2024年08月03日

しながどり


しなが鳥猪名(ゐな)野をゆけば有馬山ゆふ霧立ちぬ宿はなくして(新古今和歌集)、

の、

しなが鳥、

は、

猪名(ゐな)にかかる枕詞、

とあり、

猪名野、

は、

摂津國の枕詞、現在の兵庫県伊丹市を中心に、川西市・尼崎市にまたがる猪名川流域の地、

とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。この原歌は、萬葉集の、

しなが鳥猪名野を来れば有馬山夕霧立ちぬ宿りはなくて(一本に云ふ、猪名の浦廻(うらみ)を漕ぎ来れば)、

とある(仝上)。

しなが鳥、

は、

息長鳥、

と当て、

カイツブリの別名、

つまり、

にほどり

とも(広辞苑・大言海)、あるいは、

ひどりがも(緋鳥鴨)の異名、

とも(精選版日本国語大辞典)、また歌語としては、

イノシシの異名、

ともあり(日葡辞書)、枕詞としては、

雌雄が居並ぶからともいい、シリナガドリ(尻長鳥)の約と見て、それが「居る」の意からとも、また雌雄が率ゐる(相率いる)意からとも言い、

大海(おほうみ)にあらしな吹(ふ)きそしなが鳥(どり)猪名(ゐな)の港(みなと)に舟(ふね)泊(は)つるまで(万葉集)、

と、同音を持つ地名、

猪名(いな)、

に、また、水に潜って出てきたときの息をつぐ声から、

しなが鳥 安房(あは)に継ぎたる 梓弓(あづさゆみ) 末(すゑ)の珠名(たまな)は 胸別(むなわけ)の ひろき吾妹(わぎも)(万葉集)、

と、

あは(安房)、

にかかる(仝上・デジタル大辞泉・岩波古語辞典)。

猪名野(摂津名所図会) .jpg

(猪名野(いなの)(摂津名所図会) https://saigyo.sakura.ne.jp/inano.htmlより)

しながどり、

の、

し、

は、

息(いき)、

此の鳥、水底より浮び出て阿阿と息つきの長き意、

とあり(大言海)、

し(息)、

は、

複合語になった例だけ見える、

とあり、また、

しな(科長)戸の風の天の八重雲吹き放つ事の如く(祝詞・大祓詞)、

と、

風、

の意もある(岩波古語辞典)。

カイツブリ.jpg


かいつぶり、

については、「にほどり」で触れたように、

鳰(にお)、
鸊鷉(へきてい)、
鸊鵜(へきてい)、
かいつむり、
いっちょうむぐり、
むぐっちょ、
はっちょうむぐり、
息長鳥(しながどり)、

等々とも呼び、室町時代、

カイツブリ、

と呼ぶようになる。

「息」.gif

(「息」 https://kakijun.jp/page/1095200.htmlより)

「息」(漢音ショク 呉音ソク)は、

会意文字。「自(はな)+心」で、心臓の動きにつれて、鼻からすうすうといきをすることを示す。狭い鼻孔をこすって、いきが出入りすること。すやすやと平静にいきづくことから、安息・生息の意となる。また、生息する意から、子孫をうむ→むすこの意ともなる、

とある(漢字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%81%AF・角川新字源)。

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

【関連する記事】
posted by Toshi at 03:32| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください