2024年07月28日
初地
竹逕従初地(竹逕 初地(しょち)に従い)
蓮峰出化城(蓮峰 化城(けじょう)を出す)(王維・登弁覚寺)
の、
化城、
は、
佛が衆生を導いて行く時、途中で疲れると、方便によって、前方に町を現出せしめるので、衆生はまた元気を取り戻し、前進するという、その幻の町のこと、
という。ここでは、
弁覚寺の建物をそれに喩えたもの、
とある(前野直彬注解『唐詩選』)。
初地、
は、
菩薩の十地のうち、第一段階の地、
をいう。つまり、
仏果を得るための入口、
で、ここではそれを、
寺の入口、
にかけていったもの(仝上)とある。
化城(けじょう)、
は、
神通力をもって化作した城郭、
の意(精選版日本国語大辞典)で、
法華経に説く七喩、
の一つ、「法華義疏」に、
第三従道師多諸方便以下。名為設化城譬、
とある、
大乗の究極のさとりを宝所にたとえて、そこに達する途中の、遠くけわしい道で、人々が脱落しないよう一行の導師が城郭を化作して人々を休ませ、疲労の去った後、さらに目的の真実の宝所に導いたというたとえ、
で、
大乗の涅槃(ねはん)に達する前段階としての小乗方便の涅槃、
をいう(仝上)とある。「妙法蓮華経」化城喩品第七に、
譬えば五百由旬の険難悪道の曠かに絶えて人なき怖畏の処あらん。若し多くの衆あって、此の道を過ぎて珍宝の処に至らんと欲せんに、一りの導師あり。聡慧明達にして、善く険道の通塞の相を知れり(導師の譬)。
衆人を将導して此の難を過ぎんと欲す。所将の人衆中路に懈怠して、導師に白して言さく、我等疲極にして復怖畏す、復進むこと能わず。前路猶お遠し、今退き還らんと欲すと。導師諸の方便多くして、是の念を作さく、此れ等愍むべし。云何ぞ大珍宝を捨てて退き還らんと欲する。是の念を作し已って、方便力を以て、険道の中に於て三百由旬を過ぎ、一城を化作して、衆人に告げて言わく、汝等怖るることなかれ、退き還ること得ることなかれ。今此の大城、中に於て止って意の所作に随うべし。若し是の城に入りなば快く安穏なることを得ん。若し能く前んで宝所に至らば亦去ることを得べし。是の時に疲極の衆、心大に歓喜して未曾有なりと歎ず。我等今者斯の悪道を免れて、快く安穏なることを得つ。是に衆人前んで化城に入って、已度の想を生じ安穏の想を生ず。
爾の時に導師、此の人衆の既に止息することを得て復疲倦無きを知って、即ち化城を滅して、衆人に語って、汝等去来宝処は近きに在り。向の大城は我が化作する所なり、止息せんが為のみと言わんが如し(将導の譬)
とある(https://www.kosaiji.org/hokke/kaisetsu/hokekyo/3/07.htm)、
方便力を以て、険道の中に於て三百由旬を過ぎ、一城を化作して、衆人に告げて言わく、汝等怖るることなかれ、退き還ること得ることなかれ。今此の大城、中に於て止って意の所作に随うべし、
のことである。
世の中を厭ふまでこそかたからめかりの宿りを惜しむ君かな(西行)、
の、
仮の宿り、
は、
宿を借りる意、
だが、法華経化城喩品第七に説く、
この世は仮の宿で、虚妄である、
という、
化城の比喩、
の意を込めている(久保田淳訳注『新古今和歌集』)とある。この歌の返しが、
世を厭ふ人とし聞けばかりの宿に心とむなと思ふばかりぞ(遊女妙)、
と、
現世を厭離した人が、仮の宿に執着なさるな、
と返している(仝上)。
七喩、
は、
「三草二木」、「窮子(ぐうじ)」で触れたように、法華経に説く、
七つのたとえ話、
で、
法華七譬(しちひ)、
ともいい、
化城、
を説く、
化城宝処(けじょうほうしょ、化城喩品)、
の他、
三草二木(さんそうにもく)、
三車火宅(さんしゃかたく、譬喩品 「大白牛車(だいびゃくぎっしゃ)」でも触れた)
長者窮子(ちょうじゃぐうじ、信解品 「窮子」で触れた)
衣裏繋珠(えりけいじゅ、五百弟子受記品)
髻中明珠(けいちゅうみょうしゅ、安楽行品)
良医病子(ろういびょうし、如来寿量品)
がある。
初地(しょじ)、
は、
菩薩の修行の最上の十段階である十地(じゅうじ)の第一、
である、
歓喜地(かんぎじ)、
をいう(精選版日本国語大辞典)。「十住経」に、
もし衆生あって、厚く善根を集め、諸の善行を修め、よく助道の法を集め、諸仏を供養し、諸の清白の法を集め、善知識に護られ、深広の心に入り、大法を信楽し、心多く慈悲にむかい、好んで仏智を求めるならば、このような衆生はよく阿耨多羅三藐三菩提心(無上正真道意)をおこすであろう。一切種智を得るがための故に(為得一切種智故)、十力を得るがための故に(為得十力)、大無畏を得るがための故に‥‥菩薩はこのような心をおこすのである。この無上正真道意すなわち無上道心をおこすとき衆生は直ちに凡夫地をこえて菩薩位に入り、菩薩道を展開する身となる。これを歓喜地(初地)に入るという、
とある(http://www.wikidharma.org/index.php/%E3%81%97%E3%82%87%E3%81%98)。
十地(じゅうじ)、
は、
大乗の菩薩が菩提心を発してから仏道修行を積み、仏果を獲得するまでの階位、
をいい、
菩薩が修行して経過すべき 52位の段階のうち第 41位から第 50位までの10位、
をいうが、
諸経論によって階位の数や名称、開合の仕方が異なり、思想史的な発展も認められる。中国仏教において一般的に用いられるのは『菩薩瓔珞本業経』に説かれる、
十信・十住(習種性)・十行(性種性)・十回向(道種性)・十地(聖種性)・等覚(等覚性)・妙覚(妙覚性)、
であり、
十信以下を外凡(げぼん)、十住以上を内凡(ないぼん)とし、十住・十行・十回向を三賢(さんげん)、十地を十聖、
とよび、あわせて、
三賢十聖、
という(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E8%8F%A9%E8%96%A9%E3%81%AE%E9%9A%8E%E4%BD%8D)とある。階位の詳目は、十信位は、
①信心②念心③精進心④慧心⑤定心⑥不退心⑦回向心⑧護心⑨戒心⑩願心、
十住位は、
①発心住②治地住③修行住④生貴住⑤方便住⑥正心住(しょうしんじゅう)⑦不退住⑧童真住(どうしんじゅう)⑨法王子住⑩灌頂住、
十行位は、
①歓喜行②饒益(にょうやく)行③無瞋恨(むしんこん)行④無尽行⑤離痴行⑥善現行⑦無著行⑧尊重行⑨善法行⑩真実行、
十回向位は、
①救護一切衆生離相回向心(くごいっさいしゅじょうりそうえこうしん)②不壊(ふえ)回向心③等一切仏回向心④至一切処回向心⑤無尽功徳蔵回向心⑥随順平等善根回向心⑦随順等観一切衆生回向心⑧如相回向心⑨無縛解脱回向心(むばくげだつえこうしん)⑩法界無量回向心、
十地は、
①四無量心(歓喜地)②十善心(離垢地)③明光心(発光地)④焰慧心(烙慧地)⑤大勝心(難勝地)⑥現前心(現前地)⑦無生心(遠行地)⑧不思議心(不動地)⑨慧光心(善慧地)⑩受位心(法雲地)、
で、さらに等覚(入法界にゅうほっかい心)、妙覚(寂滅心)となる(仝上)。
十地、
は『菩薩瓔珞本業経(ぼさつようらくほんごうきょう)』などに説かれる大乗菩薩の階位(十信・十住・十行・十回向・十地・等覚・妙覚)であり、この位に入って無明を断じて真如を証し、誓願と修行を完成させることを、
十地願行(じゅうじがんぎょう)、
という(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E5%8D%81%E5%9C%B0%E9%A1%98%E8%A1%8C)。善導『往生礼讃』には、
専ら名号を称すれば、西方に至ると。彼しこに到れば華開きて妙法を聞き、十地の願行自然に彰あらわる、
とあり、極楽浄土に往生すれば十地の願行の徳が自然にそなわっていくことを説いている。これは四十八願中の第二二・必至補処の願にもとづく内容である(仝上)という。当然、
十地、
は、仏のさとりをうるまでの修行段階を言うので、
亦大僧等、徳は十地に侔(ひと)しく、道は二乗に超えたり(霊異記)、
と、
菩薩、
の意味でも使う(精選版日本国語大辞典)。
なお、「菩薩」については「薩埵」で、法華経については、「法華経五の巻」で触れた。
「化」(漢音カ、呉音ケ)は、「化生」で触れたように、
左は倒れた人、右は座った人、または、左は正常に立った人、右は妙なポーズに体位を変えた人、いずれも両者を合わせて、姿を変えることを示した会意文字、
とある(漢字源)が、別に、
会意。亻(人の立ち姿)+𠤎(体をかがめた姿、又は、死体)で、人の状態が変わることを意味する、
とか(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%8C%96)、
会意形声。人と、𠤎(クワ 人がひっくり返ったさま)とから成り、人が形を変える、ひいて「かわる」意を表す。のちに𠤎(か)が独立して、の古字とされた、
とか(角川新字源)、
指事文字です。「横から見た人の象形」と「横から見た人を点対称(反転)させた人の象形」から「人の変化・死にさま」、「かわる」を意味する「化」という漢字が成り立ちました、
とか(https://okjiten.jp/kanji386.html)とある。
参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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