ゆふだすき千歳をかけて足引の山藍の色は変らざりけり(新古今和歌集)、
の、
ゆふだすき、
は、
木綿でつくった襷、
で、
神事をおこなうときにかける、
とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
山藍の色、
は、
神事に着る小忌衣を染める山藍の青い色、
を言い、
青摺(あをずり)、
というとある(仝上)。
青摺、
は、
萩又は露草の花にて衣に色を摺り出す、
という、
宮城野の野守が庵に打つ衣萩が花摺露や染むらむ(壬生集)、
の、
花摺
に対する語(大言海)とされ、
藍摺、
ともいう(仝上)。
山藍を以て、種々なる模様を摺りつけ染めたる衣、
で、上代は、
服著紅紐青摺衣(古事記)、
百官人等、悉給著紅紐之青摺衣服(仝上)、
と、
朝服として、右肩に紅紐(あかひも)を着けた、
とある(仝上)。「朝服」については、「衣冠束帯」で触れた。
後には、
近衛の官人、臨時祭の舞人などの服にせり、
とあり、但し舞人は赤紐を左肩につく(大言海)という。さらに、上述のように、
小忌衣も青摺なり、
とある(仝上)。
山藍、
は、略して、
やまゐ、
ともいい、
トウダイグサ科の多年草、丈40センチ、山野の陰地に自生。葉は長楕円形、雌雄異株。春上部の葉の付け根に緑白色の小花を穂状につける、
とあり(広辞苑)、古は、
此生葉の緑汁を以て、青色を染む、
とあり、これが、小忌衣の、
青摺、
である(大言海)。
(山藍摺 https://irocore.com/yamaaizuri/より)
紅の赤裳すそひきて山藍もて摺れる衣着てただ独りい渡らす子は若草の夫かあるらむ(万葉集)、
とある古い染色法だが、
色落ちが早く、蓼藍(たであい)を使った藍染(あいぞめ)が平安期以降に普及したこともあり、徐々にすたれていきました、
とある(https://irocore.com/yamaaizuri/)が、日本古来の純潔な染料植物として今でも神事に使用され、大切にされている(仝上)とある。
その「青摺」で模様を染めつけた、
小忌衣、
は、
をみのころも、
をみ、
ともいい、
小忌人(をみびと)が神事に奉仕するため、装束の上から着る一重の衣、
で、
形は狩衣に似ており、束帯(そくたい)の袍(ほう)の上、または女房装束の唐衣(からぎぬ)の上に着装する白の麻布製で、身頃(みごろ)には春草、梅、柳、鳥、領(えり)に蝶(ちょう)、鳥などを山藍摺(やまあいずり 青摺)で表す。右肩には赤黒二筋の紐を垂らす。冠には日陰蔓をつける、
とある(岩波古語辞典・日本大百科全書)。「肩衣」については「法被と半纏」で、「袍」については、「衣冠束帯」、「日陰蔓(ひかげのかずら)」については、「さがりごけ」で触れた。
小忌人(をみびと)、
は、
小忌人の木綿(ゆふ)かたかけて行く道を同じ心に誰ながむらむ(公任集)、
と、
小忌の役をする人、
で、
小忌、
とは、
大嘗会(だいじやうゑ)、新嘗祭(しんじやうゑ)などの大祀のとき、とくに厳重に行う斎戒(ものいみ)、
をいい、小忌の役を務める、
をみびと、
も、「をみびと」の着る、
衣、
も、
小忌、
といい(岩波古語辞典)、で、「青摺」は、
小忌摺(おみずり)、
ともいう。
(小忌衣 デジタル大辞泉より)
なお、各種の小忌衣については、次のようになっているようである(https://www.japanesewiki.com/jp/Shinto/%E5%B0%8F%E5%BF%8C%E8%A1%A3.html)。
(諸司小忌(しょしのおみ) 神事に参加する摂政・大臣・公卿・殿上人が束帯の袍の上に着用しました。現代ではこの形式のみ用いられます http://www.kariginu.jp/kikata/1-7.htmより)
(出納小忌(すいのうのおみ) 神事で神殿伺候・御服奉仕などをする近臣が着用。青摺り文様のないものを「如形小忌」と称して神事従事の実務官人が着用しました http://www.kariginu.jp/kikata/1-7.htmより)
(私小忌(わたくしのおみ) 衛府、神祇官、内膳職、主水司などの官人が神事奉仕に着用しました。
私財で誂えるものなのでこの名称があります http://www.kariginu.jp/kikata/1-7.htmより)
私財で誂えるものなのでこの名称があります http://www.kariginu.jp/kikata/1-7.htmより)
(現代の略式小忌衣(袖無型) https://shouzokuten.izutsu.co.jp/catalog/7/137/より)
なお、現代では神社の参拝者が「ちゃんちゃんこ」のような白い衣を服の上にはおり、これを「小忌衣」と呼んでいるようである(http://www.kariginu.jp/kikata/1-7.htm)。
「忌」(漢音キ、呉音ゴ)は、
会意兼形声。己(き)は、はっと目立って注意を引く目じるしの形で、起(はっと立つ)の原字。忌は「心+音符己」で、心中にはっと抵抗が起きて、すなおに受け入れないこと、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(己+心)。「三本の横の平行線を持つ糸すじを整える糸巻き」の象形(「糸すじを整える」の意味)と「心臓」の象形から、心を整える事を意味し、そこから、「かしこまる」、「いむ」を意味する「忌」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1499.html)。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95