2024年07月17日

騂弓(せいきゅう)


三戍漁陽再度遼(三たび漁陽(ぎょよう)を戍(まも)って再び遼(りょう)を度(わた)る)
騂弓在臂箭橫腰(騂弓(せいきゅう)は臂(ひじ)に在り 剣(つるぎ)は腰に横たわる)
匈奴似欲知名姓(匈奴は名姓(めいせい)を知れるが若(ごと)きに似たり)
休傍陰山更射鵰(陰山(いんざん)に傍(そう)て更に鵰(ちょう)を射るを休(や)めよ)(張仲素・塞下曲一)

の、

騂弓、

は、

正しく張った弓、

の意(前野直彬注解『唐詩選』)とあるが、

調子よく張った弓、一説に赤色をいう、

ともあるhttps://kanbun.info/syubu/toushisen422.html

「詩経」小雅・角弓の詩に、

騂騂角弓、翩其反矣(騂騂(せいせい)たる角弓(かくきゅう)は、翩(へん)として其(それ)反(はん)す)

とあるのにもとづく(仝上・前野直彬注解『唐詩選』)。

「騂」.gif


騂弓、

を、

赤い弓、

とするのは、

「騂」(漢音セイ、呉音ショウ)は、

形声。「馬+音符辛(シン)」、あるいは辛(刃物で切る)と同系で、切った血のように赤い意か、

とあり(漢字源)、

あかうま、
やや黄色がかったあかい毛色の馬、

の意で、

騂顔(せいがん)、

というと、

渉筆騂我顔((公文書を書いては)我が顔を騂(あこ)うす)、

と、

顔を赤らめる、

意であるからと思われる。

騂騂(せいせい)、

というと、

弓の調子のいいさま(漢字源)、
弓の工合よく調和させる(字源)、

をいうとあるので、「赤い」という意味は消えているかもしれない。

射鵰、

の、

鵰、

は、

わし、

とある(前野直彬注解『唐詩選』)が、

おおわし、

とあり(字源・漢字源)、

タカ科の大形の猛禽の総称、

ともある(漢辞海)が、

青鵰最俊者、謂之海東青(張融・海賦)、

と、

くまたか、胡地に産する鷲鳥の一。両翼を張れば八九尺に至る。全体羽毛暗褐色、頸後暗赤色、嘴は強大にして鉤の如く曲がり、性鷹よりも猛く、よく犬羊を捕え食う、

とある(字源)。

「鵰」.gif



「雕」.gif

(「雕」 https://kakijun.jp/page/E8B8200.htmlより)

「鵰」(チョウ)は、

会意兼形声。「鳥+音符周(全体にいきわたる)」。全身に羽毛が生えていること、あるいは、全身に力がいきわたることからきた名称、

とある(漢字源)。「鵰」の異字体https://kanji.jitenon.jp/kanjio/7170.html

「雕」(チョウ)は、

中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)では、

形声。「隹(とり)+音符周」、

とある(漢辞海)。

射鵰、

の詩句は、

漢の飛将軍李広が匈奴の鵰を射る射手と遭遇し、大激戦を演じた故事を指す、

とする説、

北斉の将軍斛律光(こくりっこう)が大鵰を射落として弓の上手とうたわれた故事にもとづく、

とする説があり、

匈奴似欲知名姓
休傍陰山更射鵰

の意味も、

匈奴に向かい、鵰を射てまわるような勝手な振舞いをするな、

と解する説、

こちらが鵰を射ると、武芸のほどか敵に知られて警戒されるから、やめるように、

とする説とにわかれるといい、この注釈者は、後者を採り、

全体に李広の故事から発想されたもの、

と見ておく、としている(前野直彬注解『唐詩選』)。『史記』李広伝には、

匈奴大入上郡。天子使中貴人從廣勒習兵擊匈奴。中貴人將騎數十縱、見匈奴三人、與戰。三人還射、傷中貴人、殺其騎且盡。中貴人走廣。廣曰、是必射雕者也。廣乃遂從百騎往馳三人。三人亡馬歩行、行數十里。廣令其騎張左右翼、而廣身自射彼三人者、殺其二人、生得一人。果匈奴射雕者也(匈奴大いに上郡に入る。天子、中貴人(ちゅうきじん)をして広に従い勒(ろく)して兵を習い匈奴を撃たしむ。中貴人、騎数十を将(ひき)いて縦(しょう)し、匈奴三人を見るや、与に戦う。三人還り射て、中貴人を傷つけ、其の騎を殺して且(まさ)に尽きんとす。中貴人、広に走る。広曰く、是れ必ず射雕者(せきちょうしゃ)ならん、と。広乃ち遂に百騎を従え往きて三人に馳(は)す。三人、馬を亡(うしな)い歩行し、行くこと数十里。広、其の騎をして左右の翼(よく)を張らしめ、而うして広身自(みみずか)ら彼の三人の者を射て、其の二人を殺し、一人を生得(せいとく)す。果たして匈奴の射雕者(せきちょうしや)なり)、

とあるので、

漢の将軍李広が匈奴を征伐したとき、鵰を射る名手と遭遇し、二人を殺し一人を生け捕りにした、

という故事を踏まえるhttps://kanbun.info/syubu/toushisen422.htmlというのが正確かもしれない。

李広将軍については、「桃李蹊」、「禿筆」(とくひつ)で触れた。

参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
簡野道明『字源』(角川書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
戸川芳郎監修『漢辞海』(三省堂)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:20| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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