2024年08月29日
あまびこ
あまびこのおとづれじとぞ今は思ふわれか人かと身をたどる世に(古今和歌集)、
の、
あまびこ、
は、
やまびこ、
の意で、
例の少ない語、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
あまびこ、
は、
天彦、
と当てる(岩波古語辞典)が、
天響、
とも当て(大言海)、
ヒコは、ヒビキの略転(曽孫(ヒヒコ)、ひこ。常磐(トキハ)、とこは。引きつらふ、ひこつらふ)、虚空に響く音の意、
とあり(大言海)、他に、
虚空の響きなりと云へり、顕昭は、山彦と同じと云へり(和訓栞)、
ヒコ(彦 日子)は男神に対する称、神霊の所為と考えての名(冠辞考続貂)、
ともあるが、一説に、
天人、
ともある(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)ので、
虚空の響き、
を、天人のせいと考えて、
天彦、
と名付けたとも考えられる。ただ、日葡辞書(1603~04)には、
アマビコガコタユル、
とあり、後に、
木霊、
やまびこ、
と見なされていたことがわかる。「こだま」「山彦」については、「こだま」については触れたが、
こだま、
は、
木+タマ(魂・霊)、
やまびこ、
を、
やまひこ、
と訓ませると、
山+ヒコ(精霊・彦・日子)、
となり、
天彦、
も、それと似て、
天+ヒコ、
と、そこに、
神霊、
を見たということは考えられる。
なお、
天彦の(あまびこの)、
は、冒頭の歌のように、
「あまびこの音」というつづきで同音の「おと」をふくむ動詞「おとづる」および地名「音羽(おとは)」にかかる、
枕詞として使われる(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
「彦」(ゲン)は、
会意兼形声。厂(ガン)は、厂型にくっきりとけじめのついたさま。彦は「文(模様)+彡(模様)+音符厂」で、くっきりと浮き出た顔の男、
とあり(漢字源)、
会意兼形声文字です(文+厂+彡)。「人の胸を開いて、そこに入れ墨の模様を書く」象形(「模様」の意味)と「削り取られた崖」の象形と「長く流れる豊かでつややかな髪」の象形(「模様・飾り」の意味)から、崖から得た鉱物性顔料の意味を表し、それが転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、それを用いる「美青年」、「才徳のすぐれた男子」、「男子の美称」を意味する「彦」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1730.html)が、
かつて会意文字と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BD%A5)、
形声。「彡」(模様)+音符「产 /*NGAN/」(仝上)、
形声。意符彣(ぶん)(あや)と、音符厂(カン)→(ゲン)とから成る。美しい男の子、転じて、優れた青年の意を表す(角川新字源)、
と、形声文字とする。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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