2024年07月21日
剣潭(けんたん)
想象精靈欲見難(精霊(せいれい)を想像し 見んと欲すれども難(かた)し)
通津一去水漫漫(通津(つうしん) 一(ひと)たび去って水漫漫(まんまん)たり)
空餘昔日凌霜色(空しく余す 昔日(せきじつ) 霜を凌ぐ色)
長與澄潭生昼寒(長(とこし)えに澄潭(ちょうたん)と与(とも)に昼寒(ちゅうかん)を生ず)(欧陽詹・題延平剣潭)
のタイトル、
剣潭、
は、
閩江(びんこう)の上流にあった渡し場、
をいう。この辺りは、
剣渓、
と呼ばれ、
延平津、
という渡し場があり、
剣津、
とも呼ばれる(https://kanbun.info/syubu/toushisen428.html・前野直彬注解『唐詩選』)。
晋のころ、雷煥(らいかん)という人が、晋の宰相張華と協力して名剣二口を地中から掘り出し、一つを華に与え、一つを自分が所持した。華は後に殺され、剣は行方知れずとなったが、その後、雷煥(その子とも言う)がその剣を佩(お)びて延平津を渡ったところ、剣は自然と抜け出て、川の中に落ちた。見ると、長さ数丈もある二匹の竜が水中を泳いでいた、
とある。で、これ以後、この川を、
剣渓、
剣潭、
と呼ぶようになった(前野直彬注解『唐詩選』)。
延平(えんぺい)、
は、今の福建省南平市延平区である。『晋書』張華伝には、
煥到縣、掘獄屋基、入地四丈餘、得一石凾。光氣非常、中有雙劍。竝刻題。一曰竜泉、一曰太阿。……遣使送一劍竝土與華、留一自佩。……華誅、失劍所在。煥卒、子華爲州從事。持劍行經延平津、劍忽於腰閒躍出墮水。使人沒水取之、不見劍。但見兩龍各長數丈。蟠縈有文章、沒者懼而反。須臾光彩照水、波浪驚沸。於是失劍(煥、県に到り、獄屋の基を掘り、地に入ること四丈余、一石の函を得たり。光気非常にして、中に双剣有り。並びに題を刻む。一を龍泉と曰い、一を太阿と曰う。……使いを遣わして一剣並びに土を送りて華に与え、一を留めて自ら佩ぶ。……華誅せられ、剣の所在を失う。煥卒(しゅっ)し、子の華、州の従事と為る。剣を持じて行き、延平津を経しとき、剣忽ち腰間より躍り出でて水に堕つ。人をして水に没もぐりて之を取らしむるも、剣を見ず。但だ両竜の各〻長さ数丈なるを見る。蟠縈(はんえい)し文章有り、没(もぐ)りし者懼れて反る。須臾にして光彩水を照らし、波浪驚沸す。是に於いて剣を失う)、
とある(https://kanbun.info/syubu/toushisen428.html)。この名剣は、
干将・莫耶、
とする説もあり、
西晋の雷煥は土中より一対の伝説の神剣「干将・莫耶」を掘り当てた。一本は自らが持ったが、もう一本は張華に送った。やがてふたりは歴史の荒波に殺され、干将莫耶は何処ともなく消えていった、
とある(https://kakuyomu.jp/works/16816700428584992583/episodes/16816700429236754093)。なお、
張華、
については、別に譲る(https://readingnotesofjinshu.com/translation/biographies/vol-36_3)。
剣潭、
は、台湾にもあり、
鄭成功、
が兵士を引き連れて、この池を通過した時、池の中からミズチのような化け物が現れ、風と波を起こし、無数の人々を困らせたそうです。この時、鄭成功が腰に付けていた宝剣を池の中の化け物に投げつけると、池は静かになったと言われています、
とあり(https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/787)、鄭成功の投げた剣で化け物を退治することができたので、、
剣潭、
と呼ばれる(仝上)と。
「潭」(漢音タン、呉音ドン)は、
会意兼形声。覃は「西(ざる)+高の逆形」の会意文字で、そこの深いざる。潭は「水+音符覃(深い)」で、水を深くたたえたふちのこと。深く下に垂れたのを「沈々」と形容するが、その沈や深に近く、ずっしりと分厚い意を表す、
とある(漢字源)。別に、
形声。「水」+音符「覃 /*LƏM/」(説文解字(後漢・許慎)・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%BD%AD)、
と、形声文字とする説もある(漢辞海)。
参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
戸川芳郎監修『漢辞海』(三省堂)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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