集の元歌は、万葉集巻20の、

初春(はつはる)の初子(はつね)の今日(けふ)の玉箒(たまばはき)手に取るからに揺らく玉の緒(始春乃波都祢乃家布能多麻婆波伎手尓等流可良尓由良久多麻能乎)、

という大伴家持の歌である(仝上)。この歌は、天平勝宝二年(750)正月東大寺から献上した玉箒を詠ったもので、辛鋤とともに、正倉院に現存する(岩波古語辞典)。

辛鋤、

は、多分、「犂牛(りぎゅう)」)で触れた、

唐鋤、
犂、

と当て、

柄が曲がっていて刃が広く、牛馬に引かせて田畑を耕すのに用いる、

もので、

牛鍬(うしぐわ)、

ともいい(精選版日本国語大辞典)、

四辺形の枠組をもつこの種の長床犂は、中国から朝鮮半島を経て由来したものと考えられ、わが国古来から用いられた代表的型式の犂である、

とある(農機具の種類)。

初子(はつね)の日、

は、

その月の最初の子(ね)の日、

を言うが、特に、

正月の最初の子(ね)の日、

を言い、「子の日」で触れたように、正月の初めの子の日には、

若菜生ふる野辺といふ野辺を君がため万代しめて摘まんとぞ思ふ(新古今和歌集)、

と、

野外に出て、小松を引き、若菜をつんだ。中国の風にならって、聖武天皇が内裏で宴を行ったのを初めとし、宇多天皇の頃、北野など郊外にでるようになった、

とあり(岩波古語辞典)、古く、初子の日には、

天皇から親王・諸王・臣下に辛(からすき)と玉箒(たまほうき)を賜る行事、

があり、

辛鋤、

は、

田畑を耕すもの、

玉箒、

は、

蚕の床を掃くものもの、

で、

天子と皇后が率先して農耕蚕織をする、

という中国の制度を取り入れた儀礼で、宮中では宴会が行われ、この宴を、

子の日の宴(ねのひのえん)、

といい、

若菜を供し、羹(あつもの)として供御とす、

とあり(大言海)、

士庶も倣ひて、七種の祝いとす、

とある(仝上)。「七草粥」で触れたように、

羹として食ふ、万病を除くと云ふ。後世七日の朝に(六日の夜)タウトタウトノトリと云ふ語を唱へ言(ごと)して、此七草を打ちはやし、粥に炊きて食ひ、七種粥と云ふ、

とある(大言海)、当初は、粥ではなく、

羹(あつもの)、

であり、七草粥にするようになったのは、室町時代以降だといわれる、

子の日に引く小松、

を、

引きてみる子の日の松は程なきをいかでこもれる千代にかあるらむ(拾遺和歌集)、

と、

子の日の松、

といい(仝上)、

小松引き、

ともいい、

幄(とばり)を設け、檜破子(ひわりご)を供し、和歌を詠じなどす、

という(大言海)。

子の日遊び、

は、

根延(ねのび)の意に寄せて祝ふかと云ふ(大言海)、
「根延(の)び」に通じる(精選版日本国語大辞典)、

とある。また、正月の初めの子の日に、

内蔵寮と内膳司とから天皇に献上した若菜、

を、

子の日の若菜(わかな)、

という(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。

玉箒、

は、

玉箒刈り来(こ)鎌麻呂(かままろ)室(むろ)の樹と棗が本(もと)とかきはかむため(万葉集)、

と、

ゴウヤボウキ、
または、
ホウキグサ、

の古名、

だが、上代、

正月初子の日に、蚕室を掃くのに用いた箒の称、

である(広辞苑)。

コウヤボウキ.jpg

(コウヤボウキ https://www.tokyo-shoyaku.com/ohana.php?hana=577より)


ホウキギ(ホウキグサ).jpg

(ホウキギ(別名ホウキグサ) 日本大百科全書)

コウヤボウキ(高野箒)、

の和名は、かつて高野山で竹などの有用植物を植えることを禁じたため、落葉したコウヤボウキの枝を集めて箒をつくったことに由来する、

とありhttps://www.tokyo-shoyaku.com/ohana.php?hana=577

キク科 コウヤボウキ属、

で、

里山や山地の林内、林縁などの乾いた場所に多く生育する落葉小低木で、樹高は50cm程度、日本特産と考えられています。茎は細いながらも木化して固くなり、同一の茎が2年間生きるので、樹木(木本植物)に分類されます、

とある(仝上)。

1年目の茎には葉が互生するが、2年目の茎には1年目の葉がついていた場所に数枚の葉が出るので、大きく印象が異なってしまう。2年目の茎は秋に枯死する。花は1年目の枝の咲きに付き、白~淡紅色。開花期は10月ころで、13個前後の小花からなる、

とあるhttp://www1.ous.ac.jp/garden/hada/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/sympetalae/compositae/kouyabouki/kouyabouki.htm

ホウキグサ、

は、

ほうきぎ(箒木)、

といい、古名、

ハハキギ、

アカザ科の一年草、中国原産。茎は直立して高さ約1メートルとなり、下部から著しく分枝し、枝は開出する。これで草箒(くさぼうき)をつくるのでホウキギの名がある。葉は互生し、倒披針(とうひしん)形または狭披針形で長さ2~4.5センチメートル、幅3~7センチメートル、基部はしだいに狭まり、3脈が目だち、両面に褐色の絹毛がある。雌雄同株。10~11月、葉腋(ようえき)に淡緑色で無柄の花を1~3個束生し、大きな円錐(えんすい)花序をつくる。花被(かひ)は扁球(へんきゅう)形の壺(つぼ)状で5裂し、裂片は三角形、果実期には、花被片の背部に各1個の水平な翼ができて星形となる。種子は扁平(へんぺい)な広卵形で、長さ1.5ミリメートル、

とある(日本大百科全書)。

玉箒(たまばはき)、

は、

たまばわき、

とも訓ませ(デジタル大辞泉)、上述のように、古代、正月の子(ね)の日に、蚕室を掃くのに用いた、

繭(まゆだま)やガラス玉などの玉を飾りつけた箒(ほうき)

を言うが、中国の制に倣い、

帝王が耕作をするのに用いる「辛鋤(からすき)」、

に対し、

皇妃が養蚕をする意味を表すもの、

として、正月の初子(はつね)の日に飾ったのち、臣下に賜い、宴を開いた(日本大百科全書)。また、

箒をつくる草の名、

ということで、

コウヤボウキ、
ホウキグサ、
タムラソウ、
ハコネグサ、

等々の植物の別名としても使われる(仝上・デジタル大辞泉)。

憂いを払うタマバワキ、

といい、憂いを掃き除く意から酒の異名でもある(仝上)。室町時代の意義分類体の辞書『下學集』にも、

掃愁帚、酒異名也、

とあるが、

これは、蘇東坡の、

應呼釣詩鈎、亦號掃愁帚(飲酒詩)、

からきている(大言海)。

玉箒.bmp

(玉箒 精選版日本国語大辞典より)

のちには、

うつくしき玉箒をもち木陰をきよめ給ひ候は(光悦本謡曲「田村(1428頃)」)、

と、

たまを美称、

と見なして、

美しいほうき、

の意に転じる(仝上・精選版日本国語大辞典)。

なお、「ほうき」で触れたように、「ほうき」は、

帚、

とも当てる。

ほうき、

は、玉箒(たまはばき)の、

ハハキの転、

で、

語形としては「十巻本和名抄-四」「色葉字類抄」「観知院本名義抄」などには「ハハキ」とある。節用集や下學集の中には「ハハキ」「ハワキ」とするものがあるが、室町時代には「ハウキ」が優勢となっていた。「日葡辞書」では、「Foqi(ハウキ)」となっている一方、「fauaqigui(ハウキギ)」「tambauaqi」(タマバワキ)などハワキの形も見られる、

とあり(日本語源大辞典)、

ハハキ→ハワキ→ハウキ→ホウキ、

といった変化になろうか。

ははき、

は、

羽掃きあるいは葉掃きか(岩波古語辞典)、
ハハキ(羽掃)の義(箋注和名抄・俚言集覧・和訓栞)、
羽掃(ハハキ)の義、羽箒(ハバウキ)を元とす(大言海)、
落葉を掃き寄せる道具をハハキ(葉掃き)といったのがホホキ・ホフキ・ホウキ(箒)になった(日本語の語源)、

等々とあり、

羽掃き、

葉掃き、

に由来するようだ。

玉箒、

の用途から考えても、

古くは実用的なお掃除道具ということ以上に、神聖なものとして考えられており、箒神(ははきがみ)という産神(うぐがみ、出産に関係のある神様)が宿ると言われていました。日本最古の書物『古事記』には、「玉箒」や「帚持(ははきもち)」という言葉で表現されており、実用的な道具としてではなく、祭祀用の道具であった、

と考えられるhttp://azumahouki.com/know/history/

「帚」.gif


「帚」 甲骨文字・殷.png

(「帚」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B8%9Aより)


「箒」.gif


「帚」(慣用ソウ、漢音シュウ、呉音ス)は、

象形、柄つきのほうきうを描いたもので、巾(ぬの)には関係がない。巾印は柄の部分が変形したもの。掃(ソウ はく)・婦(ほうきをもつ嫁)の字の右側に含まれる、

とある(漢字源)。「箒」(慣用ソウ、漢音シュウ、呉音ス)は、帚の異体字である。

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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