2024年08月16日

たむけ草


逢ふことをけふ松が枝のたむけ草幾夜しをるる袖とかは知る(新古今和歌集)、

の、

たむけ草、

は、

幣帛、

とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。

たむけ草、

は、

手向草、

とあて、

たむけぐさ、
たむけくさ、

と訓ませ、

くさ、

は、

種、料、

で(精選版日本国語大辞典)、

手向けにする品物、

の意だが、

旅人が行路の安全を祈るために神に供える、布・糸・木綿など、

をいう(広辞苑)とあるので、

ぬさ

で触れた、

竜田姫たむくる神のあればこそ秋の木の葉のぬさと散るらめ(古今和歌集)、
秋の山紅葉をぬさとたむくれば住むわれさへぞ旅心地する(仝上)、
神奈備の山を過ぎゆく秋なれば竜田川にぞぬさはたむくる(仝上)、

の、

幣、

と当てる、

ぬさ、

のことで、

布や帛を細かく切ったもので、旅人は、道の神の前でこれを撒くもの、

である(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

手向け、

は、下二段の動詞、

たむく(手向)、

の名詞だが、

手向く、

自体が、

来栖の小野の萩の花散らむ時にし行きてたむけむ(万葉集)、

と、

神仏や死者の霊に物を捧げる、

意があり、それが転じて、

と、

道中の安全を祈って峠の神に幣(ぬさ)をなどを供える、
旅立つ人に幣などを贈る、

意となり、

老いぬともまたも逢はんとゆく年に涙の玉をたむけつるかな(新古今和歌集)、

と、

旅立つひとにはなむけする、

意として使われるに至る。だから、その名詞、

手向け、

も、

ももたらず八十隈坂に手向(たむけ)せば過ぎにし人にけだし逢はむかも(万葉集)、

と、

神仏に幣(ぬさ)など供え物をすること、また、その供え物、

の意で、多く、旅人などが道の神に対して供える場合にいい(精選版日本国語大辞典)、

畏(かしこ)みと告らずありしをみ越路の多武気(タムケ)に立ちて妹が名告りつ(万葉集)、

と、

道の神に旅中の安全を祈るところ。特に、越えて行く山路の登りつめたところ、

の意で、だから、

峠(とうげ)、

は、手向け(たむけ)の転、

である。さらに、シフトして、

あだ人のたむけにをれる桜花逢ふ坂まではちらずもあらなむ(後撰和歌集)、

と、

旅立つ人へのはなむけ、餞別、

の意で使う(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。

たむけぐさ、

の意となる、

ぬさ

は、

麻・木綿・帛または紙などでつくって、神に祈る時に供え、または祓(はらえ)にささげ持つもの、

の意で、

みてぐら、
にぎて、

ともいい、共に、

幣、

とも当てる。

ぬさ

は、

祈總(ねぎふさ)の約略なれと云ふ、總は麻なり、或は云ふ、抜麻(ぬきそ)の略轉かと(大言海)、

とあり、「ねぎふさ」に、

祈總(ねぎふさ)を当てるもの(国語の語根とその分類=大島正健・日本語源広辞典)、

抜麻(ねぎふさ)を当てるもの(雅言考)、

があり、「抜麻」を、

抜麻(ねぎあさ)と訓ませるもの(日本語源広辞典・河海抄・槻の落葉信濃漫録・名言通・和訓栞・本朝辞源=宇田甘冥)、

があり、その他、

ヌはなよらかに垂れる物の意。サはソ(麻)に通じる(神遊考)、
抜き出してささげる物の義(本朝辞源=宇田甘冥)、
ユウアサ(結麻)の略(関秘録)、

等々、その由来から、「ぬさ」が、元々、

神に祈る時に捧げる供え物、

の意であり、また、

祓(ハラエ)の料とするもの、

の意で、古くは、

麻・木綿(ユウ)などを用い、のちには織った布や帛(はく)も用い、或は紙に代えても用いた、

とあり(大言海・精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉他)、

旅に出る時は、種々の絹布、麻、あるいは紙を四角に細かく切ってぬさぶくろに入れて持参し、道祖神の神前でまき散らしてたむけた、

とある(精選版日本国語大辞典)。後世、

紙を切って棒につけたものを用いるようになる、

とある(仝上)。ただ、

神に捧げる供物、

をいう、

ぬさ、

と、本来は、供物の意味をもたない、

しで(四手)、
みてぐら、

との混同が起こったと考えられている(精選版日本国語大辞典)。ただし、

ぬさ、

は、普通、

旅の途上で神に捧げる供物、

をいうのに対して、

みてぐら、

は必ずしも旅に関係しないという傾向が見られる(仝上)。

神に祈る時にささげる供え物、

である、

ぬさ、

は、

麻・木綿(ゆう)・紙、

等々で作り、後には、

織った布や帛(はく)、

も用いたが、旅に出る時は、

種々の絹布、麻、あるいは紙を四角に細かく切ってぬさぶくろに入れて持参し、道祖神の神前でまき散らしてたむけた、

とある(仝上)。このため、

みちの国の守平のこれみつの朝臣のくだるに、ぬさのすはまの鶴のはねにかける(貫之集)、

と、「ぬさ」は、

旅立ちの時のおくりもの、
餞別、
はなむけ、

の意ともなる(仝上)。

手向の神(たむけのかみ)、

は、

礪波(となみ)山多牟気能可味(タムケノカミ)に幣(ぬさ)奉り吾が乞ひ祈(の)まく(万葉集)、

と、

旅人が幣(ぬさ)などを手向けて道中の安全を祈る神、

をいい、

山の峠や坂の上などにまつってある神、
道祖神、
たむけの道の神、
たむけの山の神、
たむけ、

を言う(精選版日本国語大辞典)が、

ぬさ」で触れたように、

道の神、

つまり、

道祖神、

のことで、

さえの神、

とも、訛って、

道陸神(どうろくじん)、

ともいい、

世のいはゆる道陸神(どうろくじん)と申すは、道祖神とも又は祖神とも云へり。(中略)和歌にはちぶりの神などよめり(百物語評判)、

と、

ちぶりの神、

ともいう、

旅の安全を守る神、

であり、

行く今日も帰らぬ時も玉鉾のちぶりの神を祈れとぞ思ふ(鎌倉時代の歌学書『袖中抄(しゅうちゅうしょう)』)、

とある。

「手」.gif

(「手」 https://kakijun.jp/page/0453200.htmlより)

「手」 金文・西周.png

(「手」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%89%8B

「手」(漢音シュウ、呉音ス・シュ)は、

象形。五本の指のある手首を描いたもの、

とある(漢字源)。ただ、

象形。五本指のある手を象る。「て」を意味する漢語{手/*hluʔ/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%89%8B)

象形。手のひらを開いた形にかたどり、「て」、また、手に取る意を表す(角川新字源)、

象形文字です。「5本の指のある手」の象形からhttps://okjiten.jp/kanji2862.html

と微妙な差がある気がする。

「向」.gif

(「向」 https://kakijun.jp/page/0647200.htmlより)

背向(そがい)」で触れたように、「向」(漢音コウ、呉音キョウ)は、

会意。「宀(屋根)+口(あな)」で、家屋の北壁にあけた通気口を示す。通風窓から空気が出ていくように、気体や物がある方向に進行すること、

とある(漢字源)。別に、

会意。「宀」(屋根)+「口」(窓 又は 窓に供えた神器)、

ともありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%90%91、さらに、

象形文字です。「家の北側に付いている窓」の象形から「たかまど」を意味する「向」という漢字が成り立ちました。「卿(キョウ)」に通じ、「むく」という意味も表すようになりました、

との解釈もあるhttps://okjiten.jp/kanji487.html

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:57| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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