まだき


わが袖にまだき時雨のふりぬるは君が心にあきや來ぬらむ(古今和歌集)、
あかなくにまだきも月の隠るるか山の端(は)逃げて入れずもあらなむ(仝上)、

の、

まだき、

は、

まだその時期ではないのに、
はやくも、

の意(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)とある。

まだき、

は、

夙、
豫、

と当て(広辞苑・大言海)、

ある時点を想定して、それに十分には達していない時期・時点、

を指し、

まだその時期にならないうち、
早くから、
もう、

の意味で使い(広辞苑・日本語源大辞典・岩波古語辞典)、

単独で、または「に」を伴って、

早くも、
早々と、

の意で副詞的に用いることが多い(精選版日本国語大辞典・日本語源大辞典)。

室町時代編纂のいろは引きの国語辞典『運歩色葉集(うんぽいろはしゅう)』には、

速、マダキ、

とある。この語源は、

マダ(未)・マダシ(未)と同根か(岩波古語辞典)、
「未(ま)だし」と関連ある語か(デジタル大辞泉)、
「まだし(未)」のク活用形を想定し、その連体形から転成した語(角川古語大辞典・精選版日本国語大辞典)、
マダキは、急ぐの意の、マダク(噪急)の連用形(大言海)、
イマダシキ(未如)の義(名言通)、
イマダハヤキの義(日本釈名)、

等々あるが、

朝まだき

という場合は、

夜明けを基点として、まだそこに至らないのに、既にうっすらと明けてきた、

という含意のように見受けられる。

朝+マダキ(まだその時期が来ないうちに)、

で(日本語源広辞典)、

未明を指す、

とあるので、極端に言うと、まだ日が昇ってこないうちに、早々と明るくなってきた、というニュアンスになる。

まだき、

と同根ともされる、

まだし

は、

未だし、

と当て、

まだその期に達しない、

意から、転じて、

なからまではあそばしたなるを末なんまだしきと宣(のたま)ふなる(蜻蛉日記)、

と、

まだ整わない、
まだ十分でない、

意で使い(広辞苑)、

琴・笛など習ふ、またさこそは、まだしきほどは、これがやうにいつしかとおぼゆらめ(枕草子)、

と、

未熟である、

意や(学研全訳古語辞典)、

この君はまだしきに、世の覚えいと過ぎて(源氏物語)、

と、

年齢などが十分でない、
幼い、

意となる(岩波古語辞典)。こうした用例から見ると、この由来は、

いまだし(未)の上略、待たしきの義(大言海)、
副詞まだ(未)の形容詞形(岩波古語辞典・角川古語辞典)、
副詞「いまだ」の形容詞化(デジタル大辞泉)、

などとあり、

未だ→まだ→まだし、

と転化した(日本語の語源)と見ていいのではないか。

「夙」.gif


「夙」(漢音シュク、呉音スク)は、「夙に」で触れたように、

会意。もと「月+両手で働くしるし」で、月の出る夜もいそいで夜なべすることを示す、

とあり(漢字源)、「夙昔(シュクセキ)」と「昔から」の意、「夙興夜寝、朝夕臨政」と、「朝早く」の意である(仝上)。別に、

会意文字です(月+丮)。「欠けた月」の象形(「欠けた月」の意味)と「人が両手で物を持つ」象形(「手に取る」の意味)から、月の残る、夜のまだ明けやらぬうちから仕事に手をつけるさまを表し、そこから、「早朝から慎み仕事をする」、「早朝」を意味する「夙」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2302.html

「豫」.gif

(「豫」 https://kakijun.jp/page/yo16200.htmlより)


「予」.gif

(「予」 https://kakijun.jp/page/0439200.htmlより)

「豫(予)」(漢音・呉音ヨ)は、「予」は、

象形。まるい輪をずらせて向うへ押しやるさまを描いたもので、押しやる、伸ばす、のびやかなどの意を含む。杼(ジョ 横糸を押しやる織機の杼(ひ))の原字と考えてもよい。豫・預・野(ヤ 広く伸びた原や畑)・舒(ジョ 伸ばす)・抒(ジョ 伸ばす)などの音符となる。代名詞(予(われ))に当てたのは仮借である、

「豫」は、

会意兼形声。「象(ゾウ のんびりしたものの代表)+音符予(ヨ)」で、のんびりとゆとりをもつこと、

とある(漢字源)。別に、「予」は、

象形。機(はた)の横糸を通す杼(ひ)の形にかたどる。「杼(チヨ)」の原字。杼を横に押しやることから、ひいて「あたえる」意を表す。借りて、自称の代名詞に用いる、

「豫」は、

形声。意符象(ぞう)と、音符予(ヨ)とから成る。原義は、大きな象。借りて、まえもって準備する意に用いる、

とも(角川新字源)、

「予」は、

象形文字です。「機織りの横糸を自由に走らせ通すための道具」の象形から、「のびやか、ゆるやか」を意味する「予」という漢字が成り立ちました。また、「こちらから向こうへ糸をおしやる事から、「あたえる」の意味も表すようになりました、

「豫」は、

会意兼形声文字です(予+象)。「機織りの横糸を自由に走らせ通す為の道具」の象形(「伸びやか」の意味)と「(ゆっくり行動する動物)象」の象形から「伸びやかに・ゆっくりと楽しむ」、「あらかじめ」、「ゆとりをもって備える」を意味する「豫」という漢字が成り立ちました、

ともhttps://okjiten.jp/kanji546.htmlあり、いずれも、「予」と「豫」の由来を別とし、「予」が先行と見ている。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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