2024年08月02日

われから


海人(あま)の刈る藻にすむ虫のわれからと音をこそなかめ世をばうらみじ(古今和歌集)、

の、

われから、

は、

海藻などに棲みつく小さな節足動物、

とあり、

我から、

を掛ける(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

沖つ波うつ寄するいほりしてゆくへさだめぬわれからぞこは(古今和歌集)、

の、

われから、

も、

虫の名の「割殻」と「我から」を掛けている(仝上)。

トゲワレカラ.jpg

(トゲワレカラ(日本大百科全書より)

われから、

は、

割殻、
破殻、

と当て(広辞苑・デジタル大辞泉)、

軟甲綱端脚目ワレカラ科 Caprellidaeに属する種類の総称、

とあるが、

端脚(ヨコエビ)目ワレカラ亜目 Caprellidea、

を総称してワレカラと呼ぶこともある(ブリタニカ国際大百科事典・日本語源大辞典・広辞苑)。

500種以上知られており、全て海産、特に岩礁の海藻やコケムシ類・ヒドロムシ類などに付着して生活、定置網の間などにもいる、

とある(仝上)。

身体はきわめて細い円筒状で、シャクトリムシに似て、体長1~4センチメートル前後。頭部と7胸節からなる。胸部は7節からなり、第3、4節を除く各節から細長い付属肢が一対ずつ伸びる。第2節のものははさみ状。前足は特に大きくカマキリに似る。頭部・腹部は小さく、胸部の後6節が著しく伸長。多くの種で第4・5節には胸部付属肢はない。身体を屈伸して運動する、

という(仝上・デジタル大辞泉)。ワレカラ科Caprellidaeに属するものを呼ぶことが多いとされ、ワレカラ科は日本からは約60種知られ、たとえば、

マルエラワレカラCaprella acutifrons、

は、体長1~3cm。えらは円形。体色はすむ海藻などで異なる。浅海の海藻や定置網の漁網などに着き、ふつうに見られる。

クビナガワレカラC.aequilibra、

は、体長1cm内外。世界的に広く分布し、日本各地で見られる。

オオワレカラC.kroeyeri、

は、北方系で、ワレカラ中最大、体長6cmくらいになる。

ワレカラモドキProtella gracilis、

は、

浅海のヒドロ虫や海藻の間にすみ、体長2cmくらい(世界大百科事典)とある。

われから、

の和名は、

割れ殻、

の意で(岩波古語辞典)、

乾くにしたがいその体が割れるから、

という(広辞苑・デジタル大辞泉・日本語源大辞典)。

「殻」.gif



「殼」.gif

(「殼」 https://kakijun.jp/page/9F76200.htmlより)

「殼(殻)」(漢音カク、呉音コク)は、

会意兼形声。「殳(動詞の記号)+音符壳(貝がらをひもでぶらさげたさま)」で、かたいからを、こつこつたたくこと、

とあり(漢字源)、

会意兼形声文字です(壳+殳)。「中が空になっている物」の象形と「手に木のつえを持つ」象形(「うつ・たたく」の意味)から、「たたいて実を取り出した、から」を意味する「殻」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji1416.htmlが、

形声。「殳」+音符「𡉉 /*KOK/」。「たたく」「うつ」を意味する漢語{殼 /*khrook/}を表す字。のち仮借して「から」を意味する漢語{殼 /*khrook/}に用いるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%AE%BC

形声。殳と、音符(カウ)→𡉉 (カク)(壳は変わった形)とから成る。上から下へ打ちおろす意を表す。借りて「から」の意に用いる(角川新字源)、

も、形声文字としている。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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