2024年09月11日

桜麻


桜麻のをふの浦波たちかへり見れどもあかず山梨の花(新古今和歌集)、

桜麻の、

は、

「をふ」の枕詞、

で、

をふの浦波、

の、

をふの浦、

は、

伊勢国の歌枕、

とあり(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、

現在の三重県鳥羽市浦村町に入り込んでいる海を生浦(おおのうら)湾と呼び、この地はかつて古今集・東歌に、

おふのうらに片枝さしおほひなる梨のなりもならずも寝て語らはん、

と歌われた梨の木と伝えられる木が境内にある片枝梨神社も存したという。それによれば志摩国の歌枕となる、

とある(仝上)。なお、

生浦(おうのうら)、

は、

志摩国の斎宮(いつきのみや)の庄、

といわれ(精選版日本国語大辞典)、梨を献じた(仝上)とある。ちなみに、

をふ、

は、

桜麻のをふの下草茂れただあかで別れし花の名なれば(新古今和歌集)、

とあり、

麻畑(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、

あるいは、

麻の生えている地

とある(広辞苑)。枕詞、

桜麻の、

は、万葉集の、

桜麻乃(さくらあさノ)苧原(をふ)の下草露しあれば明かしてい行け母は知るとも、

などの、

桜麻乃、
桜麻之、

を訓んだもので、

麻と苧(お)とが同義であるところから、「おふ(苧生=麻の生えている所、麻畑)」にかかる、

が、その他、冒頭の、

さくらあさのをふのうら浪立ちかへり見れども飽かず山なしの花(新古今和歌集)、

と、

「苧生(おふ)」と同音の地名「おふの浦」、

にかかり、さらに、

さくらあさのかりふのはらをけさ見れば外山かたかけ秋風ぞ吹く(曾丹集)、

と、

桜麻を刈る意で、「刈る」と同音を持つ地名「かりふの原」、

にかかる。ただ、

さくらをのをふの下草やせたれどたとふばかりもあらずわが身は(古今和歌六帖)、

と、「古今六帖」(976~87頃)には、

さくらをのをふのしたくさ、

と見え、

契沖以来、「さくらをの」とよむ説も多い。「新古今」以後の勅撰集に、いくらかの用例を見るが、多くは、「さくらあさのをふのしたくさ」と続いている。実体不明のまま、歌語として受け継がれたものであろう、

とある(精選版日本国語大辞典)。しかし、

麻、

を、

を、

と訓ませる根拠はある。和名類聚抄(931~38年)に、

麻苧、乎(ヲ)、一云阿佐、

とあり、

を、

は、

苧、

とも当て、

アサの古名(広辞苑)、

あるいは、

アサの異称(岩波古語辞典・大言海)、

とある。

桜麻、

という名は、

花が薄紅色で桜のような五弁であるところから、

とも、

桜の咲く頃に種子をまくところから、

ともいう(精選版日本国語大辞典)とあるが、万葉集古義(江戸末期)に、

櫻麻は、櫻の咲く頃、蒔くものなる故に云ふ、と云へり、

とあり、

櫻鯛、櫻雨の類なるべし、

とし(大言海)、

麻の種は陰暦三月の頃に蒔く、

からだとし(仝上)、

雄麻(ヲアサ)の一名、

とする(仝上・精選版日本国語大辞典)

なお、「さくら」については触れた。

「櫻」.gif

(「櫻(桜)」 https://kakijun.jp/page/sakura21200.htmlより)

「櫻(桜)」(漢音オウ、呉音ヨウ)は、

会意兼形声。嬰(エイ)は「貝二つ+女」の会意文字で、貝印を並べて首に巻く貝の首飾りをあらわし、とりまく意を含む。櫻は「木+音符嬰」で、花が気をとりまいて咲く木、

とあり(漢字源)、

会意兼形声文字です(木+嬰)。「大地を覆う木」の象形と「子安貝・両手を重ねひざまずく女性」の象形(女性が「首飾りをめぐらす」の意味)から、首飾りの玉のような実を身につける「ゆすらうめ」を意味する「桜」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji305.htmlが、

形声。木と、音符嬰(エイ)→(アウ)とから成る。木の名。日本では、「さくら」の意に用いる(角川新字源)、

と、形声文字とする説もある。

さくら」で触れたことだが、

我が国では、「さくら」に当てる「桜(櫻)」だが、中国では、花が木を取り巻いて咲く、

ゆすらうめ、

を指す。中国では、「さくら」は、「桜花」(インホア)という(漢字源・字源)。

ユスラウメ、

は、

中国原産で、日本へは江戸初期に渡来した。高さ約三メートル。葉は短柄をもち倒卵形で縁に鋸歯(きょし)があり、裏面に縮れた毛を密生する。春、葉に先だち白または淡紅色の小さな五弁花を開く。果実は径一センチメートルぐらいの球形で六月頃赤熟し甘味、酸味がほどよく合い生食される、

とある(精選版日本国語大辞典)。漢名に、

英桃、
毛桜桃、

を用いる(仝上)とある。

ユスラウメ.jpg

(ユスラウメ 日本大百科全書より)

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:57| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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