海人(あま)の刈る藻にすむ虫のわれからと音をこそなかめ世をばうらみじ(古今和歌集)、
の、
われから、
は、
海藻などに棲みつく小さな節足動物、
とあり、
我から、
を掛ける(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
沖つ波うつ寄するいほりしてゆくへさだめぬわれからぞこは(古今和歌集)、
の、
われから、
も、
虫の名の「割殻」と「我から」を掛けている(仝上)。
(トゲワレカラ(日本大百科全書より)
われから、
は、
割殻、
破殻、
と当て(広辞苑・デジタル大辞泉)、
軟甲綱端脚目ワレカラ科 Caprellidaeに属する種類の総称、
とあるが、
端脚(ヨコエビ)目ワレカラ亜目 Caprellidea、
を総称してワレカラと呼ぶこともある(ブリタニカ国際大百科事典・日本語源大辞典・広辞苑)。
500種以上知られており、全て海産、特に岩礁の海藻やコケムシ類・ヒドロムシ類などに付着して生活、定置網の間などにもいる、
とある(仝上)。
身体はきわめて細い円筒状で、シャクトリムシに似て、体長1~4センチメートル前後。頭部と7胸節からなる。胸部は7節からなり、第3、4節を除く各節から細長い付属肢が一対ずつ伸びる。第2節のものははさみ状。前足は特に大きくカマキリに似る。頭部・腹部は小さく、胸部の後6節が著しく伸長。多くの種で第4・5節には胸部付属肢はない。身体を屈伸して運動する、
という(仝上・デジタル大辞泉)。ワレカラ科Caprellidaeに属するものを呼ぶことが多いとされ、ワレカラ科は日本からは約60種知られ、たとえば、
マルエラワレカラCaprella acutifrons、
は、体長1~3cm。えらは円形。体色はすむ海藻などで異なる。浅海の海藻や定置網の漁網などに着き、ふつうに見られる。
クビナガワレカラC.aequilibra、
は、体長1cm内外。世界的に広く分布し、日本各地で見られる。
オオワレカラC.kroeyeri、
は、北方系で、ワレカラ中最大、体長6cmくらいになる。
ワレカラモドキProtella gracilis、
は、
浅海のヒドロ虫や海藻の間にすみ、体長2cmくらい(世界大百科事典)とある。
われから、
の和名は、
割れ殻、
の意で(岩波古語辞典)、
乾くにしたがいその体が割れるから、
という(広辞苑・デジタル大辞泉・日本語源大辞典)。
「殼(殻)」(漢音カク、呉音コク)は、
会意兼形声。「殳(動詞の記号)+音符壳(貝がらをひもでぶらさげたさま)」で、かたいからを、こつこつたたくこと、
とあり(漢字源)、
会意兼形声文字です(壳+殳)。「中が空になっている物」の象形と「手に木のつえを持つ」象形(「うつ・たたく」の意味)から、「たたいて実を取り出した、から」を意味する「殻」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1416.html)が、
形声。「殳」+音符「𡉉 /*KOK/」。「たたく」「うつ」を意味する漢語{殼 /*khrook/}を表す字。のち仮借して「から」を意味する漢語{殼 /*khrook/}に用いる(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%AE%BC)、
形声。殳と、音符(カウ)→𡉉 (カク)(壳は変わった形)とから成る。上から下へ打ちおろす意を表す。借りて「から」の意に用いる(角川新字源)、
も、形声文字としている。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95