仏名
時過ぎて霜に消えにし花なれどけふは昔の心地こそすれ(朱雀院御歌)、
の詞書の、
仏名の朝(あした)に、削り花を御覧じて、
の、
仏名、
は、
仏名会(ぶつみやうゑ)、
のことで、
御仏名、
ともいい(広辞苑)、
十二月十五日、後には十九日から三日間、朝廷で行われた、諸仏の名号を唱えて罪障を懺悔する法会、
とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
削り花、
は、
円い木を削りかけて花弁のようにしたもので、生花の代りとする、
が、これについては、「めどに削り花」で触れた。
時過ぎて、
とあるのは、仏名の翌朝なので、
削り花が飾られる時節が過ぎての意に、退位して自身の時代が過ぎての意を籠める、
とある(仝上)。
仏名、
というと、
佛の名号、
をいい(広辞苑)、
南無阿弥陀仏、
南無薬師如来、
といった、
六字名号、
南無不可思議光如来(なむふかしぎこうにょらい)、
という、
九字名号、
帰命尽十方無碍光如来(きみょうじんじっぽうむげこうにょらい)
といった、
十字名号、
等々がある(https://kyonoreijo.sakura.ne.jp/lib/nb/libnb6-10mg.htm)。ちなみに、サンスクリット語のnamas(ナマス)の漢訳が、
帰命、
音写が、
南無、
なので、「帰命」と「南無」は全く同じ意味、
尽十方、
は、
あらゆる場所、
無碍光、
は、
何物にも遮られない仏の発する智慧や救済力の光、
という意味で、
尽十方無碍光如来、
は、
阿弥陀仏、
を指す(仝上)。
十方、
は、
東・南・西・北・上・下・四維(東北・東南・西南・西北の総称、
で、
この10の方向がすべての方角を意味する
とある(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E5%8D%81%E6%96%B9)。
仏名会、
は、
御佛名(ミブツミヤウ)、
とも、
佛名懺悔、
千佛会、
三千仏名会、
などともいい(大言海)、
禁中の公事、
として、
朝廷や諸国に寺院で行われた法会で、仏名経を誦んで、三世(過去・現在・未来の三つの世)十方の三千仏の名号を唱えてその年の罪障を懺悔する、
もので、
毎年十二月十五日から十七日まで三日間行うのが普通であったが、後には十九日から三夜となり、更に、一夜となった、
とある(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。もともとは、釈尊の成道(成仏得道)に合わせて一二月六日から八日にかけて修されることから、
朧(ろう)月仏名、
朧八仏名、
ともいい、『年中行事秘抄』(1239年)によると
光仁天皇の宝亀五年(七七四)に始まったもので、承和二年(八三五)宮中での恒例の儀式となり、同一三年には諸国においてもこれを修するように発令された、
とある(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E4%BB%8F%E5%90%8D%E4%BC%9A)。これは、『仏名経』に、
若し善男子・善女人、諸の仏名を受持し読誦すれば、是の人は現世安穏にして諸難を遠離し、及び諸罪を消滅し、未来に当に阿耨多羅三藐三菩提(あのくたらさんみゃくさんぼだい)を得べし。若し善男子、善女人、諸罪を消滅せんと欲せば、当に浄く洗浴して、新しき浄衣を著し長跪(ちょうき)合掌して、是の言を作すべし、
とあることに基づいている(仝上)。今日、
増上寺では一二月一〇日から一二日に、知恩院では一二月二日から四日に、京都嵯峨清凉寺では一二月六日から八日に行っている、
とある(仝上)。
仏名経(ぶつみょうきょう)、
は、
諸仏の名号を受持し、その功徳によって懺悔滅罪すべきことを説く経典、
で、数種の異訳があるが、現在、毎年歳末に行われている仏名会では『三千仏名経』(『三劫三千諸仏名経』)三巻を依本とする(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E4%BB%8F%E5%90%8D%E7%B5%8C)とある。
「佛」(①漢音フツ・呉音ぶつ・ブチ、②漢音ホチ・呉音フツ)は、
形声。「人+音符弗(フツ)」で、よく見えない意を含む。ブッダに当てたのは、音訳で原義とは関係がない。「仏」の字は、宋・元のころから民間で用いられた略字、
とあり(漢字源)、「ほとけ」の意の場合、①の音、「仿仏(彷彿 ホウフツ)」のように、ぼやけて見える意の場合②の音となる(仝上)。別に、
形声。「人」+音符「弗 /*PƏT/」。擬態語「彷彿」の第二音節を表す字。のち仮借して「佛陀」(梵語 Buddha より)の第一音節を表す(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BD%9B)、
形声。人と、音符弗(フツ)とから成る。ぼんやりとしている意を表す。梵語(ぼんご)buddhaの音訳に仏陀(ぶつだ)が用いられてから、「ほとけ」の意に用いる。教育用漢字は佛の異体字による(角川新字源)、
ともある。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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