2024年07月22日

大荒


平沙落日大荒西(平沙(へいさ)の落日 大荒(たいこう)の西)
隴上明星高復低(隴上(ろうじょう)の明星(めいせい) 高く復た低し)
孤山幾處看烽火(孤山(こざん) 幾処(いくしょ)か烽火(ほうか)を看(み))
戰士連營候鼓鼙(戦士 営(えい)を連ねて鼓鼙(こへい)を候(うかが)う)(張子容・水調歌第一畳)

の、

平沙、

は、

広く平らな砂漠、

の意、

沙、

は、「砂」と同じhttps://kanbun.info/syubu/toushisen448.htmlとある。

平沙落雁、

というと、

干潟に降り立つ雁の群れのこと、

をいい、

中国の山水画の伝統的画材である瀟湘八景(瀟湘地方の八つの景勝。山市晴嵐・漁村夕照・遠浦帰帆・瀟湘夜雨・煙寺晩鐘・洞庭秋月・平沙落雁・江天暮雪)の中の一つ、

であるhttps://yoji.jitenon.jp/yojib/945.html

平沙落雁図(牧谿).jpg

(平沙落雁図(牧谿) https://qiuyue7.blogspot.com/2011/12/2011-12-11.htmlより)

大荒、

は、

世界のはて、

の意、古くから、

都を中心として同心円状に世界を五分し、『書経』益稷篇に、

惟荒度土功、弻成五服、至于五千(毎服、五百里、四方相距ること、五千里なり)

とあるように、

五服、

と名づける観念があり、その最も外側の、

王畿より離れること二千里より二千五百里に至る地(字源)、

を、

荒服、

と呼んだことからきている(前野直彬注解『唐詩選』)。塞外の地は、文化の及ばぬところで、

荒服、

と意識されていた(仝上)とある。

五服(ごふく)、

は、上古、

王畿を中心として、其四方、周囲五百里づつ距(さ)りたる、五つの地域、

を称し、王畿の周圍なる五百里の地を、

甸(でん)服、

と云ひ、其の外圍なる五百里を、

侯服、

と云ひ、其の外圍を、

綏(すい)服、

其の外圍を、

要服、

其の外圍を、

荒服、

といった(大言海)。

甸(でん)服、

の地が最も王城に接し、

荒服、

の地が最も遠くなる。『書経』禹貢篇には、

五百里荒服、三百里蠻、二百里流(五百里は荒服、三百里は蛮(ばん)、二百里は流(りゅう))、

ともあるhttps://kanbun.info/syubu/toushisen448.html。『山海経』大荒西経には、

大荒之中有山、名曰大荒之山。日月所入(大荒の中うちに山有り、名づけて大荒の山と曰う。日月の入る所なり)、

とある(仝上)。

「荒」.gif

(「荒」 https://kakijun.jp/page/0963200.htmlより)

「荒」(コウ)は、

会意兼形声。亡(モウ・ボウ)は、ない、何も見えないの意、巟(コウ)は、何も見えないむなしい川。荒はそれを音符とし、艸を加えた字で、みのりの作物が何もない、むなしいの意、

とある(漢字源)。なお、

「荒󠄁」は「荒」の旧字、「𠯚」「𠃤」は「荒」の古字、「𫟎」は「荒」の俗字、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8D%92。別に、

会意兼形声文字です。「並び生えた草」の象形と「人の死体に何か物を添えた象形と大きな川の象形」(「大きな川のほか何もない」の意味)から、「あれはてた草のほか何もない」意味する「荒」という漢字が成り立ちました、

ともhttps://okjiten.jp/kanji1203.htmlあるが、

形声。「艸」+音符「巟 /*MANG/」。「手つかずの土地」「あれはてる」を意味する漢語{荒 /*hmaang/}を表す字、

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8D%92

形声。艸と、音符巟(クワウ)とから成る。耕す人のいないあれ地、ひいて、あれはてる意を表す、

も(角川新字源)、形声文字とする。

参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:22| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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