磯馴松
風吹けば波越す磯の磯馴(そなれ)松ねにあらわれて泣きぬべらなり(古今和歌集)、
の、
磯馴(そなれ)松、
は、
磯馴れ松の約、
で、
風に吹かれて幹や枝が一方に傾いた松、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
「水馴木(みなれぎ)」で触れたが、
磯馴(そなれ)、
は、
動詞「そなる(磯馴)」の連用形の名詞、
であり(精選版日本国語大辞典)、
潮風のために木が地面に低くなびいて、傾き生えること、
をいい、
そな(磯馴)る、
の「そ」は、
いそ(磯)」の変化したもの、
で、
荒磯の波にそなれて這ふ松はみさごのゐるぞたよりなりける(山家集)、
と、
下二段活用の自動詞、
で、
海岸の木が風波に順応し、磯を這うような姿になる、
意で(岩波古語辞典)、
普通に、磯馴松と書けば、ソはイソの略などと見て、濱邊の磯に馴れたる松のやうに思ふ人あれど、風にも云へれば、山風、濱風に副ひ馴るる意の語なり、
とある(大言海)のは、そんな含意である。
いそな(磯馴)れる、
というと、
下一段活用の自動詞、
で、
礒なれし松も見らるるねはんかな(白雄句集)、
と、
強い潮風のために樹木が地面になびいて生え延びる、
意である(精選版日本国語大辞典)。
そな(磯馴)る、
は、
見慣れ磯馴れて別るる程は(源氏物語)、
と、
見慣れ磯馴れ、
の形で、
長年馴れ親しむ、
意だが、
「見慣れ」に「水馴れ」を掛け、単に語調を合わせるために「磯馴れ」と続けたにすぎない、
とある(岩波古語辞典)。
海岸などに傾き生えている木、
を、
磯馴(そな)れ木、
といい、
海岸などに傾き生えている松、
を、
磯馴(そな)れ松、
という(仝上)。
磯馴松(そなれまつ)、
は、
潮風に曝されるため背が低くなっている松、
とか、
潮風に晒されたために傾いて生えた松、
をいう(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%9D%E3%81%AA%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%A4)が、冒頭のように、
風ふけば波こすいそのそなれまつ根にあらはれてなきぬべら也(「古今六帖(976~87)」)、
とあるので、
海の強い潮風のために枝や幹が低くなびき傾いて生えている松、
というところ(精選版日本国語大辞典)だろう。
「馴」(漢音シュン、呉音ジュン)は、「水馴木」で触れたように、
会意兼形声。「馬+音符川」で、川が一定のすじ道に従ってながれるように、馬が従いなれること、
とある(漢字源)。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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