2024年09月24日

くれのおも


来(こ)し時と恋ひつつをれば夕暮れの面影にのみ見えわたるかな(古今和歌集)、

は、

夕暮れの面影、

に、

くれのおも、

を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

くれのおも、

は、

呉の母、
懐香、

と当て(広辞苑・デジタル大辞泉)、

セリ科の多年草、ウイキョウ(茴香)の古名、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918年編纂)に、

ウイキヤウ、一名懐芸、一名懐香、久禮乃於毛、

とあり、和名類聚抄(931~38年)も同じ、

とある(大言海)。

ウイキョウ.jpg

(ウイキョウ デジタル大辞泉より)

呉、

とは、

呉(くれ)の國よりの移植なり(茴香は、地中海沿岸の原産なりと云ふ)、

の故で、

おも、

は、

藝(ウン)の呉音、ヲンの転なり(烏帽子(えぼし)、焉帽子(えんぼうし)。ねもごろ、ねんごろ。寡(やもめ)、やむめ)、草の香(芸草)などと、音訓、混成したる、同趣の語にして、莖、葉、共に香気あること、芸香(クサノカウ)に同じ、

とある(大言海)が、

ウン、

の音は、

漢音、

の例外のようである(漢辞海・https://kanji.jitenon.jp/kanji/493.html)。

ウイキョウ、

は、

茴香、
懐香、

と当て、

セリ科の多年草、南ヨーロッパ原産の栽培種。高さ二メートルに及ぶものもある。葉は大きくて、糸状に細かく裂け、コスモスの葉に似る。夏、枝先に黄色い五弁の小花が球状にかたまって咲き、秋、卵形をした楕円形の実がなる。茎、葉、実ともに香りがあり、香味料となる、

とあり、実は、

健胃剤や、痰(たん)をきる薬とし、せっけんなどの香料、

ともする(精選版日本国語大辞典)。

中国へは4、5世紀に西域から伝わり、日本へは9世紀以前に中国から渡来した、

とされる(日本大百科全書)。

「呉」.gif

(「呉」 https://kakijun.jp/page/0746200.htmlより)

「呉」(漢音ゴ、呉音グ)は、「呉牛」で触れたように、

会意。「口+人が頭をかしげるさま」。人が頭をかしげて、口をあけ笑いさざめくさまを示し、娯楽の娯の原字。古くから国名に当てる、

とある(漢字源)。別に、

口と、夨(しよく 頭をかたむけた人)とから成り、顔をそむけるほどの大声の意を表す、

ともある(角川新字源)。ただ、口を開けて笑うさま(藤堂明保)とは別に、

祭器を担いで踊る様(白川静)、

との解釈もあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%91%89ので、

象形文字です。「頭に大きなかぶりものをつけて、舞い狂う」象形から「やかましい」、「はなやかに楽しむ」を意味する「呉」という漢字が成り立ちました、

との説になるhttps://okjiten.jp/kanji1685.html

「茴」.gif

(「茴」 https://kakijun.jp/page/E4A0200.htmlより)

「茴」(漢音カイ、呉音エ・ウイ)は、

会意兼形声。「艸+音符回(まるい)」、

とあり(漢字源)、茴香に当てる。実が楕円形のためかと思われる。

別に、

形声、声符は回(かい)。香(ういきよう)は香草。〔玉〕に「香なり」とみえる。また懐香ともいう。字はもとに作る、

と(字通)、形声文字とする説もある。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:17| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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