住の江のまつほど久(ひさ)になりぬれば葦鶴(あしたづ)の音になかぬ日はなし(古今和歌集)、
の、
葦鶴、
は、
もともと葦の生えた水辺にいる鶴の意味だったが、古今集時代には、鶴の歌語。鶴も長寿の鳥として、しばしば松とともに詠まれた、
とあり、
松は、常緑であることによって、長い時間を連想させる、
とある。(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
葦鶴、
は、
葦の生えている水辺によくいるところ、
から、
鶴の異名、
だが(学研全訳古語辞典・精選版日本国語大辞典)、
葦鶴の、
は、
鶴(つる)が鳴くように泣く、
の意から、
君に恋ひいたもすべ無み蘆鶴之(あしたづの)ねのみし泣かゆ朝夕(あさよひ)にして(万葉集)、
住江のまつほど久になりぬればあしたづのねになかぬ日はなし(古今和歌集)、
と、
ね泣く、
にかかる枕詞である(仝上)。
葦蟹、
葦鴨、
も、
同様に、
葦辺に居るに因りて、呼び馴れたる語なり、
とある(大言海)。
あしたづ、
の、
たづ、
は、
「万葉集」では「たづ」は「つる」に対する歌語として使われていたと考えられ、平安時代以降もそれは変らない。「あしたづ」の例も基本的には歌語と認められ、歌学書にも鶴の異名として登録される、
とある(日本語源大辞典)。
あし、
は、
葦、
蘆(芦)、
葭、
と当てる、
イネ科の多年草。水辺に群生し、根茎は地中を長くはい、茎は中空の円柱形で直立し、高さ二~三メートルに達する。葉は長さ約五〇センチメートルの線形で縁がざらついており、互生する。秋、茎頂に多数の小花からなる穂をつける。穂は初め紫色で、のち褐色にかわる。若芽は食用となり、茎は葭簀(よしず)材や茅葺き屋根、製紙の原料になる。根茎は漢方で蘆根(ろこん)といい、煎汁(せんじゅう)は利尿、止血、解毒などのほか、嘔吐(おうと)をおさえるのにも用いられる、
とあり(精選版日本国語大辞典・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%82%E3%81%97)、
安之(アシ)の葉に夕霧たちて鴨がねの寒きゆふへしな(汝)をばしのはむ(万葉集)、
と、
悪し、
と発音が同じため、後世、
ヨシ、
と言い換えられて定着し、学術的に用いられる和名もヨシとなっている(仝上)。
あし、
の由来は、
初めの意のハシの義。天地開闢の時、初めて出現した神の名をウマシアシカビヒコヂノ神といい、国土を葦原の国といった日本神話に基づく(日本釈名・言葉の根しらべの=鈴木潔子)、
水辺の浅い岸にはえる草であるところから、アサ(浅)の転語(和訓集説・碩鼠漫筆)、
アシ(脚)で立つことのできる垂井にるということでアシ(脚)の転(語源辞典・植物篇=吉田金彦)、
アはアラの反、未だ田となっていない意のアラシ(荒)の転(名語記)、
アシ(編繁)の義から(日本語源=賀茂百樹)、
アシ(弥繁)の義(言元梯)、
アアト云フホドシゲルモノであるから(本朝辞源=宇田甘冥)、
ア+シ(及)、あとからあとから生えるものの意(日本語源広辞典)、
等々あるが、はっきりしない。ただ、
早く記紀など、日本神話で葦原の中つ国が日本の呼称として用いられたり、『万葉集』から数多く詠まれ、とくに難波(なにわ)の景物として知られていて(日本大百科全書)、語感ほどの悪いイメージはない。
「葦」(イ)は、
会意兼形声。「艸+音符韋(イ まるい、丸く取巻く)」。茎が丸い管状をなし親株を中心にまるくとりまいた形をして繁る草、
とある(漢字源)。また、
会意兼形声文字です(艸+韋)。「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「ある場所を示す文字とステップの方向が違う足の象形」(ある場所から別方向に進むさまから、「そむく、群を抜いて優れている」の意味)から、穂が出て他の草とは違って飛びぬけて高い「あし(水辺に生じる多年草)」を意味する「葦」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2236.html)が、
形声。「艸」+音符「韋 /*WƏJ/」、
と、形声文字とする説もある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%91%A6)。
「蘆」(漢音ロ、呉音ル)は、
会意兼形声。「艸+音符盧(ロ うつろな、丸い穴があく)、
とある(漢字源)が、他は、
形声。艸と、音符盧(ロ)とから成る(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%98%86・角川新字源)、
形声文字です(艸+戸(盧))。「並び生えた草」の象形と「虎の頭の象形と土地の神を祭る為に柱状に固めた土の象形と角ばった土の塊の象形と食物を盛る皿の象形」(「轆轤(ろくろ)を回して作った飯入れ」の意味だが、ここでは、「旅」に通じ(同じ読みを持つ「旅」と同じ意味を持つようになって)、「連なる」の意味)から、連なり生える草「あし」を意味する「芦」(「蘆」の略字)という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji2680.html)、
と、形声文字としている。
(「葭」 中国最古の字書『説文解字』 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%91%ADより)
「葭」(漢音カ、呉音ケ)は、
会意兼形声。「艸+音符叚(上からかぶさる)」
とある(漢字源)が、別に、
形声。「艸」+音符「叚 /*KA/」。「アシ」を意味する漢語{葭 /*kraa/}を表す字、
と(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%91%AD)、形声文字とする説もある。
なお、「葦」と「葭」の違いは、
アシの生えはじめ(漢辞海)、
葦のまだ穂のを出していないもの(説文解字)、
葦の未だ秀でざる者(字源)、
を、
葭、
生長したものを、
葦、
という(漢辞海)とあり、
葦未秀者為蘆(大載禮)、
と、
葦の未だ秀でざるものを、
蘆、
という(字源)らしいので、
蘆、
と
葭、
の意味は重なる。しかし、
蘆花、
とはいうが、
葦花、
とは言わない。
「鶴」(漢音カク、呉音ガク)は、「鶴髪」で触れたように、
会意兼形声。隺(カク)は、鳥が高く飛ぶこと、鶴はそれを音符とし、鳥を加えた字。確(固くて白い石)と同系なので、むしろ白い鳥と解するのがよい、
とある(漢字源)。別に、
会意形声。鳥と、隺(カク)(つる)とから成る(角川新字源)、
会意兼形声文字です(隺+鳥)。「横線1本、縦線2本で「はるか遠い」を意味する指事文字と尾の短いずんぐりした小鳥の象形」(「鳥が高く飛ぶ」の意味)と「鳥」の象形から、その声や飛び方が高くて天にまでも至る鳥「つる」を
意味する「鶴」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji2168.html)、
などともある。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
戸川芳郎監修『漢辞海』(三省堂)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95