2024年08月26日
雁信
郷書何處達(郷書 何れの處にか達せん)
歸雁洛陽邊(歸雁 洛陽の邊(ほとり))(王湾・次北固山下)、
の、
帰雁(きがん)、
は、
漢の蘓武が匈奴(フン族)への使者となり、先方ら抑留されたとき、漢の天子が御苑で猟の折に、蘓武からの手紙を足に巻いた白雁を得た。それを証拠に匈奴を追求したので、蘓武は帰国できたという。これから、雁はたよりを伝えるものとして、詩文に用いられるようになった、
とある(前野直彬注解『唐詩選』)。
「玉づさ」(玉梓、玉章)で触れたが、
秋風に初雁が音ぞ聞こゆなる誰が玉づさをかけて来つらむ(古今和歌集)、
の、
たまづさ、
は、万葉集では、
たまづさの、
という形で、
使ひ、
にかかる枕詞であり、さらに、
使者そのもの、
の意味になったが、古今集から、
使者が携えてくる手紙、
の意となる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)と注記がある。
雁はたよりを伝える、
は、上記、『漢書』蘇武傳の、
昭帝即位數年、匈奴與漢和親、漢求武等、匈奴詭言、武死……常惠教漢使者謂單于言、天子射上林中得雁、足有係帛書、言武等在某澤中、使者大喜、如惠言以譲單于、單于視左右、而驚謝漢使曰、武等實在、
の、
雁書、
の故事により(字源)、
帛書、
ともいい、
若向三湘逢雁信、
莫辞千里寄漁翁(温庭筠)
と、
雁信、
ともいう(仝上)。
雁信、
の、
信、
は、
信書、
私信、
風信、
などとも言うように、
手紙、
たより、
の意の、
音訊(おんしん)、
の、
訊(シン)に当てた用法、
とあり(漢字源)、
音信、
の意(仝上)である。また、
雁札(がんさつ)、
雁文、
雁素(がんそ)、
雁足(がんそく)、
雁帛(がんぱく)、
かりのたより、
等々ともいい、
音信の書、
手紙、
の意で使う(仝上・精選版日本国語大辞典)。ただ、
雁字の書、
ともいい、江戸中期『夏山雑談』(小野高尚)は、
蘓武の故事にあらず、雁行の列の正しきを、文書にたとへたるなり、其證、古詩に多し
との主張もある(大言海)。雁は、
候鳥(こうちよう)で、秋には南に渡り春には北に帰るところから、中国では遠隔の地の消息を伝える通信の使者と考えられ、雁信、雁書の説が生まれた、
とあり(世界大百科事典)、
雁行、
云々より、
渡り鳥、
の特徴から、逆に、
雁信、
雁書、
の伝説が生まれたというのが正確かもしれない。
なお、「雁」については、触れた。
「鴈(鳫)」(漢音ガン、呉音ゲン)は、「雁股の矢」で触れたように、
会意兼形声。厂(ガン)は、厂型に形の整ったさまを描いた字。鴈は「鳥+人+音符厂」。厂型に整った列を組んで渡っていく鳥。礼儀正しいことから人が例物として用いたので、「人」を添えた。「雁」と同じ、
とあり(漢字源)、「雁」(漢音ガン、呉音ゲン)は、
会意兼形声。厂(ガン)は、かぎ形、直角になったことをあらわす。雁は「隹(とり)+人+音符厂」。きちんと直角に並んで飛ぶ鳥で、規則正しいことから、人に会う時に礼物に用いられる鳥の意を表す、
とある(仝上・角川新字源)。別に、
会意兼形声文字です(厂+人+隹)。「並び飛ぶ」象形と「横から見た人」の象形と「尾の短いずんぐりした(太っていて背が低い)小鳥」の象形から「かりが並び飛ぶ」事を意味し、そこから、「かり」を意味する「雁」という漢字が成り立ちました。(「横から見た人」の象形は、人が高級食材として贈る事から付けられました。現在、日本ではたくさん捕り過ぎて数が減った為、狩猟は禁止されています。)、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2779.html)。
参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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